第3話 私を見てほしい。
その日は、激しく雨が降る日だった。
洗濯物も乾かないし、外出することもできなかった。
こんな雨の日でも父親は仕事に行っており、家には母親と兄と私の三人だけだった。
兄と私は家の中で遊ぶしかなかったので自然と玩具の置いてある部屋に兄と私は集まることとなった。
「私もこれで遊びたい!」
「俺の!あっちいけ」
家はそこまで広くないので同じ部屋で兄と遊んでいた。
そこで、子供用のプラスチックでできたジャングルジムに滑り台の付いた玩具が取り合いになった。
兄が遊んでいるのを見て、私も一緒に遊びたかった。
でも、兄は自分の玩具だ。と言って、一人で遊ぶと私を追い払おうとした。
「ずるい!!」
母親も、玩具も、全部持ってて。
私は、頭に血が上って自分が何をしたのか分からなかった。
ただ、覚えているのは後悔と、戸惑い。そして恐怖だった。
ぱしんっ……、
乾いた音が部屋に響く。
私の振り上げた手が、兄の頬をたたいた音だ。
自分が何をしたのか暫く理解できなかった。周りの状況がうまく頭に伝わらなかった。
ただ、兄が大きな声を上げて泣き出して走り去っていった。
次に、大きな足音がして怖い顔をした母親が見えた瞬間、横腹に強い衝撃と、足が地面を離れて体が浮いた。
そして、次に襲ってきたのは地面に叩きつけられる衝撃。
何が起こったのかすぐには分からなかった。
ただ、頭がぐらぐらとして、立っていられなくて、苦しくて、吐きそうだった。
頬に生ぬるい感覚がして涙が出ていた。
その感覚すらわからないほど、考えている余裕がないほど、体が震えていた。
自分では止められないほど、身体が震えていて、頭の中は
怖い。
という感情でいっぱいだった。
何か言わなければ危険なのに、身体はがたがたと震えるばかりで、息が詰まって言葉が出なかった。
「クソ餓鬼が!!ほら、立て。これくらいのことでウジウジ泣くな!鬱陶しい!!」
「ぁ…っ、…ご、めっ……なさっ」
立ち上がろうとしても、足が震えてうまく立てない。
息をするのがが苦しくて、自然と呼吸が速くなった。
早く立ち上がらなきゃ。早く、早く…立ってよ!
足を何度擦っても、震えは止まることは無くガチガチに足が固まってしまったかのように動けなかった。
立ち上がろうと腕を使うが、体全体が震えていてうまく立てないし、早く立たなきゃまた殴られる。と頭の中が混乱していた。
もう何が何だか分からなくなって、涙が止まらなかった。
立ち上がれずに四つん這いで這い蹲って、また立ち上がろうとした。
「遅い!さっさと立ちやがれっ!数え終わるまでに立て。ご、よん…」
さん
に
「っ…は、い」
震える身体。嗚咽交じりの震えた声。
それでも、立ち上がらなければいけないと本能的に感じて立ち上がり母親の顔を見た。
あぁ、もう許してくれるかな。
そう思った。
しかし、顔に来た衝撃。畳に這い蹲って揺れる視界で母親を見た。
「あんたねぇ、あれは拓のために買った玩具なのよ、あんたのために買った玩具じゃないの。」
「っ…わた、…わたしもっ、あそびたかっ」
ばしんっ…
「あんたの物がこの家にあると思うなっ!!うざい!」
叩かれて、蹴られて、投げ飛ばされた。痛くて、苦しくて、怖かった。
そして、辛かった。
身体も全身痛かったけど、心の方が一番痛かった。
人生で一番、母親が怖いと感じた。
人生で一番、母親と多く話した日だった。
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