VS! SHOPLIFTER
宗谷 圭
VS! SHOPLIFTER
「すみません、これください」
ある日の昼下がり。町の書店、桜書房は、今日も平常運転でのんびりと営業している。
レジで作業をしていた女性店員が、客の呼び声に応えて振り向き、商品を手に取る。三冊の文庫を手際良くバーコードリーダーに通していき、レジの画面を見た。
「えーっと……1520円、お願いいたします。文庫にカバーはおかけしますか?」
「あ、じゃあお願いします」
「はい、かしこまりました」
頷くと、店員はトレイを手に取り、支払われた金銭を素早く数え上げる。
「では、先にお会計1600円、頂戴いたします。お釣りが……」
「てめぇ、放せよ! 触んなバカヤロー!」
突如聞こえてきた大声に、店員はレジを操作する手を思わず止め、声の聞こえた方へと振り向いた。客も、何事かと言う顔で同じ場所へと視線を向けている。
視線の先はコミックコーナーだ。その什器の陰から、一人の男性店員が肩をいからせながら姿を現す。次いで、その男性店員に、一人の少年が引きずり出された。少年の方は、高校生ぐらいだろうか。
男性店員は顔をしかめながら、少年をバックヤードの方へと引きずって行く。
「あー、はいはい。良いからとっととツラ貸しやがって頂けますか、このお馬鹿様が! あ、林ぃ! その会計終わったら、ちょっと裏来てくれ!」
「え? あ、はい!」
男性店員の呼び掛けに、レジの店員――林は頷く。すると、引きずられていた少年が血相を変え、目を剥いた。
「何だよ! 2対1でやる気か!? 卑怯だぞバカヤロー!」
「何とでも言いやがれでございますですよ。良いからちゃっちゃと歩きやがって頂けませんかねぇっ!」
少年の罵倒に全く怯む事無く……寧ろ不機嫌さを増して、無茶苦茶な敬語を慇懃無礼に話しながら。男性店員は少年を引きずったまま、バックヤードへと姿を消した。扉の閉まるバタンという音が、店内に響く。
「……」
「……」
林と客は、黙ったまま、しばらくその扉を眺めていた。……が、やがてハッと我に返ると、林はレジ操作の続きを行い、表情を愛想良く作り直す。
「はい、80円お返しいたします。ただ今春の文庫フェアで、角海書店の文庫をお買い上げのお客様にしおりをお付けしています。6種類の中から、お好きな物をお選びください」
「え? あー……じゃあ、3番で」
客も己を取り戻し、示されたしおりのサンプル一覧から可愛らしい少女の描かれたしおりを選び出す。林は「かしこまりました」と言うと、該当するしおりを取り出し、丁寧にカバーをかけた三冊の文庫と共にビニール袋へと入れ込んだ。
「では、こちら商品でございます。ありがとうございました」
商品を手渡し、頭を下げる。そして、客がレジから離れたのを確認すると、林はバックヤードへ行くべく、別の店員に声をかけた。
# # #
「水野さーん。万引き犯の様子はどうですか?」
扉を開け、バックヤードに入りながら、先ほどの男性店員――水野の名を呼ぶ。すると、入ってすぐに、むすりとした顔で、自らが引きずり込んだ少年――万引き犯と対面している水野の姿が目に入った。
「どうもこうもねぇよ。大暴れしやがって、今やっと大人しくさせたところだ」
辺りには、踏み荒らされたポスターやポップ、回収したスリップなどが床を覆い隠すように散乱している。後片付けの事を考え、林はため息を吐いた。
「あっちゃー……大分派手に暴れてくれましたねぇ。一人で抑えるのは、骨が折れたんじゃないですか?」
「まぁな。一人だと抑えるのに手一杯で、通報もできねぇし」
その割には、水野の顔は勝ち誇っているように見える。どうやら、林の知らない大立ち回りで、相手を完膚なきまでに叩きのめしたようだ。
「くっそー……本屋なんて文系のもやしか、根暗なオタクしかいねぇから、ケンカなら勝てると思ったのに……」
