閑話22.4 修学旅行の夜は長い

 のぼせた明日香を背負って大輝は廊下を進む。目的地は彼女の部屋だ。

 自分の部屋という選択肢もないわけではないが、相方が邪魔になる。

 

 詮索されるのも面倒だし、あられもない姿の明日香を人の視線に晒させるというのも、気に入らない。先生に助けを求めるわけもいかないのだだから、選択肢は一つだった。


 問題は、明日香と同室の少女がこの状況を見てどう思うかということだが、そこに頭が回る器用な大輝でもない。


 背負っているのは、何も明日香のウォーターベッドのようなぽよぽよとしたおっぱいが当たって気持ちいいから、というわけでは断じてない。単にお姫様抱っこをして部屋まで移動する腕力が大輝にないだけだった。


 素肌に浴衣を羽織っただけのあられもない姿の明日香の、おっぱいの感触を背中で味わいたい、という気持ちはない。いや、少しはあるかもしれないし、実際に背中に当たる二つのふくらみに、大輝の頬は緩みっぱなしだった。


 部屋の呼びベルを押すと、中から顔を覗かせたのはボーイッシュな女の子だった。水泳部の真由とは対照的に、小柄で凹凸も控えめだ。少し濡れそぼったショートヘアに、大人用の浴衣のサイズがやや大きく、ダボダボに見える。ささやかな胸の膨らみがなければ、男の子と勘違いしてしまいそうだった。


 その少女が、明日香と同室にしてクラス委員の岬愛優あゆだった。彼女は明日香を背負った大輝を見ると、うさんくさそうな目つきをした上で、にんまりと微笑んで二人を導き入れた。


「君が明日香のよく話す大輝君だね。ふーん、かなり奥手って聞いてたけど、けっこう大胆じゃない。もうヤったの?」

「何もしてないです!」


 意識不明の着崩れた浴衣姿の女の子を背負っている男性。どこから見ても愛優あゆの見方の方が正しそうだった。大輝は反射的に反論したものの、説得力の無さは自覚している。


「浴室で夢中になってヤりまくっちゃって、気づいたら明日香が気を失ってたんだね。で、まだ出し足りないから、明日香の部屋に連れていって二回戦をやろうと。うんうん、わかるよー。男の子だもんね」


 決め撃ちで言う愛優あゆにどう反論したらいいか大輝は戸惑ったが、実のところ、拡大解釈こそあれ、そこまで大ハズレではないような気もした。もしあのまま明日香が気を失わなければ、修学旅行の夜なのだ。羽目を外しても不思議ではない。


 このままドア越しに騒ぎ続ければ巡回する教師に気づかれるかもしれない。労力の割には成果の乏しい押し問答を続ける理由もなく、大輝は苦笑いするしかない。


「もうそれでいいですから、中に入れてくださいよ。このままの姿勢ってけっこうつらいんですから」

「明日香重そうだもんね。こんなこと聞かれたら泣いちゃうだろうけどさ。大輝君、ぶっちゃけ重くない?」


「重くはない……です」

「そう? 明日香のおっぱい重いでしょ。この前、揉ませてもらったんだけど、感動的だったよ? って、もう君たち乳繰り合うくらいしてるからわかってるか。明日香を負ぶってるとさ、たわわすぎるおっぱいが背中に当たって気持ちいいでしょ。つらいって、つまりこっちの方だよね?」


 にししと下品に笑って愛優は大輝の下半身の方を覗き込む。屈めているためわかりづらいが、目当てのところはこんもりと膨らんでいた。


「ほっほー、やっぱ男の子だね。うはっ、こんなに大きくなるものなんだ。いやいや、これなら確かにつらいよね。さささ、入って入って」


 まるっきり勘違いされていたが、確かにそれもつらいものの一つではあった。とはいえ、自己処理できるわけでもないから、つらい状態は続くわけだが。


 愛優あゆに背中を押されて大輝は入室する。ふわっと甘い女の子の香りが鼻孔をくすぐる。明日香と愛優二人の匂いで部屋は充満している。フェロモン十分な香りに、大輝の股間はますますあらぶってしまいそうだった。


「左が明日香のベッドだよ」


 教えてもらったまま、明日香をベッドに横たえた。おぶっているだけだったとはいえ、浴衣のはだけ具合はなかなかだった。豊かな二つの山は半ばほと露わになっていて、ただ戴きだけが浴衣の縁に引っかかるように隠れている。


 裾も大きく開かれ、むちっとした彼女の太ももが艶めかしい。もう少しで見えてはいけない部分が開帳されてしまいそうだった。


 あまりにも目の毒な状態に、大輝は困ったように視線を彼方へと向ける。浴衣を直してあげたかったが、愛優あゆの前できわどい部分に触れるのは、さすがにまた何か言われそうだった。


