武器のない国の防人たち

深夜太陽男【シンヤラーメン】

第1話

     ○


 武器を持たなければ人々は争うことなく平和的に物事を解決する、そう本気で信じる人間たちがこの国を変えてしまった。

 銃刀法が徹底され、免許所有者であろうと個人で刀剣や猟銃の保管は禁止され公的機関の管理体制となった。自衛隊は解体され、少しの設備だけ残され今は災害救助隊と呼ばれている。国外からの脅威に対しては同盟国の駐在基地が所有する軍備に形だけ頼っている。警察官も拳銃を持ち歩いていない。

 彼らは政策が施行できたことに満足し、国民もそれを信じ安堵した。平和憲法は絶対でみんなを守ってくれる。元々、他国と比較すれば秩序の乱れていない平穏な国である。今まで以上に誰も傷つかず血を流さない未来が待っているはずであった。

 結果、犯罪件数は少しも減りはしなかった。


     ○


 国内の暴力的犯罪に対して『防人』という機関が結成された。支給されたのは防護スーツと防護ヘルメット、そして盾のみである。もちろん科学的にトップクラスの水準で設計されており、盾に関しては状況に応じて材質・形状・質量を変えられる優れものだ。それでも命を張ってこの給料賃金は安いものだと感じてしまう。

「だからさ、毎日神様にお祈りする人としない人、その二人が一緒に仕事をしているとするだろ。すごく忙しいときでもそいつは神様へのお祈りを欠かさない。そこにもう一人はイラつく。たったそれだけの違いで喧嘩にもなるわけだ」

 バディの坂口は防護スーツを着込みながらいつものように持論を説いていた。

「お偉いがたってのはそういうことわかってないんだよ。人類全てが自分と同じ価値観だと思っていやがる。話し合いによる相互理解じゃなくて、屁理屈理論で同調圧力を強いているだけ。そして長期的にみて判断ができない。問題が起こったらとりあえず原因を規制するだろ? 表現規制とかもそうだけどそれじゃ臭いものにフタしてるだけで根本はそのままなんだよな。もちろん国民も表現規制に対して反対するだけでどうしたら犯罪がなくなるか真剣に考えてやしない」

「それじゃあお前はどうしたら犯罪がなくなると思う?」

「犬か猫、好きなペットを飼えばいい。もしくは子供を育てるんだ。心が穏やかになって犯罪なんて考えやしないぞ」

「坂口、お前も真剣に解決策を考えたほうがいい」

「おいおい、俺は真剣だぜ。じゃあ衛宮はどう思うんだ」

「興味ない、古代兵のように盾に猫をつけて突進すれば今日の仕事も早く終わるんじゃないか?」

「そうか、技術部に相談して盾にそういう機能をつけてもらおう」

「冗談だ。さあ行くぞ」

 俺たちは防護車に乗り込んだ。助手席の坂口はラジオのスイッチを入れた。ちょうど、自分の大好きなロックバンドの曲が流れていた。

「『時代が望んだヒーロー、目の前で倒してよ』っていいな」

「全くだ」

 俺はサイドブレーキを解除してアクセルを踏み込んだ。現場はそう遠くない。


     ○


 コンビニ強盗、そう連絡を受けて俺と坂口は出勤した。規模の大きい事件なら多人数によるチームを組むが今回はそれほどでもないので俺と坂口の二人だけ招集された。現場はすでに警察たちが取り囲んでいるが彼らの武装は旧世代の盾とメガホンによる交渉術だけだ。おふくろさんが泣いているだなんて言って犯人が諦めるのを見たことがないが毎度コレをやっている。マニュアルなのか?

 俺と坂口は車から降り現場の責任者と二三言やりとりをしただけですぐに配置についた。事前情報はヘルメット内のディスプレイに表示されているし、店内の様子は監視カメラとリンクしてリアルタイムで視聴できる。

 さほど大きくないコンビニだ。レジに犯人と店員、犯人は店員の左手首を背中に回し押さえ込んでおり、右手に持ったナイフを首付近に近づけている。犯人は身なりが清潔とは言えない。恐らくホームレスだろう。このように人質を取るのも初めてらしく、手つきは震えて頻繁に周囲を見回し落ち着いていない。他に仲間もいない。客もいない。今日は早く仕事が終わりそうだ。

