Ended up it was earlier Even if nothing___.
例えば、君が真ん中な世界
見えないから信じられなくて
五線譜に絵の具をぶちまけて
それでも明日を探しながら
飛べないきみが血を吐きながら歌う
小さな箱庭で流星になった子供たちに
僕らが無限を解き放って
新世界を描けるなら
こんな物語を
きっと全ての物語を流線型に
いつかは必ず終わるから。
一回だけしかないのなら一回だけで充分だ。
何度でも言うよ
『行き着いた先に何もなくても』
□1■/3■
└や■■た■か■
無い、無い、無い無い無い無い無い無い。
何も、何も無い。
色の【無い】煤けた様な世界。黒も、白も。
なんにも【無い】モノクロの世界。
ぼろぼろ、ぼろぼろ、火の点いた煙草のように。
紫煙を、私怨を上げ、先から先から崩れていく。こぼれていく。止まらない、留まらない。もう、灯らない。
ここには何も無い。何もかも、無くなってしまった。終わってしまった世界。カーテンの閉じた、後の世界。
止まなかった音が止み、世界は闇、人々は病み、忌み、消え失せた。
何も鳴らず、何も、何も。ふと気を抜くだけで前後不覚になってしまうような悲しい世界。
これが終幕ならなんてふざけたエンディングなのだろうか。誰がふざけろと叫ぼうが、一つの世界が、全てが、その命のシステムが、今、幕を閉じようとしている。
そんな何もない世界に、何もなくなってしまった世界の、その真ん中に男がぽつり、佇んでいた。
ただただ鈍色とすら呼べない何もない空を見上げ、表情に陰を落とす。暗く、深く。
「………ごめんな」
見た目は三十代半ばだろうか、少し無精髭を生やした男。その身体に、精神に、傷付いていない所なんて無いかのように、全てが傷だらけの姿。
ぼろぼろとしか表現出来ない姿で。襤褸布のような姿で。
悲しそうに、切なそうに、悔しそうに、ただ呟く。
『それは…誰に向けた謝罪なのかな』
ふわりふわりと、何もない虚空から声が優しく響く。慈しむように、悲しむように、苦しむように、それでも、それでも、撫でるように、包み込むように。暖かく光輝く。
「んー、色んな奴に、だな。勿論お前を含めて」
もう、限界だったのだろう。男は崩れ落ちるようにその場に倒れ込み、虚ろで冷ややかな空を見上げ、そう、紡ぐ。男の脚は比喩でもなんでもなく、もう消え失せて始めていた。
『何を…言っているんだ……君は本当によくやってくれた。これでもかってぐらい努めてくれていたじゃないか』
顔は見えないが、きっと【それ】に表情があるとすれば、悲しそうな顔をしているのだろう。口惜しそうに、その男の性格を余すことなく知っているから、傷に塩を塗り込むと分かっていながらも、我慢できず優しく讃えるように。
「それで、この有り様じゃあな。間違いなく俺じゃこの世界に虹を描けなかった、背負った癖によ。色んなやつに割り食わせちまった」
目を閉じて、深く、途切れながらも冗談混じりに言葉を吐く。喉の奥を鳴らすようにくつくつ笑いながら、吐く。吐く。弱音染みた、鈍い音を吐く。その間もぽろぽろ、ぽろぽろと世界は崩壊へのカウントダウンを進める。
それに呼応するように響く声は少しくぐもり、悔しそうに、ただ、ひたすら歯痒さを噛み締めたように。
『……いいや、まだ終わってない。君が世界を終わらせなかったんじゃないか、色を、たくさんのものを遺してくれた、君はきっと皆のおかげだなんて言うけども、それは君がずっと、ずっと抗ったおかげじゃないか』
そう、絞り出す。【それ】は、讃えるのだ。男の軌跡を、冗談染みた奇跡を。
他の追随を許さぬ奇蹟を知っている。
男の最愛の者よりも、ある意味では、知っている。
心があるのかどうかは分からないが【それ】は心から男を讃え続ける。男の無念が、誰よりも悔しい。自分じゃ足りなかった、不甲斐ないモノクロームコントラストだなんて謂わせたくない。
