11・かくれんぼはおしまいですよ
七階に到達した。
カーペット張りの廊下は、カビのにおいがした。
真っ暗だ。
非常口のピクトグラムがダイアモンドのように光っている。
ドーン!ドーン!
外からは爆撃を受けているような地響きがする。だけど、ホテルの廊下は不気味なほど静かなものだ。
705号室の前に、ゾンビが二人突っ立っていた。頭だけを左右に動かしている。
見張り役だろう。その付近に、何人かの人が食われていた。
ゾンビの顔がこちらを向く前に、脳みそを撃った。
続けて、もう一人も撃つ。
両方とも倒れた。
ドアノブを捻るが動かない。鍵が掛かっていた。
「ちっ、せっかく着いたのにこれかよ……」
倒したゾンビの衣服から鍵を探すが、見あたらなかった。
ドアをガンガン蹴ったり、銃を撃ったりするも、ビクともしない。
おむすびの封も開けられない不器用な俺だ。ピッキングの技術なんて持っているわけがない。
どうするか。
フロントに戻って、マスターキーをもらってくるなんて、自殺行為もいいところだ。
706号室、707号室と、鍵の閉め忘れはないか順番に確認する。
710号室のドアがうっすらと開かれていた。
助かった。
部屋に入ると、ダブルベッドの上で「ノーミソ、ノーミソ」と唸りながら、ゾンビが仰向けに倒れていた。なんらかで足を潰され、起き上がらなくなったようだ。
そいつを斬って、動きを止めた。
カタンという音がした。
クローゼットからだ。開けると、若い女が隠れていた。
グラリと頭から倒れていった。
死んではいない。かすかに身体が震えている。
「大丈夫か?」
女の目が開かれた。
真っ白い目だ。
「ノーミ……」
頭を撃った。彼女が生きていたならヒロインとなって、ベッドシーン付きのラブストーリーが展開していたかもしれないが、ゾンビならば構ってられない。
窓を静かに開けてベランダに来る。
イッヤーソンの胴体が真横にあった。ビルをはい上がるキングコングのように、ホテルを登っている。
「あっかさわくーん、どこですか。かくれんぼはおしまいですよ」
俺が最上階にいると思っているようだ。
部屋の中に手を突っ込んで、ガラクタ類やゾンビを捕まえていっている。外壁や窓ガラスなどが派手に落ちてくる。
「赤沢くーん、こっちですかな? でてきてください。逃げてばかりじゃつまらないですよ」
アリの巣をほじくっているかのように、上の階をかき回している。
今の内だ。
俺は、奴に気付かれないように慎重になって、ベランダを渡った。
ありがたいことに705号室は無傷だ。荒らされた跡はない。
拳銃のグリップでコンコンと窓ガラスを叩く。
反応なし。
カーテンが敷いてあるので、中の様子は見えなかった。
「そろそろ、出てきてもいいじゃないですか」
イッヤーソンが、上階にある部屋を叩き壊すタイミングで、705号室の窓ガラスを割った。
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