「誰もいない店でコンビニ強盗しようとしたら通行人に通報されちゃってこんな惨事ってことかねえ?」

 無線通信で坂口が話しかけてきた。

「そういうことだろう。だが俺たちの仕事にはあまり関係ない。準備はいいか?」

「アイアイサー」

 俺は正面ドアから、坂口は裏口から突入した。


     ○


 犯人からすれば一瞬で、何が起こったのかわからなかったであろう。

 まず坂口は裏口から堂々と入りぐんぐんとレジに近づく。正面ドアと反対方向にある棚の商品を一つ落とす。犯人の視線はそこに向き、その間に俺は正面ドアから入る。そして躊躇なく人質の店員を犯人から引き離す。犯人は人質が逃げ出したと勘違いして捕まえようとする。その背後から近づいた坂口が犯人の右手首をひねり刃物を落とし、床に押し倒す。

 犯人も店員もパニック状態であった。

「光学迷彩を解除しよう。この後が面倒だ」

「ネタばらしするのかよー」

 坂口は不満そうだったがスイッチを切った。犯人の上に乗りかかる黒い巨体がぼんやりと現れた。俺も同様だ。店員は安堵し犯人は絶望していた。屈折光と反射光を制御できるシステムにより俺たちの体は九十パーセント以上の透過率を再現できる。よほど目を凝らさなければ視認できないだろう。悪用されれば犯罪を助長する技術だが、そもそも悪用すらされない技術は役に立たない。

「盾すら使わなかったな」

 警察たちが店内に入ってきて、店員を保護し犯人を確保した。犯人は底の見えない穴のような瞳で、俺たちをずっと見ていた。


     ○


 俺と坂口はコンビニの外で煙草を吸いながらアイスキャンディー(企業の迷走としか思えない味のものを次々に発売し購入層を困惑させるが梨味は奇跡的な成功例)を頬張っていた。サボっているわけではない。後からやってきたコンビニ店長がご好意にくれたものだし、急いで支所に戻る理由もないからだ。

「犯罪者は悪を悪と思ってやっちまうやつと、思わないでやるやつがいるんだ。自覚ないやつのほうがタチ悪い」

「今日のホシはどうだったんだ?」

「ありゃ追い詰められてやるしかなかったんだろ。改善の余地はあるはずだぜ」

「でも悪いことと思いつつやってしまうということは結局悪いと思っていないんじゃないか?」

「お前と話していると時々頭が痛くなるぜ」

「それは冷たいものを急いで食べているせいだからだ」

 坂口はボロボロと破片を地面こぼしながら食べている。坂口の足元には蟻の行列ができていた。

「社会的な背景が要因の犯罪は酌量措置があるのか? 自身に落ち度のない良い犯罪者とその逆の悪い犯罪者とでも言うべきか」

「いやいや、犯罪者に良いも悪いもないだろ。それに体裁としては人権だ死刑反対だなんだと言いながら結局は自業自得という言葉で全て片付けられるからな。誰も責任は負いたくない。悪いのは悪いことした奴自身にしかない。そういう世の中だ。目の前で困っている人間がいても保身のため見て見ぬフリ。そういうトコにも焦点を当てないと犯罪は本当になくならないぜ」

 しばし沈黙した。たぶん俺も坂口も同じことを思い出している。

「アタリだったか?」

「ハズレだぜ」

 坂口は食べ終わったアイスキャンディーの棒をゴミ箱に捨てた。

 足元の蟻たちは他人の食べ物を自分たちの巣に持ち帰りそれを食す。それは悪か? 答えは簡単。蟻には蟻のルールがある。それだけだ。


     ○


 俺と坂口がバディを組んでいるのはこの仕事に就くずっと前からだ。社会制度に保障された生活が送れるものとそうでないものがいる。俺たちは後者だった。

 思い出せない親の顔、形だけの施設、差別による虐待しかない学校。そんな境遇から逃げ出したく俺たちはコソ泥のようなことを続けていた。感情的で行動力のある坂口、失敗も多いがそれをサポートするのが自分の役目になっていた。スリルと、他者とは違う特別感に酔いしれていたのかもしれない。それでも将来には不安しかなく毎晩、虚無感に襲われた。

