重力波観測装置がとらえた謎の巨大天体〈ゴースト〉。
その奇怪なデータは、時代遅れの小さな観測装置でしか
検出できなかった。あいつの正体はいったい何なんだ?
〈ゴースト〉の論文を辛くも書き上げたばかりの酒井は、
素粒子研究所の女性、ヒカルからコンタクトを受ける。
というのも、2人は共同研究をしているらしいのだが。
記憶の抜け落ちた4時間と、記憶にない共同研究テーマ。
何ともいえない違和感をいだきつつも、酒井はひとまず、
量子コンピュータと格闘してデータ解析を進めていく。
第2章と第3章の理論や実験手法の説明がとても難しいが、
酒井が「要は~~だな」とフォローを入れたりするので、
ここをどうにか呑み込んだら、ノリで読み通していける。
物理屋さんの軽妙な語り口の愚痴、専門的すぎるバカ話、
詳細な理論の数々、観測や実験の装置の描写のリアルさ。
……友人にBH屋さんが複数いるので、謎の親近感が……。
BH屋さんでも、ガチ理論屋と重力波推しと観測寄りで、
ちょっとずつ視点や強みが違うから、彼らの話は面白い。
重力波を「検出した」を「うかった」って言ってたなあ。
あと、『シュレーディンガー音頭』を教えてもらった。
鰐のバシャバシャを観測しそうなほどLIGOは繊細とか、
TAMA300がXJAPANのライヴの震動を検出した話とかも。
そして、理論系の物理屋さんの論文発表ペースの速さには
驚かされるし、時には自分と比較して本当に焦りもする。
粘菌萌え女子の礼奈もカルチャーショックを感じるのでは。
文章そのものはとても読みやすいが、理論は本気で難しい。
ゴリゴリの理論派SFに挑戦したいかたには強くオススメ。
「なるほど、わからん」けれど、謎の面白さに満ちてます。