第4話 躾。



あの日を境に、私は母と接することの出来る機会が増えた。


それは、想像していたこととは違って、酷く苦しくて、辛くて痛かった。


体中、毎日毎日。痛くて堪らなかった。



投げられて打ち付けた所が青くなって腫れてた。


腕を強く掴まれて引きずり回された時に手に出来た母親の赤い手形後。


叩かれた頬、殴られた頭とお腹。


足を払われて蹴られた所に青い痣。


物を投げられて、血が出たの。



痛くて堪らなかったけど、やめてほしくは無かった。



意味が分からない。変な子。だなんて周りからは言われる。


でも、他の子にはわからないでしょ。と私は思う。


私にとっては、普通の生活だったから。


今まで構ってもらえなくて、漸く私を見てくれるようになったの。


私は、嬉しかった。


この時の私は狂っていた。と自身で思う時がある。


だが、この時の嬉しい。という気持ちが分からないわけではなかった。


今までずっと私を見てもらえなかった母親から、漸く私自身を見てもらえるようになったのだ。


もし、母親から受けるモノを否定してしまったら、私は一体どうなるのだろうか。と考えると否定はできなくなっていた。



もう、一人は嫌だ。



漸く私を見てもらえるようになったのだ。前のようには戻りたくない。と私は強く思っていたので母親の言動を受け入れていた。


それでも、怖かったけどね。



「嫌だ!!やっ!ごめんなさいっ、ごめんなざいっ!!入りたくないよぉ゛」


「入れ。」


「ひっぐっ……ぐすっ、ぐっ」


「入れ」



目の前には、衣装ケースがあって私はその横で跪いていた。


母親は、私が良い子にしなかったからだ。とケースの中に入るように言う。


それでも、入りたくなかったからひたすら謝り続けるが恐怖で声が出なくなった。


入れ。という言葉を繰り返しても私は涙を拭うばかりの動作しかしなかったためか怒鳴り声を上げられた。


癖のように身体は大きく跳ね上がり身震いをする。


奥歯がかちかちと音を立てて手足が異常なほど震えてくる。


私のような経験を持つ子は、おそらく同じような言動をするのであろう。


声は出ないし、ひゅっ、という音が喉からするだけで何もできないで固まっている。



蹴り飛ばされて、漸く体が動くようになり母親の言う通りにした。


片足をケースに入れると母親は静かになり暴力も止む。


両足をケースに入れると座れ。と言われた。


ケースの蓋を取った母親は、私の頭を持ってケースのそこに叩き付けて私の身体を倒すと蓋を閉めた。



「反省するまでそこにいろ。」


「いやっ!!や、出してっ、だしてぇ゛」



どんなに中で叫んでも、泣いても、閉じた蓋は開けられることは無かった。


母親は私の入った衣装ケースを持ち上げると、押し入れへと向かいその中に衣装ケースを入れた。


不安定に揺れる感覚の後に乱暴に下される衝撃。


濁った衣装ケースから外を見ると、母親が押し入れの扉を閉める様子が見えた。


やがて、押し入れの扉は閉められて全体が真っ暗闇に包まれた。


どこを見ても真っ黒。


暗い、暗いっ、くらいっ



「いやあぁ゛!!だしてっっ、いやだっごめんなさい!ごめんなさいぃっ」


「煩いっ!外へ放り出すぞ!!」


「っ……ぐすっ、ずっ」



どんなに蓋を叩いても開かなかった。


真っ暗闇。


外へ出す。と言われると、黙るしかなくなってしまう。


家から追い出されたくは無い。離れたくない。


この暗闇は、半日以上続いた。


最後に覚えているのは、真っ暗闇だった事と、呼吸が苦しかったこと。




この出来事の後からは、暗闇が異常に怖くなった。


陰でさえも怖くなって近寄らなかったのだ。


閉所恐怖症、暗所恐怖症になってしまっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静かにします。良い子になります。だから、もう、殴らないで。 蒼虎詩吟 @3o_neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