 ある日、強引に侵入した店の防犯装置が作動しブザーが鳴り響いた。坂口は少しでも何か盗もうと渋ったが俺たちはすぐにそこを離れた。そこをたまたま近くを通りかかった男に捕まえられた。そのときはどんな男が知らなかったが、警察と軽い挨拶をしなぜか俺たちはすぐに解放されたのでそれなりの地位があるのかもしれないと思った。その後、その男に思いっきり殴れらた。そして防人養成所にぶち込まれた。

 男は黒田と名乗った。

「こんな仕事は正義に憧れるキラキラしたようなやつには向いていない。クズにぴったりだ。生かされているだけありがたいと思え」

 黒田がそう言うように、そこには自分たちと同じような経歴のものばかりだった。まともな人間は官僚などそれなりの地位になり命令する側になる。クズは使い捨ての部品になるかもしれないが、それでも社会的に保障された生活にありつけるのだった。

 『全てを守る』が防人の絶対であった。国民も自分も、そして犯罪者もだ。何も傷つけず犯人を拘束するのがどれだけリスクの高いことか上の連中は知らない。

 頭の足りない俺たちだったが体力はあった。訓練は地獄で黒田は鬼教官だった。黒田は俺たちの前で冷徹だったが、訓練用装備の雑さに技術部で怒鳴り散らしたり遠征訓練で予定になかったバーベキューを突然始めたりして訓練生たちに慕われていた。

 最後の訓練は実戦投入であった。現職の防人たちと任務を果たす。とある港で武器密輸の会合があるので現職組と黒田率いる訓練生組の二手で現場を制圧するという内容だった。

 とある客船に俺たちはゴムボートをつけて乗り込んだ。現職組は少し遅れて特別船を乗り付ける。つまり俺たちは完全に陽動、オトリだった。

 船内にいた構成員は二十人ほどだった。全員が拳銃を所持していたが高性能シールドの前では火薬で打ち出される弾というのはあまり効果がない。少し手首が痺れるくらいだ。広い一室にいた幹部とその部下たちはあっという間に取り押さえることができた。

 甲板で待機していた男と坂口が交戦しているのはしばらくしてから気づいた。光学迷彩には時間制限があり、坂口はそれを切らしていた。向こうは口径の大きい弾丸を使用していて威力も通常のものの倍ある。坂口はそれに対応しきれず盾を弾かれ落とした。同時に右足を射抜かれた。

 俺と黒田は飛び出した。どちらも光学迷彩の使用電力は使い切っている。

「弾切れを待て、それまで坂口を守り通せ」

 黒田は飛び出す瞬間そう言って俺に自分の盾を渡した。俺は二つの盾で坂口と、自分を守るので精一杯だった。銃声が何度も響き、やがて静かになった。

 敵の男は黒田に押し倒されていた。後ろから増援の防人たちがやってきて男を取り押さえた。黒田はその場を離れてフラフラと俺たちに近づいてきた。

「よく守った」

 それだけ言って黒田は倒れた。よく見れば体の各所から大量出血している。いくら防護スーツでも銃弾全てを防ぐことはできなかった。坂口はまともに歩けず足を引きずりながら黒田に駆け寄り、泣き喚いていた。俺はただそれを眺めていた。

 そして俺たちは防人になった。


     ○


 後から聞いた話だが黒田を殺した男は護送の際に逃亡したらしい。それ以来坂口はずっとその男を追っている。何か事件があればその男ではないかと疑ってかかっているみたいだ。その男の顔を俺は知らない。坂口は復讐でもするのか。とにかく坂口はそれが目的で防人を続けているのだろう。俺は何のために防人をしているのか。生活か、もっと守りたいものがあるのか。よくわからない。


     ○


 ラジオからはニュース番組のキャスターの声が聞こえてきた。この国の同盟国とその敵対国、いつ戦争が始まってもおかしくないしこの国の立場も危ういという内容だった。

「俺たちの盾ってミサイルも防げるのかねえ?」

「無理だろ。防げても周りに被害が出る」

「誰が守ってくれるんだよ」

「俺たちの仕事じゃない。それだけだ」

「そういえば電動工具の使用が禁止になったってよ。簡単に人を傷つけられるからって。携帯できる工具は全て回収されて、そういうのが使用される工場には人間の立入禁止、全部機械がやるらしい」

