再会してから、カスミはよく私に連絡をしてくるようになった。

 私が年明けの成人式までは滞在することを知って、無邪気に喜んでいた。その無邪気さがポーズなのか本心なのか、私にはいまいち測れなかった。

 それでもメールや電話でやり取りをするのは楽しかった。

 複雑な思いは確かにあった。しかし、カスミの声や文は、こちらの葛藤などまったく問題にしないくらいおもしろくて、心地よいものだった。

 カスミは今、実家から大学に通っているという。7つ先の駅で降りて、片道約40分。都会に慣れた身としては、たった7駅で40分もかかるのは驚きだった。だが、田舎は概してそんなものだ。駅の間を徒歩で移動しようものならそれだけで1時間かかってしまうだろう。私が通う大学も最寄り駅から6駅先にあるが、20分もかからないと言ったらカスミは目を丸くした。

「都会はやっぱりすごいね」

 なにがすごいのかはよくわからないが、たぶんカスミの方がすごいと思う。諸々の準備や駅までの移動も含めたら、家と大学の往復だけで2時間以上はかかるはずだった。

 連絡だけではなく、一緒に出かけることもあった。互いの家を行き来することもあれば、駅で待ち合わせをしてここより賑わいのある隣町に出かけることもあった。

 年末は家の大掃除を手伝ったり、サボってこたつに潜り込んだり、年越し蕎麦の出前を取ったり。

 年始は早朝から初日の出を見に行ったり。並んで参拝をしたり。順番におみくじを引いたり。境内の屋台でりんごあめを買ったり。

 年末年始はカスミと一緒にいて、それなりに忙しく過ぎていった。

 会うのはいつも気が引けて、最初のうちは気乗りしない。それが彼女に強引に連れ出されて、騒がしく過ごす間にだんだん吹っ切れていく。なんだかんだでカスミと遊ぶのは楽しいし、懐かしさに浸るうれしさも強かった。

 そうしていると、自分の罪が許されるような気がして、次第にカスミと過ごすことに抵抗がなくなっていった。

 目を見て話せるようになった。笑顔には笑顔で応え、冗談には冗談で返した。

 それはまるで、なんのわだかまりもない、ごく当たり前の友人同士のようで。

 その瞬間は、私たちはよき友人として寄り添っていて。

 それが昔から続いていて、これからもどこまでも続いていく関係のようで。

 だからこそ、余計に苦しい思いに苛まれた。

 カスミは私を許してくれたのだろうか。

 臆病なまま、8年間も逃げている私のことを、彼女はそれでも友人として見てくれるのだろうか。

 屈託のない笑顔には、何の裏もありそうに見えない。

 それが薄暗いものに見えるとしたら、きっと自分の心根が邪魔をしているのだろう。

 このままではいけない。カスミが私に何のわだかまりもなく接してくれるのなら、私は自分の罪にきちんと向き合わなければならない。

 そのためには、何が必要だろう。

 何をしなければならないだろう。

 謝るのは当然として、それ以外に何ができるだろう。

 成人式が終わったら、私はここを離れなければならない。

 その前に、何らかの決着をつけなければならなかった。

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