第55話
「さあ、皆様。御願いしますわね」
師の非情さへの恐怖に駆られていた
(この場で
何事にも合理的で冷徹な
顔から哀しみが消え、思考を巡らせ始めた
「いかなる時でも、情に囚われずに考察する。それでこそ学問の徒ですわ」
「導師、もしかしてこれは、致死性の毒ではないのですか?」
時子を始めとした平家の女達は、男達の死を看取っても全く悲嘆にくれるそぶりがなく、いかにも安堵した様子である。武家の矜持があるにせよ、流石に奇妙だ。
何より、言仁自身があっさりと自裁を認めた上に、忠臣の死に様を眼前にしても落ち着き払っている。温和な彼の人となりからは考え難い事である。
もしかして、予め示し合わせた上で、毒杯と偽って偽薬を飲ませたのだろうか。
「いいえ。貴女にもお解りでしょうけれども、眼前のこれらは既に事切れていますわよ」
斃れ伏した平家の男達がいずれも息をしていない事は、奥妲にも一目で解る。
淡い期待はあっさりと崩れたが、
「遺骸は
意思を持たない
”新しき世の建立への参画に相応しくする”という、
わざわざ一度死なせた上で蘇生させ、能力を損なった状態で仕えさせる等、合理性を重んじる
「従来なら……」
「センセに
「も、申し訳ございません、近衛筆頭殿!」
「まあまあ、そうでしたわね」
二人の質疑応答を、呆れ果てた
「構わぬ、続けよ」
「ええんでっか、坊?」
「一番粗忽なのは汝じゃろうが。いくら元は乳母だったからと言うても、謁見の場で”坊”はなかろうて」
言仁の言葉に思わず聞き返した
ばつが悪そうに縮こまる猛虎の姿に、神属と平家の女衆の双方から、しのび笑いが漏れた。
重苦しかった大広間は一転して、陽気がすっかり支配していた。
「本当に
思わず感想を漏らした時子も、眼がすっかり笑っている。
「もう良い。面倒じゃから皆、普段通りに話そうぞ。此度の件については、腹を割って話すべきであろうしのう」
「
「ほ、本当!」
言仁の口からはっきりと、平家の男達が力を得た上で問題なく蘇ると聞いた
「時子殿は、この事を始めから御存知だったのですか?」
「はい、
「じゃ、侍の皆様も知っていたのですね?」
皆が承知の上で、一度死して平家の罪を償ったという事にする為、先程の様な一芝居を打ったのかと
「いいえ。男共は薬の正体を知らぬまま、正に命を絶つ為にあれを呑んだのです」
「ただ赦すばかりでは、拒むのが目に見えていたからね。彼等自身の心を救う為には望み通りに罰を与えた方が、けじめがついて良いと思ったのだよ。一端絶命させた上で不老長寿に体を造り変えるという新薬の作用は、まさに丁度良かった。死を賜るとは言ったが、蘇らせないとは言っていないしね」
「”馬鹿は死ななきゃ直らない”と言いますもんなあ」
「馬鹿は汝じゃ! 真面目な話に下らぬ冗句をはさみおって!」
「えろう、すんまへん……」
言仁の言葉に続けて
それを見た一同からは、遠慮無い笑いが涌き起こった。
「この場で知らなかったのは、平家の男共と
「私については、解っております」
「そうだね。直に言うべき事ではないし、自ずと気付かない様では困るよ」
言仁の言葉で、
この謁見は平家の為ばかりではなく、自分への試問の場も兼ねていたと言う事なのだろう。では、その評価はどうだったのだろうか。
「先程、
時子が謝意を述べると、言仁と
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