第2話 性教育ってどうよ
人は誰でも不公平な生存を強いられるものだ。
本来、不平等に生まれつくから、理想として平等を目指すだけだ。
あと10年足らずで2000年を迎える、そんな時代になっても
この国は男女不平等がまかりとおっていた。
子どもの世界は強い者が優位で、弱肉強食とまでは言わないまでも
体の大きい男子がクラスを牛耳っていた。
掃除時間になっても男子は遊び呆けていて、いくら文句を言おうと
知らぬ顔、先生が見回りに来た時だけ箒を手にする。
先生も実態は知っているはずなのに、「協力してきれいにするんだぞ」
と言い残して消える。
女子が同じコトをしたら職員室に呼び出されて説教を食らうのに。
中学一年生になって早々、性教育の時間があった。
小学校のように男子だけ早く帰らせて、女子だけ対象に生理の話を・・・
というようなのではなくて、体育の時間に保健室の先生が来て
「思春期の過ごし方」というような話をした。
まだ若くて結婚もされてない女の先生が、少し頬を赤らめながら
精通現象や妊娠をベースに性器の違いや取り扱い方を説明するのだ。
「男子はほとんど皮をかぶった状態なので包皮を剥いてきれいにします。」
とたんに「ホーケー!ホーケー! 皮かぶりだってきったねー」と騒ぎ出す。
私の隣に座っていた体の小さい男の子が、後ろからこづかれて赤面してる。
ザワついた空気をを静めようとしてか、先生の声がうわずって高くなる。
「日本人はほとんどが包茎なので恥ずかしいことではありません!」と力説。
「先生、それは違うんじゃない? 大人はたいていズル剥けだよ。」
「だいたい先生、ボッキした本物を見たことあるの?」
「結婚もしてないし、まだショジョだってみんないってるけどそうなの?」
猿たちがこうなるともう手が着けられない。
後ろでニヤついてた担任がいつになく真面目な顔をして猿たちの前に立つ。
「いいか、おまえたち。保健の先生は今、真剣に大事な話をされてるんだ。
これ以上、ふざけるヤツは廊下に放り出す。黙って最後まで聞け。」
『おいおい、力ずくって・・・。
自分がボス猿だって示したかっただけじゃん。』
ザワついた教室が静かになったところで、気を取り直した保健の先生が続ける。
「思春期になると男子は朝、目が覚めたらパンツが濡れてることがあります。
これを精通現象といいます。
オシッコじゃなくて、精子が出るので射精といいます。
コウガンで作られた精子が勝手にオチンチンから飛び出すことです。」
『私も朝、下着が濡れてることがあるよ。女だけど・・・。』
「男子は性欲が強くなる時期なので、女子はみだりに男子を刺激しない様に。
肌を露出したり下着が見えるような格好はしない。自分の身は自分で守る。」
『性犯罪は女が刺激するから起きるの? 女のせい?』
「なので、思春期の男子はマスターベーションをします。
決して悪いことではありませんが、何回したとか人に言わないことです。」
『あの・・・、私、女子だけど小学校の時からしてる・・・。』
「女子は男子に較べると性欲が弱いので、今は男子のことはわからないけれど
いずれ大人になったら男性とつきあうと思うので、参考にして下さい。」
『えーっ、それで終わり? 女子の話はほとんどしないで終わっちゃうの?』
「起立! 礼!」・・・って、終わっちゃったよ・・・。
猿たちの話なんかどうでもよかったのにな。
がんばってハッキリと言い切ってた割にはモヤモヤが残る内容だった。
予想通り、その日の放課後は猿たちがオナニー話で盛りあがる。
保健の美人先生のお墨付きがあったんだからそうなるだろう。
女子にはそのお墨付きはなかった。
つまり、当事者ではないのだから他人事として黙って聞き流すしかない。
悪ノリした小猿が箒の柄をしごく手つきをしながら女子を揶揄する。
「おまえらにはチンコないからこするもんがなくて残念だよなー。」
『バカだ。残念なのはアンタたちの品性だ。死ぬまでチンコこすってろ!』
こんな男たちが人間として女より優秀であるわけがない。
モヤモヤを通り越してムカムカしてきたので、さっさと部活に行くことにした。
そこには憧れの秋道さんがいる!
クラスの猿たちとは月とすっぽん、同じ人類とは絶対に思えない美少女・・・。
その横顔を見てるだけで心が鷲づかみされて息苦しかった。
その声を聞いているだけで胸が高鳴って涙ぐみそうな私。
紛れもなく同性に恋していた。
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