第17話

 霧の晴れた山道を、一台の自動車が走っている。視界はクリア。法定速度を守り、常識の範囲内の速度で走行していた。

「神林警部、呆れた顔してたなー。何でお前らがここにいるんだ、って感じでさー」

 助手席の泉が言えば、運転席の正樹は同意するように頷いて見せる。

「そうだな。ついでに、少し憐れんでるような顔もしてたな。また事件に巻き込まれたのか、気の毒に、って顔だった」

「いいや、違うね。あれは、また道に迷ったのか……って感じの顔だった」

 泉の言葉に、正樹はムッと顔をしかめた。そして、顔を険しくしたまま言う。

「断じて迷ってない。俺達はただ、霧の女神様に事件現場へ導かれるままに向かっていた。……それだけだ」

 その言葉に、泉は呆れた。思わず、深いため息が出てしまう。

「またそれかよ。……んで? 今走ってるこの道も、女神様に示された道なわけ?」

「え……?」

 正樹は、思わずブレーキを踏んだ。そして、辺りを見ようと首を巡らせる。

「えーっと……」

 先ほどまでの余裕の表情はどこへやら。顔には、焦りが濃厚に浮かび上がっている。泉が、更に深い、深ぁいため息をついた。

「またかよ! どういう方向感覚してんだよ、お前の崇拝する霧の女神様は! あー、もうヤダ……。こいつの相方すんの、ホントヤダ。名探偵なら、自分が進むべき現実の道もバシッと推理しろよーっ!!」

 泉の叫び声が、車内に留まらず、山全体に木霊した。



(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

霧隠荘殺人事件 宗谷 圭 @shao_souya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