【6】

 何故、『黙示録』の内容と現実世界の符号は、アップロードから二年後だったのか?

 それについては、殆どの研究者の見解が一致している。

 書詠かくよフミの年齢が十七歳と設定されていること、それが理由だ。


 『黙示録』がアップロードされたのは、書詠フミ生誕十五周年の二月三日。 『黙示録』に書かれた内容は、「十七歳」という設定を付与された書詠フミの日記であったことを考えれば、二年後の二月三日から現実と符号したことは説明がつく。

 それこそオカルティズム溢れるこじつけではないか、と嘲笑する者も多かったが、それ以外に納得のいく説明が出来る者が書詠フミ本人以外にいるだろうか?

 陰謀論を信じるなら、世界を牛耳るイルミナティだかフリーメイソンだかの二ヶ年計画だったと言ってしまうことも出来るが、そんなことを言ってしまえば、何だってそれで説明がついてしまう。そうでなければ偶然の一言だ。それこそ馬鹿げている。


 『黙示録』に書かれた十七歳の少女の日記は、最後のひと月、一月一日から二月二日までの間は、前述したように世間的なニュースには一切触れていない。いつも通り、友達や家族と交わされる日常のエピソードを中心に、高校生らしく、自分の今後の進路について悩みつつ、大きなカタルシスも無いまま終わっていく。

 最後の数日から、いくつかの箇所を引用しよう。



・一月二十七日・

 あと一週間で、誕生日。十八歳! やっほーい、お酒飲めるんだっけ? って飲めないよね。煙草も。煙草は吸うつもりないけど。そんなことより、受験です。



・一月二十八日・

 受験勉強で、日記を書くのが短くなってる。私は、書くことが好きだから、本当は勉強より日記に力を入れたいんですけど……。でも、あとちょっとのガマンだよね。



・二月一日・

 うわ、もうあさって誕生日! 早くない? よく一年私日記続いたなー。絶対無理だと思ってた。三日坊主だと自分でも思ってたけど、意外と書けちゃうもんだね。才能あるかも(笑)

 でも、私が欲しいのは日記の才能じゃない。

 大学には当然合格したいけど、それが一番欲しい物でもない。たぶん、私はぼやーっとしてる夢ってやつが、なんなのか、確かめるために大学に行くんだと思う。うん、そうだ、行きたい。受験が終わったら、また本がいっぱい読める……、その誘惑もあるけど、読むだけじゃなくて、勉強するだけじゃなくて、日記だけじゃなくて、書いてみたいな。

 受験終わったら、十八歳になったら、小説、書いてみよう。自分の書きたいことを、いっぱい。自分のために。それでいつか、誰かがそれを読んでくれたら嬉しいな。



・二月二日・

 おめでとう、明日の私。十八歳の私は、自由だ。



 以上が引用箇所だ。

 一年間に渡って、毎日ノート一枚分近くの文章が綴られており、引用箇所は、各日付の一部に過ぎない。

 ただし、二月二日の日記だけは、この一行が全てだ。

 最終日にして、三六五日中最も短い。

 『黙示録』最後の一文でもある。

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