【2】

 そして、書詠かくよフミが広く認知された最初の十年から、さらに五年が経った年の二月三日。


 書詠フミは生誕十五周年を迎えた。

 十五年前の二月三日、ソフトウェア商品として販売された彼女は、いまや日本文学のアイコンである。このアニバーサリーデイに、多くのノベロEたちが、「Narrowなろ Thievesしぶ」に記念作品をアップロードした。十五歳の誕生日ということで(もっとも書詠フミ自身は永遠の十七歳だが)、例年以上に多くの作品がアップロードされ、内容はどれもハッピーな物語ばかりとなった。



 だから、その作品は初め、埋もれてしまっていた。



 同日にアップロードされた千を超える幸せな物語たちの中に、埋もれてしまっていた。


 誰だってパーティの時は派手な衣装を着たがるものだ。その作品は、皆がピエロのようにカラフルに着飾っている中で、一人、喪服を着ていた。

 皆が、多動症にかかったかのように騒ぎ立てている間、じっと壁の花となって佇んでいた。

 そして、その異彩さからやがて発見され、瞬く間に拡散された。



 『黙示録』



 十五年目の二月三日にその名でアップロードされたノベロイド小説は、その年の日本のベストセラーとなり、翌年には翻訳されたものが世界中でベストセラーとなった。

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