【4】

 何がそんなに面白いのか――。


 『黙示録』の魅力を問われれば百人百様の返答があるが、共通して挙げられるのが通奏低音のような不穏さであろう。

 主人公の少女は、学校で起こったこと、家族と話したこと、ふと日常で気に留めたことなどを散文的に記録している。そこには強い詩情が込められている様子は無いが、時々思い出したように「地震があった、こっちもけっこう揺れた。こわい」、「行方不明の子がニュースで見つかった。犯人、死ねばいいのに。って思う私も、悪人?」、「テロのニュース、マジで見たくない」と、唾を吐くように世界への不安を呟いているのだった。

 それが、「今日は誰々と一緒に、ケーキ屋さんに行った。彼氏ののろけを聞かされたけど、嬉しそうにしているあの子を見るのは私も嬉しい」、「晩ごはん、ハンバーグだった。うまし。」、「テスト、英語さんざんだった」といった呟きとともに混在しているのだ。

 その不穏さと日常の絶妙なバランスは、あたかもその少女が、本当に我々と同じ世界に生き、存在していると言っているかのようだった。


 そこが、世界中の読者を惹きつけて離さなかった。


 私が冒頭で、書詠かくよフミは何よりもまず「少女」であり、あらゆる肩書の前に、「書詠フミという一人の少女」として認識すべきである、と書いた理由をお分かり頂けただろうか。


 そう、『黙示録』を読んでしまうと、書詠フミという「少女」の存在を、認めざるを得ない気持ちになってしまうのだ。

 あの日記を通して彼女が、我々と同じ世界に生きていると思わずにはいられなくなってしまうのだ。

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