「そのうち料理で包丁も使えなくなるな」

 俺たちは仕事中だ。とある研究所が開発した部品を海外に輸送する、船便なので港まで護送するという内容だった。時間帯は深夜に指定されていた。

「怪しすぎる仕事だぜ。部品って小さなものかと思ったら大型コンテナじゃねえか。わざわざ護送ってのも臭すぎる」

「俺たちには関係ない。俺たちはただ目の前のトレーラーに同行して港まで行く。怪しい奴がいれば排除する。それだけだ。それが仕事だ」

 と自分に言い聞かせていたが確かに怪しすぎる。俺たちの他にも防護車が四代もついている。

 高速道路に入る。一直線の道路。敵の侵入は難しくすぐに発見できる利点がある。逆に敵と対決になったときは逃げ道がない。でかい荷物がある分逃走にはこちらが不利だ。嫌な予感がずっとしている。当たらなければいいのだが。

「衛宮、車止めろ」

「は?」

「右前方のビルからロケット弾が飛んできている」

 直後、目の前のトレーラーに飛来物が突っ込んだ。

 閃光、爆発。

 俺たちは横転した防護車から飛び出した。トレーラーは燃え、コンテナは崩壊して中身が見えていた。それは自立砲台のようなものであった。

「なんだよこれ」

「どう見ても兵器だろ。穏便に運びたがるわけだ」

「戦争と関係あるのかよ」

「知らん。とにかくこいつを守ることが俺たちの――」

「仕事だ。それだけだって言いたいんだろ。本当にこんなもの守る価値があるのか」

 銃声が鳴った。どこからか武装集団が現れた。同盟国の敵対国からやってきたのか、とにかく国外の傭兵部隊であろう。

「仕事以前に自分の身は自分で守ってくれよ」

 俺と坂口は車から盾を取り出し、他の防人たちと連動して敵勢力に立ち向かった。向こうは一昔前の戦い方だった。俺たちは一人ずつ確実に戦闘不能にしていった。

「指令塔らしき車を見つけた。バックアップ頼む」

 坂口から連絡が入った。高架下の建物の陰にその車はあった。警備はいない。車内には二人、運転席に一人と後部座席に一人ずつ確認できた。光学迷彩を発動させ、俺は運転席にいた男を引きずり出し、一発殴って気絶させた。

 坂口も同様に後部座席にいた男を引きずり出していた。が、様子がいつもと違った。

「見つけた」

 坂口はそいつの顔面を殴る。相手は顔を押さえ込んでうずくまる。早々に光学迷彩を解除する坂口。

「お前が黒田さんを殺したんだ」

 坂口はその男に馬乗りになりひたすら殴った。ついに見つけたらしい、目的の男であった。積年の恨みからか、坂口は普段の任務以上に相手をいたぶっている。

「よせ、やりすぎだ。防人の執行範囲を超えている」

「止めるんじゃねえよ」

 一瞬スキを見せたのがいけなかった。男は懐から銃を取り出し坂口の脇腹を撃ち抜いた。しかし坂口はひるまず男から銃を奪った。そして男の体に残弾の限り鉛玉を撃ち放った。逆上している。