水野の前で項垂れていた万引き少年が、悔しそうに声を絞り出した。ナメられたものだな、と林は苦笑する。横では、水野が更に勝ち誇った顔をした。
「ふふん、本屋をナメるな! 毎日毎日、最低限度の人数すら確保できない状態で10㎏以上の重さを誇る段ボールを何箱も持ち上げ、運び。搬入された本を取り出し、数え、店内に出し、期限の切れた本を引き上げ。時には客の求める本を探して店内を駆け回る! ある程度の体力、腕力、知力、素早さが無いと、本屋の店員は務まらねぇんだよ!」
水野の言葉に、林も頷いた。袖まくりをして見せれば、女性だと言うのに薄らと上腕二頭筋に力瘤が見える。
「楽そうなイメージとは裏腹に、頭も体も最大出力で稼働しないと仕事がこなせず、その割に時給は、法律で定められた最低賃金。お陰で常に、人手不足です……じゃなくて」
ずれかけた話を、林が自分で軌道修正した。それに、水野が同意するように頷いて見せる。
「そうだ。てめぇ、よくも万引きなんてしてくれやがったな。白昼堂々店員の目の前で泥棒しようとしたからには、それなりの覚悟はできてんだろうなぁ?」
まるでチンピラのような水野の様子に、万引き少年は思わずたじろいだ。だが、ここで引き下がってはいけないとでも思ってしまったのか、キッと水野を睨み付けると噛みつくように言う。
「何だよ、覚悟って。ちょっと漫画を万引きしたくらいで、大袈裟なんだよ!」
「大袈裟じゃねぇよ! 万引きは窃盗罪だよ! 完璧に犯罪だっての! ……ってなわけで林、警察に通報」
「あ、そうでした!」
思い出した、という顔で電話機に向かおうとする林。その様子に、万引き少年が慌てて立ち上がった。
「あぁっ! 待て! 待ってくれ! 警察には言うな! 頼む!」
その言葉に、水野が胡乱な顔をした。機嫌はどう見ても、先ほどより悪くなっている。
「はぁ? 何で犯罪者捕まえて、警察に黙ってなきゃいけねぇんだよ? ……えぇと……」
ここで、二人の本屋店員は、未だにこの万引き少年の名前を訊き出していない事に気付いた。その事に、何故か万引き少年は勝ち誇った顔をする。
「名前だったら、言わねぇぞ。住所も、電話番号も。家族に知られたくねぇからな」
「おまっ……! 警察呼ぶな、家族にバラすな、名前も言わねぇって……ふざけてんじゃねぇぞ!」
思わず相手を殴りそうになった水野を、林が慌てて制す。そして、どこか困ったような笑みを顔に浮かべた。
「まぁまぁ、水野さん。また暴れられても厄介ですから、とりあえず話だけでも聞いてあげましょうよ。……けど、名前がわからないと、ちょっと不便ですね……」
言われて、水野は「ん?」と首を傾げた。言われてみれば、名前がわからないと一々「お前」「そこの」などと曖昧な呼び方をしなければいけない。面倒だ。
「あぁ……そうだな。林、適当に名前つけとけ」
「はい」
林が、何故か嬉しそうに頷いた。そして、どこかワクワクとした表情で万引き少年に向き直る。
「じゃあ、仮にあなたの名前を〝うましか〟君として、話を進めますね」
その仮名に、万引き少年は硬直した。どうやら、林の意図するところに気付いたらしい。
「え。〝うましか〟って……それって、漢字に直すとバ……」
「おい、馬鹿。聞くだけ聞いてやる。何で警察に通報されたくねぇんだ?」
どこか楽しそうに問う水野に、万引き少年……もとい馬鹿は、ぽかんと呆け、次いで口をパクパクと金魚のように開閉させ。そして、しばらくの間黙り込んだ。
「……松本」
数秒考えた後、馬鹿は憮然とした表情で固有名詞を述べた。それに対し、林がわざとらしく「はい?」と首を傾げて見せる。
「俺の名前は松本だっつってんの! 馬鹿って呼ぶな!」
「実際馬鹿なんだから仕方ないだろうが……」
馬鹿、もとい松本の叫びに、水野が半目で呟いた。その叫びや呟きをまるっと無視して、林は問う。
