桜の木の下で

庭月野 知美

第1話 出会い

私は地元の小学校を卒業した後、私立の中学部に進んだ。

特に成績が優秀だったわけでもなくて、それが両親の強い希望だった。

あ、断っておくけど、父は中学校の教師で母や看護師という家庭で

それほど裕福な家庭でもなく、都会と違って田舎の私立は偏差値も低い。


私は早産で生まれて、1500g足らずの片手に乗る赤ちゃんだった。

当時はまだ「極小未熟児」という用語で呼ばれていたが、今なら

「超低出生体重児」と分類されて生存率や障害を心配するレベルだ。

さらにその後の成長も芳しくなく、集会ではいっつも一番前が指定席の

低身長で痩せた女の子だった。

体格だけが問題だったのではなくて、人見知りが病的に激しかったので

両親はそんな私をイジメから守る手だてとして、6年制の中高一貫教育を

選んだのだ。

6年間、クラスのメンバーが変わらずに成長する環境なら、

多少の問題はあってもイジメが固定することはないだろう、という親心。

そのおかげで地元の公立なら歩いて5分かからないというのに、

私は毎朝6時に起きて50分もかけて電車通学しなければならなかった。



入学して早々に部活動のオリエンテーションが体育館であった。

集会といえばいつもどおり、背の低い私は一番前で体育座り。

私は運動が苦手なので、音楽とか美術とかそっち系が第一希望だった。

ところが合唱部と来たら天然パーマで眼鏡をかけたうらなりが部長で、

活動紹介では何度も声がひっくり返って聞きづらかったのでなんか不安。

美術部は中学生だというのに無精ヒゲのオヤジみたいのがモソモソ言ってて、

不潔そうな感じがイヤでパスの予感。

全然、関心のない運動部の紹介が続く中に、上下白の道着と袴姿の女子がいた。

剣道なんて縁もゆかりもない私だけれど、長いポニーテールと白い道着姿が

とても凛々しくて、スラリとした長身に黒目勝ちで端正な横顔が美しかった。

なにか、二人一組でする型の演技が始まってしーんとした肌寒い体育館に

「ヤァ!」とか「オゥ!」っていう気合いが響いた。

私はその清冽な空気に吸い込まれて、涙があふれて胸が痛くなるほど感動した。

去年の県大会で個人2位だったという彼女、袴に「秋道」と刺繍してあった。

彼女の生命の輝きの前にはベートーベン紛いもヒゲオヤジもゴミ同然だった。

正しく美しい中学生がそこにいて、私は運命の女性と邂逅した。






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