「やめるんだ!」

 俺は坂口を男から引き離した。男は血だらけで虫の息だった。もう助からないだろう。

 坂口は俺に殴りかかった。理性を失っている。俺は坂口の拳を避け腹に蹴りを入れた。拳銃を落とし、よろける。それでも坂口は俺に攻撃してきた。

「なんであんな奴まで守ろうとするんだ! 俺たちの敵だろう! 黒田さんを殺した張本人なんだぞ!」

「それが仕事だからだ。全てを守るのが防人だ」

「そんなの建前だ。本当のお前は、何を思っているんだ!」

「少なくとも黒田さんは今のお前を望んじゃいない」

「黙れよ!」

「俺は防人でありたい。だからお前を止める。それだけだ」

「自分を殺してまで、防人である意味があるのかよ!」

 しばらく格闘が続き、俺も坂口もボロボロの状態になるまで殴り合った。

 やがて坂口は倒れ、泣いていた。

「何にも満たされねえな」

「当たり前だ」

「黒田さんは報われたのかな」

「それはお前の傲慢だ」

「黒田さん帰ってこないのかなあ」

「無理だ。あの人は死んだんだ」

「感情的なやつか、冷静なやつか。それだけの違いだったんだ。俺たちは分かり合えない」

「そんなことはない。俺も黒田さんの復讐を考えた。それ以上に、お前を守りたかった」

「……お節介だぜ。そんな理由で防人を続けていたのかよ」

「応急処置をするから、もう喋るな」

 坂口の出血量は見た目以上にひどいものであろう。今すぐ防護車から救急キットを持ってくれば間に合うはずだ。

「その必要はない。お前はもう自由なんだから」

 坂口はいつの間に拳銃を掴んでおり、自分のこめかみに銃口を突き当てた。

「自分の身は自分で守れよ」

 銃声。

 血飛沫。

 最後の一発だったのだろう。坂口は動かなくなった。俺は、守るものが無くなってしまった。


     ○


 流れ星が見えた。そいつはすぐ近くに落ちた。建設途中のビルを玩具のように簡単に崩壊させ爆発した。一瞬だけ視認できたが、あれは流れ星ではなく同盟国のミサイルだった。この国と同盟国、そしてその敵対国に何があったのか俺は知らない。あの兵器の隠蔽かもしれない。しかしそんなことは俺に関係がなかった。

 炎上する街を俺はただぼんやりと眺めていた。住宅から人々が飛び出し当てもなく逃走していた。泣き叫ぶ人間たちを見て、戦争が始まったのだなと認識できた。まだまだ流れ星が見える。ここで死ぬのか。生きる意味がなくなった今、タイミング的にはちょうどいいのかもしれない。

 とある女が俺の姿を見つけると泣きついてきた。助けてくれ、守ってくれと。俺はその女を軽く平手打ちした。

「立って歩け! とにかく逃げろ! 自分の身は自分で守るんだ!」

 女はヒステリックに金切り声を上げながら、それでも走って逃げ出した。防人らしくも、男らしくもないセリフだ。しかし、自分の身は自分で守らなきゃならない。それだけだ。平和憲法はこの国の都合で、実際守っちゃくれない。願いを実現させるには力が必要なのだ。

 俺は黒田を殺した男の車を漁った。案の定、護送していた兵器に関する資料が見つかった。超電磁砲、レールガンだとデータから判別できた。電磁力により弾を射出できる装置。武器は持ってはいけないといいながらこの国は同盟国のためにこんなもの作っていやがったのか。が、今の俺にそんなことはあまり関係ない。とにかく使えるかどうか、それだけだ。

 起動方法は案外簡単で手順通りに操作盤をいじったらレールガンはスタートアップした。起動と同時に六脚を動かし体勢を整え、そして勝手に照準を合わせていとも簡単に次々とミサイルを撃ち落としていった。この国で御法度な兵器が今、俺たちを救っているのだった。

 やがてレールガンは停止した。弾が尽きたのだ。それでもミサイルは落ちてくる。弾道から計測できる、海上の戦艦を先に狙ったほうが良かったのかもしれない。もう遅いので仕方ない。

 さてどうしたものかと考える。俺は盾を握りしめていた。おいおい、まさか、そんな馬鹿だろう? それでも坂口だったらそれを選ぶ気がした。

 俺たちが守るものにそれほどの価値があるのか考える。命は一瞬で消えてしまうし文明だって似たようなものだ。何から守っているのかもよくわからない。滅ぼされるほうが正解なのかもしれない。

 それでも俺は生かされた。黒田に、坂口に。使命というのがあるのなら俺はそれを最後の最後まで全うする。それだけだ。人間も勝手に生きて勝手に死んでいけばいい。それだけなんだ。

 よく考えれば俺と坂口は、黒田に拾ってもらわなければ今頃、犯罪者として防人に捕まえられていたのかもしれない。人生は不思議だ、面白い。可能性は捨てちゃいけない。

 なあ坂口、ちょっとした賭けをしよう。もし俺がこの盾でミサイルを防ぎきれたら、もう少しマシな未来が待っているかもしれない。防ぎきれなかったら? そのときは、そのときだ。たったそれだけのことだろ?

 俺は盾を超衝撃対応用に設定し、放熱拡散数値を最大限に切り替えた。ミサイルはもう目の前だ。あと数秒で着弾するだろう。やれることをやる。それだけだ。


 俺は、『防人』だ――。

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