「それで、松本君? どうして警察を呼ばれたくないんですか?」
下手に沈黙したら、また先ほどみたいに遊ばれると思ったのだろうか。松本は観念したように、口を開いた。
「……警察の世話になったりしたら、家族に迷惑がかかるだろ?」
その言葉に、今度は水野が目を剥いた。
「家族に迷惑がかかるって自覚してんなら、最初っから万引きなんかやってんじゃねぇっ!」
「仕方ねぇだろっ! ……えぇと……俺んち、今おふくろが病気だから。心配かけて負担を増やしたくねぇんだよ!」
「お前今、えぇと、っつったよな? えぇと、っつって、理由考えたよな?」
松本の胸倉を掴みそうな水野を、またも林が適当に制した。
「まぁまぁ。一応最後まで話を聞いてあげましょうよ。それで? 松本君。お母さんが病気で、負担をかけたくないなら、何で万引きなんて馬鹿な真似をやらかしたんですか?」
林の問いに、松本は目を白黒させる。必死で考えているようだ。
「いや、その、えぇっと……そう! おふくろが病気で入院しちまって、家には今、俺と小さい弟、妹しかいねぇんだよ」
「父親は?」
水野の追撃に、松本の顔は赤くなる。普段では考えられないほど必死に考えて、脳がオーバーヒート寸前のようだ。
「親父は……えっと、いねぇ。去年の春、病気でぽっくり……えぇっと。だから、おふくろがいねぇ間は俺が弟達に食わせてやらなきゃいけねぇんだよ! えっと……家に貯えはほとんど無くて、おふくろの入院費だけでいっぱいいっぱいだ。……えぇっと……だから、盗んだ本を売って、食費を得ようと……」
「うん、わかった。林、110番」
「はい」
必死に考えた感動的な筈の犯行理由をサラリと流した水野と林に、松本は「だぁぁっ!」と叫びながら頭を抱えた。
「待て、待ってくれって! あんたら、何? 普通、こういう話聞いたら、ちょっと同情して見逃してくれたりとか……」
「するわけねぇだろ。こっちだって生活かかってんだから。……ってかお前、話の中に「えぇっと」が多過ぎるぞ。嘘つくなら、せめてそれらしく話せよな」
水野が親指を下に向けながら、冷たく言う。横で、林が何度目かわからない苦笑をした。
「仮にあなたの話が本当だとしても、いきなり万引きに走る理由にはならないですねー。お母さんの入院によって残された子どもの生活がままならないなら、相談に乗ってくれる機関はありますよ? 多分。あと、コミック本は古本屋に売っても一冊が10円から、精々70円の買い取り価格ですから……お母さんが退院されるまで兄弟三人が満足に食べていこうと思ったら、一体何冊万引きしなければいけないのやら、です」
「最近は、万引きの転売対策で古本屋のチェックも厳しいしな。全員が身分証明書の提出必須だし。……ってか、お前、未成年だろ? 未成年は親の承諾が無ぇと、売れねぇぞ?」
「え……」
言われて、松本はまたも硬直した。そこに、林が楽しそうにトドメを刺す。
「ぶっちゃけ、万引きして転売するよりも、アルバイトをした方がリスクも無く楽に稼げると思いますよ?」
「うち、文具も取り扱ってるから、履歴書買えるぞ。一番安い奴は、税込みで一袋105円な。駐車場に写真機も設置してあるから、700円出せば履歴書用の写真も撮れるぞ」
「合計805円で収入源を得られるなら、安いものですよねー」
そう言ってから、林の顔が少しだけ曇った。目が、やや座っている。
「ちなみに、うちのバイト代は時給700円です。一時間走り回って、お客に愛想振りまいても、就職活動の初期費用すら稼げないんですよ。わかります? この社会の厳しさ!」
「時給が低いのは仕方無ぇけどな。本屋って、委託販売制度利用している店がほとんだから。売っても利益が少ないんだよなー。……知ってるか? 500円の本一冊売っても、本屋には50円から、精々100円しか入らねぇんだぞ?」
