第67話
港の真向かいにある
勅令を拒んで集団自害した百姓女のなれの果てで、平家が仮宮へ初参内する際に随伴した物と同じである。
だがその時と異なり、いずれの
臨月の妊婦のおよそ倍もある布袋腹だ。かといって躰が肥え太っているのではなく、腹だけがはち切れんばかりの大きさである。
胎内に納まっているのは、
童達は
これが、歪んで育った童を、無垢の赤児へと再生する”還元”だ。
滋養を消費させて”還元”を促進する為に、
一門の者達にはすっかり馴染みとなった光景であり、三人はさしたる感慨を持つ事もなく、
一方、平家の子弟達は
「
子弟の内で最年長の男子が、傍らの父へ問う。
「長年に染み渡った因習は、富を分け与え、理を説いただけでは改まらぬ。大抵は、力でねじ伏せねば治まらぬのだ。だがそれは新たな憎悪を生む。故に”従わぬ者は赤子一人とて見逃さず禍根を断て”というのが、
哀しげに話す父を、子は不思議そうに眺めた。
父は子の疑問を察したが、あえて答えなかった。
口で説いても解るまい。侍なれば、己が身を以て知らねばならぬ事なのだ。
* * *
真夜中ではあるが、
報告を受ける為、わざわざ起きていたのではない。元々、夜の方が仕事がはかどる質なのであり、その代わり朝が弱い。
早朝に訪問される方が、彼女にとっては不快なのである。
「御苦労様でしたわね」
挨拶もそこそこに、三人は学徒へ講義を行う為の座敷へと通される。
概要については既に、
「それが、例の赤児ですわね」
「早速ですが、こちらを御覧下さい」
氷の如き冷たい視線で
「ふふ、まさしく
「導師の眼力を受けても、全く恐れを見せぬ。素晴らしいですな」
赤児は本能的に、
自分の庇護者が極めて強力であると悟った赤児は、安心して微笑んだのだ。
力を持たない並の赤児なら、視線に込められた恐怖を浴びて、心が壊れてしまっただろう。
赤児の様子に、二人の学師は共に満足そうである。
「さあ、お飲みなさいな」
赤児はそれを口に含み、力強く吸い始める。
優しく力強い
(相変わらず、心を掴むのが巧みな方だ)
(ひとまず安心かな……)
赤児を懐かせた
一方で、陵辱されて産んだ子を拒む母側に心情を寄せていた
(まだ情が理に勝る事が多い様ですわね)
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