倒れ伏した男は、何も言わない、言えない。口を開くと涙やいらぬ言葉が瀑布のように溢れ出てしまいそうで。
だが、だが。男は、口角をにじり上げる。
「なぁ、オイ。知ってるか?」
そう、無理矢理に明るく、いつもみたいに問い掛ける。あの日のように、あの時のように。無邪気に。【それ】の言葉を遮った。
分かっていたように、ただ優しく受け止めて、柔らかく聞き返す。
『…なんだい?』
「人が、さ。生まれたときに初めて吸った空気ってのはさ、死ぬまでそいつの肺の、心の片隅に残るんだとよ」
『……何を』
「【鍵】だよ【鍵】」
『いつから』
「あいつがよ、言うんだ。世界の終わりの、その前の日に産まれた子どもにだって、それでも、それでも名前を付けていたい、付けたいってよ」
『……やっぱり、君には、君たちにはいつも驚かされるね』
少しだけ。間が開く。
「なあ、頼む、信じてるけど、やっぱ見てやれねぇのが悔しい。なぁ、本当はよ、なんもさせたくねえ、普通に生きて、普通に泣いて、普通に笑って、普通に人を好きになって、普通に幸せになってほしかった。それを見守って、たまに手助けしてやって、そうやって、そうやって…」
溢れ出る、零れ落ちる。涙のように。
「……んでも、そいつはできない。親がやんなきゃなんねえことを一つもできねえ、寧ろなによりやっちゃいけねえことをやって、やってさ…」
間。
「けど、俺ぁ我が儘だからよ、頼む。言ってやってくれ。どの口がほざくんだって、自分でも思うけどよ、それでも願わずに…伝えずに、よ、いられねえんだ」
懇願する。その姿はヒトとして、とても原始的で。もう発声すら、辛く、血を吐くように。
「だから言ってやってほしい、お前たちの明日を、未来を、命を望んでいると」
「……生きてくれ、生きててほしい、お前らが生きてくれていたら嬉しい…ってよ」
『……わかった、必ず伝える』
「……ありがとよ」
何度繰り返したやり取りだろうか、きっとこの幕において最期になるだろう、男と【それ】の会話が暖かく、暖かく終わる。
瞬間、世界に罅が入る、取り返しがつかないくらいにぱきぱきと大きな大きな罅が入る。
世界に、終わりを告げるために。
『時間だね。本当に、本当にお疲れ様、後は任せてくれ。きっと、きっとだ。終わらせはしない』
「ああ、わりぃな」
『だから……いや、うん…大丈夫。【フルカラープログラム】は……』
その一言で長く、長く続いた一幕は。誰よりも強く虹の様に輝いた主人公の終わりと共に最期を告げる。
彼は負けた訳ではない、彼は一度だって負けなかった、主人公として、主人公を成した。
しかし勝てなかった、永劫続く強大過ぎる世界の戦争を止めることは叶わなかった。
この物語にエピローグなんてものもあとがきなんてものもましてやカーテンコールなんて一切存在しない。させない、している暇がない。
完結なんて許さない。
悲劇でなんて終わらせない。
だから、繋ぐ、虹を。
もう一度言う、彼は負けなかった。
世界を相手に負けなかったのだ。
だから繋ぐことが出来た。繋ぐことが彼の力だった。絆を繋ぎ、紡ぐ虹。
人々は確かに彼の背中に虹を見たのだ。
繋がり、重なり、固く、固く、束ねられた虹。
大いなる、虹の天輪。
世界に架かること叶わなかった虹の橋。
しかし終わらない、終わらせない。
次こそは世界を虹色に、常盤に続く虹色を。
きっと、そう、きっと。
ここに、宣言する。
世界が彩られるその日まで。
うまく手は繋げなくたって、それでも笑う。
They Who Wait for the Rainbow.
こんなモノクロの世界なんて許さない。
ふざけろ、続けフルカラー。
さぁ、やろうか
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