「……だから?」
何が言いたいのかわからず、松本は思わず問うた。それが、地雷である事など知る由も無く。
「だから? つまりなぁ! 例えばお前が、500円の本を十冊万引きしたら、店の損害は5000円! 損害を取り戻して店の利益をプラマイゼロにするために、俺らは500円の本を少なくても50冊、多いと100冊以上売らなきゃいけねぇんだよ! 本が中々売れねぇこの時代に、100冊どころか1冊売るのが、どれだけ大変かわかってんのかコン畜生!」
「わかんねぇよ! 本なんか普段読まねぇし!」
「お前が読まなくても、読む奴はいるの! でもって、本屋の利益が少ないと、本屋が潰れるの! 本屋が潰れると、本を読みたい奴が本を買えなくなるの!」
「ネットで買えば良いだろうが! そしたら万引きされる心配も無くなるぞ! あんたらも、時給700円ぽっちの店で働かなくて済むぞ。あー、良かったなー!」
何故、馬鹿と言う人種はこれほどまでに地雷を踏み抜くのが上手いのだろうか。既に怒り心頭だった水野に、修羅が憑りついた。
「てめぇ! 俺らが何で低賃金に甘んじてまで本屋で働いてんのか、わかってんのか? 俺らはな、本が好きなんだよ。本屋が好きなんだよ。本屋を愛しているんだよ! 愛する本屋を、てめぇみてぇな万引き犯に潰されてたまるかコノヤロー!」
「水野さん、落ち着いてください。話がズレてます!」
やっと林が止めに入った事に少々安堵しながら。それでも、少々呆れながら松本は林を見た。
「……最初に話をズラしたの、あんたじゃなかったか? ……いや、俺は別にズレても良いんだけど」
「良くねぇよ。林、警察は?」
怒りが収まらない様子の水野に、林は「あぁ、はい」と頷いた。
「水野さんが委託販売の話をし始めた時に、呼びました。オペレーターのお姉さんに「またですか?」って言われちゃいましたよー……」
情けなさそうに笑う林。それに、ぽかんとする、水野と松本。そして、水野の頬がひくりと引き攣った。そして、無言のままに松本の方へと向き直る。
「またですか? ……はい、またですね……。毎日毎日本当すみません……って、何で俺が警察に謝らなきゃいけねぇんだバカヤロー!」
「知らねぇよ! 万引き犯に言えよ!」
「お前だよ!!」
あわや第二ラウンド開始かと思われるその状況を、林は飽きたような顔で見詰めている。はぁ、と深いため息をついた。
「いつになったら、元の業務に戻れるんだか……ん?」
電話が、鳴っている。林は怒鳴り合う水野と松本の横を通り抜け、受話器を手に取った。
「はい、お電話ありがとうございます。桜書房でございます。……え? えぇ……はい。はい……えぇっ!?」
驚いた声に。水野と松本は言い争いを止め、林の方へと視線を向ける。林の顔は、どこかうんざりした様子だ。
「はい……はい、わかりました。お願いします」
電話機に向かって頭を下げてから、林は受話器を置いた。それを待ちかねていたように、水野は声をかける。
「どうした? 今の電話、誰からだ?」
問われて、林が振り向いた。苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あの……水野さん。近所の杉本薬局さんからなんですけど……杉本薬局さんで万引き犯が捕まって、そいつが未精算と思われるコミックを何冊か所持していたそうです。多分、うちの商品じゃないかと……」
「はぁーっ!?」
思わず、水野は大きな声で叫んだ。一匹いたら三十匹はいると思え、という言葉が頭を過ぎる。
「そんなわけで、私ちょっと今から杉本薬局さんまで確認に行ってきます。……あ、今、田村君が一人で店回してますから。警察への引き渡しが済んだら、すぐに業務に戻ってくださいね。あと、売り場が乱れていますから、余裕があったら整理をお願いします!」