「あれ、さっさとおっぱい揉まないの? ベッドなんだし、浴衣なんて脱がしちゃえばいいじゃない」

 何を期待されているのか、友人の貞操を簡単に売り渡そうとする愛優は目を爛々と輝かせている。


「しませんっ。ってか、女の子同士なんだし、僕より岬さんが明日香の浴衣を直してあげてほしいんですけど」


「またまたぁ。無理しちゃダメだよ。こんなチャンス千載一遇だよ? 千載って、千年のことなんだよね。ここを逃したら、明日香は骨になっちゃうよ? ある意味これ以上ないくらい丸見えだけど、さすがに骨になった明日香を抱いても気持ちよくないと思うんだ」


 むちゃくちゃな理論を展開する愛優あゆだった。だが、彼女の言うことも一理ある。今日が一生に一度のチャンスであることに違いない。大輝はゴクリと唾を飲み込んだ。


「ほらほら、やっちゃいなよ。やってる間に明日香も目覚めると思うんだ。仮に気づいても君となら明日香は拒絶しないし、むしろそのまま嬉しくて泣いちゃうよ?」


 無責任な背中押しではあったが、説得力はそれなりにあった。できることならしっかりと初めてを体験したい大輝だが、このまま据え膳を逃せるほど、息子の聞き分けがいいわけではない。


 明日香のはだけた肌を見つめながら、大輝は妄想する。このまま甘言に乗って明日香とエッチしてしまったほうがいいのか、それとも紳士に振る舞った方がいいのかと。

 頭の中で天使と悪魔が戦いを続けるなか、やはり懸案事項は愛優あゆだった。


「その……さすがに見られながらするのは嫌なんだけど」

「おかまいなくー」

「いやいや構うよ!」


 半分以上、このまま流されてしまってもいいかなと思っていた矢先、愛優が笑顔で答えるので秒速で答える。


「えー、親友の初めてを見物させてよ? 明日香もボクに見られて破瓜したいと思うんだ」

 普段の恥ずかしがり屋な明日香のことを思えば、むしろ友人に見られていたとわかれは恥ずか死にしてしまいかねない。無茶苦茶な論理だった。


「なんですかそれ。今から明日香を起こして聞いてみましょうか?」

「そうしたら絶対に拒否するのわかってるくせに。ほら、今が本当にチャンスだよ? ボクなんかは道ばたのお地蔵さんだと思って、童貞卒業しちゃいなよ」


「そんなにしゃべる地蔵がいてたまりますか。それに、僕だって見られるのは恥ずかしいんですけど」

「まぁまぁ。クラスメートがセックスしているところを生で見られるなんて一生に一度あるかないかのチャンスなんだし、減るものでもないんだからここにいさせてよ」


「明日香じゃなくても、見物されながらなんてできる度胸ないですよ」

「またまたぁ。見られて興奮するものなんでしょ? あ、そっか。チェリー君だから、初めてが失敗しないかとか、下手とか、早いとか思われるのが嫌なんだ。まぁ、ボクも処女だし、明日香とした後は夜も長いことだし、ボクの初めても奪っていいからさ」

「そういう問題じゃないです!」


 実際に、下手とか早いとか思われたらどうしようかと内心心配している大輝だった。


「あっ、そうだ。上手くできそうになかったらボクがアドバイスあげるからさ。入れる場所がどこだかわからないとか、上手く入らないとかよくあるらしいじゃない。失敗しないためにも、ボクが付き添っている方がよくないかな?」

「さっき自分で初めてって言いましたよね?」


「ちっ。まぁ、でもいろいろアドバイスできそうっていうのは本当だよ。女の子のどこが気持ちいいかなんて、わからないでしょ」

「もうああ言えばこう言う」


「それはこっちの台詞だよ。わかったわかった。二人とも裸なのに、ボクだけ浴衣姿なのが恥ずかしいってわけだね」


 どこまでも引くつもりはないのか、愛優あゆは先手を打って浴衣をはだけさせ、ブラとパンツを脱ぎ捨てた。白い布がひらひらと宙を舞う。


 明日香と比べれるまでもなく凹凸に乏しかったが、それでも浴衣の縁から覗く微かな膨らみが女の子だということを物語っている。


「そういう問題でもないからいきなり脱がないでくださいよ」

「んー、じゃあいっそのこと、ボクとエッチする? 君とならまぁいいかなって感じだし」


「しませんからっ。もし明日香が目覚めたら、どういう顔して言い訳するんですか」

「そこは宥めながら3人で仲良くエッチするでいいじゃないか」


 この学校には貞操観念が狂った人しかいないのかと大輝が呆れていると、急に素に戻った愛優あゆが明日香へ向けてぽつりと言う。


「もういい加減起きなよ。さっきからずーっと狸寝入りしているのは知ってるんだからさ。これ以上寝てるつもりなら、本当にボクが大輝君を押し倒しちゃうよ?」

 指摘されて驚きつつ明日香を見る。その瞬間、彼女の目がぱちりと開いた。

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生徒会でえっちなことしちゃいけませんか? 嘘だが @usodoumei

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