34・グレートダギャーソード
魔法少女になった。
活躍していたのは10年前だ。いまや、少女とはいえない年齢となっている。
けれど、これこそが本当の姉の姿なのだろう。
ドレスのようなコスチュームは、年齢的な無理さはあるけど、しっくりとしている。
よくよく見れば、真っ赤となった髪の毛の他に、肌に刺青のような模様が入っていた。
蜘蛛の足のような角張った線が、横顎から目元に向けて数本引いていて、中々シャレていた。
「うわあ、お姉ちゃんかっこええなあ」
変身した姉を見るのは初めてのようで、澄佳は感嘆と手を叩いていた。
「あんがと」
そっけなく礼を言って、右手をクイっと上へと動かした。
長さ三十センチほどの短剣が、手品のようにパッと現れる。
アラビアで使われていたジャンビーヤのような湾曲した形をしていた。俺たちの世界に存在する金属ではなさそうだ。見る角度によって、銀、金、緑、黄、赤など、輝きが変わっていく。
姉はその短剣を、俺の前のテーブルに突き刺した。
「あげるわ。日本刀じゃ、長くて重いし、接近戦で不利になるでしょ」
「いいのか?」
「かまわない。最初のころはこれを使っていたけど、戦うにつれ、魔法と肉弾戦がメインになっていったんだ。鏡明のことだから、戦うなって言ったって無駄でしょ。だったら、魔法力のある武器を与えたほうが安心だもの。これね、ナホカソードっていうの。世界で唯一のものだから、大切にしなさいよね」
「名前は変えさせてくれ」
「勝手にしな」
手に取ってみると驚くほどに軽い。
「切れ味すごいから気をつけて。あたしがこれ初めて手に入れたとき、学校の机やら壁やらスパッと切っちゃって、大変だったんだから」
「赤沢先生はほんと、頭が回らないわね」
「なによ、文句あるってゆーの?」
「姉弟愛に文句はないわ。武器をプレゼントするのはいいけど、丸裸な状態で持ち歩くのはぶっそうじゃない。鞘なんてないんでしょ? 銃のようにベルトにはさんでたら、体を切ってしまう恐れがある」
だから貸しなさい、と手を出した。
渡すと、美桜は短剣に向かって、
「アレス、ハルズ、クトゥーク……」
とブツブツと意味不明な言葉をかけていく。
「彼の剣の主となりし赤沢鏡明。この剣の名前を口にし、契約を交わしなさい」
「名前?」
「剣の名よ。さっさと決めなさい」
「えっと、そうだな……」
「グレートダギャーソード!」
迷っていると、澄佳が言った。
「グレートダギャーソード」
「はぁっ!」
美桜は腕を延ばし、上向けた短剣を俺の胸に当てた。
まばゆい光が起きた。
光に吸い込まれるように短剣が消えていった。
「契約は成立したわ」
手を引っ込めて、美桜は言った。
「剣はどこにいったんだ?」
きょろきょろ見回すが、どこにもなかった。
「あなたの利き手はどっち?」
「右だ」
「その手で剣を持っているイメージをしながら、剣の名を心の中で言いなさい」
右手を意識する。
グレートダギャーソード。
何かを握る感触が訪れた。俺はさきほどの剣を持っていた。
「これはすごいな」
「便利でしょ。不要になったら、手放せば消えるわ」
手を放してみると、短剣は地面に落ちるところで、ふっと消えた。再び手を意識すると、短剣が現れた。手を放すと、同じように消えていった。
「この魔法は回数や時間制限はあるのか?」
「無限よ。嫌になったら、解除してあげる」
ないようだ。ありがたい。
「ナホカソードのほうがよかったんじゃない?」
「グレートダギャーソードっ!」
姉貴に同意だ。ナホカソードの姉以上にネーミングセンスのない澄佳は、かっこいいと思っているようだが、反芻したことに後悔した。
「さーてと」
姉貴は、足を伸ばしたり、上体を左右に回したり、両手を地面に付けたりと、ストレッチをしていく。さすがは体育教師。柔らかい体だった。
「犬はどうなってる?」
「悪戦苦闘中」
響歌さんはスマートフォンで指示を出し、報告を聞いていた。
「被害者四名。倒した犬は三匹。残りの十二匹を、戦車や盾で、取り囲んでいるところ」
「第二、第三陣がきたら、あっさり壊滅ね」
「カラスなんか来そうだな」
「ゾンビが空を飛べるかしらね」
空飛ぶゾンビが攻めてくる、という心配は無用のようだ。
「鳥だろうが、怪獣だろうが、あたしにまっかせなさい。さっさかやっつけてやるわよ。小麦、ゾンビに気をつけることはない?」
「噛まれたら、ほんの小さな傷でも、即アウトだけど、あなたならいくら噛まれようとも平気でしょうね。ゾンビはアンデット系よ。光に弱い。特に回復魔法には」
「なーるほど、最高の手じゃないの。回復魔法なら、人間を巻き込む心配もないし、最初からやっとけって話よね。つーか、それを早く教えなさい」
「あなた、使えるの?」
「エリーゼ様じゃないから使えませーん。回復系が得意な子はいたけど、いなくなっちゃったし……」
僅かに哀惜の顔を覗かせた。死んだか、消えたかしたのだろう。
「響歌はサポート系だけど、ちょっとは使えたよね。あたしと手を取り合えばさ、その力を倍増できるでしょ。懐かしいな。響歌、一緒にやろ」
「嫌よ」
響歌さんはきっぱりと断った。
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