嫌われ者の話【カラス】

「ねえ、九郎くろう。あなた、また路上のゴミをあさる気?」

「当然だろう? 俺は腹が減った」


 一緒に電柱に留まっていたカラス美からすみが、乗り気では無さそうな声を上げるものだから、俺は「カァ」とため息を吐きそうになった。

 人間が沢山のゴミをポイ捨てしてくれるものだから、俺たちはロクに探さずとも、こうして街に出て電柱に留まるだけで食料を見つけることが出来る。

 ならば、利用しなくては損だろう。

 俺たちも、そうそう生活に余裕があるわけではない。あるもの、使えるものは、遠慮なく使う。そうしないと、きっとすぐに死んでしまう。


「でも、ゴミを散らかすと、人間に迷惑がかかるじゃない。そのせいで、私たちへの風当たりも、また強くなるわ。これ以上暮らし難くなるなんていやよ」

「カァ」

 甘っちょろいを通り越してなにを言ってるんだコイツはと、今度こそ思わずため息を吐いてしまった。

 その態度が癇に障ったのか、カラス美の目がつり上がる。


「なによ、鳴いたりして。おおかた、私の言うことが気に食わないから他の女を呼び寄せて、浮気でもする気なんでしょう?」

「ちげえよ、ただのため息だよ」

「そのため息も、私に嫌気がさしたから出たんでしょう?」

「……」

「ほらやっぱりそうなんじゃない」

「お前が人間のことなんか気にしてるからだよ」


 この手の言い合いでカラス美に勝ったことはないので、俺は、無視して話を進めることにした。


「なによ、私は間違ったことは言ってないと思うけど」

「お前は間違ってないよ。間違ってるのは、人間のほうだ」

「どういうこと?」

「あいつらがゴミを出しているのに、嫌われるのは何故か、俺たちのほうだ。人間どもは、いつも順番を間違えてる。ゴミが無けりゃ、俺たちは街に出てきたりしねえのによ」


 だから、人間なんて気にしなくていいんだよ。そう言いながら、俺はすぐ近くの電線に飛び移る。カラス美も、パタパタと後に続いた。

 そして、何かに気付いた顔をする。


「あなたの言い分はわかったわ。でもあなた、たまに、ちゃんとゴミ捨て場に捨ててあるゴミまで荒らしてるじゃない。ああいうのは、さすがに止めたほうがいいと思うわ」

「カァー、カァー」思わず、ため息が立て続けに出てしまう。


「いいか? 周りはゴミだらけで、俺は鳥頭だ。

 ゴミ捨て場とそれ以外の区別なんて、もはやつかねえよ」


 どこもかしこも、全部ゴミ捨て場に見えちまう。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明日の話は明日の話。 車輪 @syarinn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