第2話
人狼が産み落としたと思しき童が、
報を受けた
とは言え、第一の征服対象となった和国に存在が確認されていない種族も多く、人狼もそこに含まれる。
その為、今回の報せは
「人狼は主に
「古代からおったのか、何時の頃にか和国へ渡来したのかは解りませぬが。
「和国中に畏怖された大江党でも知らぬとなると、本当に希なのであろうな」
「ですが、確実にいる事は確かですわ。少なくとも一人は、こちらの手に届く処に」
人狼の希少さを確認する
その一人こそが、血統が濃く濁った
「ともあれ、遠征に従った者と国元の者を併せても、
「それもありますが。このまま育っていけば己の正体を知らぬまま、いずれ霊力に餓えて理性を失い、食欲に任せて人間を襲ってしまう事になります」
加えて言仁は、人間の中で童が暮らし続けた場合の危険を指摘した。
神属は成長すると、霊力の不足を補う為に人間を食わねば生きていけない。当人が己の正体に気付かぬままならば、いずれ本能的に獣化して人間を襲う様になってしまうだろう。
「生母が生きておれば、人狼としての生き方を教え、子もそれを受け入れていたのでしょうがな」
茨木童子が嘆息する。集落に子を産み落として息絶えたという母狼が、生きて子を育てていたならば。きっと必要最低限の人間を密かに捕食し、その他は波風を立てずに人間に紛れて暮らす事を覚えただろう。
もっとも、その場合は和国で生息する人狼を、
「出家が決まっていると言うが、庇護するにはどうした物かの」
庇護して伊勢へ連れて来る事については、協議を始めた時点でほぼ既定である。
問題は、どの様にそれを行うかだった。
「寺の側はどうとでもなりますわよ。要は、養親や当人に角を立ててでも連れて行くか、ですわね」
「近場の寺へ行くのとでは訳が違いますからな」
一方、伊勢で人狼としての生を歩むのであれば、それまでの縁を絶ち切る事になる。寺という行き先が既にある以上、素直に応じる物だろうか。
伊勢の民に対しては勅命として親子の引き離しを行ったが、今回は州外の事である。
「人狼の血統を保つ為の胤として迎える上は、なるべく当人に納得させねばの。強引に浚って、不信を抱かれては困るでな」
「その少年が人狼である事を打ち明け、人間と共に暮らせぬ身であるという事を正面から話せば良いでしょう」
無言のまま皆が考え込む中、口を開いたのは言仁である。
「……信じますかな?」
案に対し、茨木童子が疑問を呈する。人狼という種の存在は、和国では殆ど知られていない。その様な物がいると聞いても、容易には納得しないだろうと考えたのだ。
「養い親は母狼の遺骸を見た訳ですし。必要なら法術で、当人を真の姿に変化させれば否応なく信じ、袂を分かたねばならぬ事を受け入れるでしょう」
「確かに、その目で見れば、納得せざるを得ないでしょうな」
返す言仁に、茨木童子も納得する。
「はい。その上でこれまで育てて頂いた事への謝意を、亡き生母に代わって養親に示し、相応の代償を渡せば良いかと思います。末寺の破戒僧が用意したであろう支度銭、少なくともその倍程は包みませんと」
「坊は優しいのう」
養親に対する配慮を怠らない言仁に、
その場の多くが同意する中、
「こちらの素性を明かしてはいけませんわ。伊勢が和国の神属を集めている事を、美州を含め他州に知られれば警戒を招きますわよ」
「では、皇国の遣いである事は伏せ、あくまで同族として迎えに来た事にしましょう」
「結構ですわね」
師の懸念にも萎縮せず対策を返す言仁に、
「ならば、遣いの者は人狼という事になりますから、
「
使者として
菅島の乳児舎は、次席の統括者が空席のままだ。万が一、留守中に不測の事態が起こればどうなるかと、彼は懸念したのだ。
「心配が過ぎますわね。その間は勿論、菅島の統括を小生が直に預かりますわよ」
「ならば安心です」
胸を撫で下ろした言仁の様子に、一同は心を和ませた。
その様な心根の優しい男子であればこそ、女達は言仁を慈しむのである。
「良かろう。この件の委細は
「はい、母上」
「温厚な
「勿論ですわ」
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