言いながら、既に林はエプロンを脱ぎ、上着を羽織っている。一旦店へ戻って田村に声をかけると、林はそのまま杉本薬局へと出かけていった。バックヤードには、水野と松本だけが残される。
「……」
「……」
重苦しい沈黙に包まれる。やがて、水野が虚ろな目をしながら、松本の方へと向き直った。
「おい、そこの馬鹿万引き犯……松本っつったよな?」
「え? 俺!?」
名前を呼ばれて思わず自らを指差した松本を、水野は害虫でも見るような目で見た。その目が、妖しく光る。
「てめぇ以外に誰がいるってんだ? ……事務所荒らした事は不問にしてやっから、警察が来るまでちょーっと手伝えや……。てめぇがパクろうとした額の利益を出すために、俺らが普段どれだけ苦労しているのか思い知らせてやるからよ」
「え?」
後ずさる松本に、水野はニコリと微笑んだ。怖い。
「なぁに、ど素人に難しい仕事をやらせるほど、俺も鬼じゃねぇ。ミスなんてされたら、こっちの損だしな。ちょっとばかり在庫チェックと、本棚の整頓と、在庫の補充と、コミックのシュリンクと、店内のモップがけをやってもらうだけだ」
ぽん、と、松本の肩に水野の手が置かれる。その手を叩き落としながら、松本は抗議の声をあげた。
「ま、待て待て待て待て! よくわかんねぇ仕事もあったけど、それ絶対、警察来るまでにやりきれる仕事量じゃねぇだろ!」
「やり切れなくてもやるんだよ! てめぇがどんだけナメた事をやらかしたのか、忘れないようその身に刻み付けてやらぁっ!!」
水野の手が、再び松本の肩を掴む。今度は、獲物を決して逃がさんとするかのような、力強さだった。どう足掻いても、逃げられそうにはない。
# # #
「ちょっ……何だよ、コレぇっ!? やってもやっても終わんねぇーっ!!」
店内に、松本の叫び声が響く。その松本の横では、水野が目にも止まらぬ速さで本棚の整頓を行っていた。速過ぎて、本棚からズドドドド……という音が聞こえてくる。
「良いから早く整理しろ! 棚がぐちゃぐちゃじゃあ、お客様が目当ての本を見付けられねぇだろ! ……ほら、口動かす暇があるなら、床にモップかけろ! 埃でズルズルするじゃねぇか! ってか、まだコミックコーナーの補充終わってねぇのかよ! 早く棚埋めねぇと、品揃えが悪い本屋のレッテル貼られるぞ!」
もの凄い勢いで棚の整頓をこなしながら、水野が松本を叱咤する。鬼の形相だ。
「いや、これ無理だから! すぐに終わるような仕事じゃねぇから!」
「俺らはそれを、毎日少人数でやってんだよ! レジで接客しながらなぁ! それなのにお前らみてぇな万引き犯の相手までしてたら、いつまで経っても仕事が終わんねぇんだよぉぉっ! 畜生! 万引き犯なんかみんな滅べ! 滅んじまえぇぇっ!!」
呪詛の言葉を吐きながらも、水野の手は止まらない。修羅の如きその様子に、松本は思わず跪いた。
「もうしないから! もう二度と万引きなんかしないから! だからもう、許してくれぇっ!」
その言葉が、三度目の地雷になろうとは、誰が想像しただろうか。水野が、カッと目を見開いた。
「うるせぇっ! 万引き犯の「もう二度としない」なんて、もう二度と信用なんかするもんかーっ!!」
「もう嫌だぁぁぁっ! おまわりさーん! 早く来てぇぇぇっ!!」
悲痛な叫び声が、辺りに響いた。
その日、その町からは万引き常習犯が一人、減ったという。
……もしもあなたが、万引きをしようと思ってしまう事があったら、思い出して欲しい。
怒れる本屋は、いつでもあなたのそばにいるという事を。
そう、今まさに万引きをしようとしている、あなたのすぐ後にも……。
(了)
VS! SHOPLIFTER 宗谷 圭 @shao_souya
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