第3話「運命に選ばれしもの」


 唐突だが、世の中は不公平である。


 それは平等の定義にも拠るだろうが、大抵は貧富の差や血統、資質、家格といったものが違う。


 脚が速い者と足が遅い者がいるとすれば、劣っている者が速い者に合わせろという事は状況によっては是とされるのが社会的な合意コンセンサスだ。


 だが、逆の場合もあろう。


 脚が遅い者に速い者へ合わせろと言うのもまた状況によっては許容される合意の一つなのである。


 故に少年は合わせろと要求してくるじゃじゃ馬な機体の中。

 衝撃とGに振り回されつつ。


 勝手に全天投影される情報や武器やこの現状ではコレを使えという機械的な指示やコンストラクションに従った。


 敵は奈落の獣アビス・ビースト

 待ってはくれない。


 巨大な乱杭歯を持つ不定形の肉の塊にも見える何かが自分の乗る機体に押し迫ってくる様子は正しくホラー以上に恐怖を脅威への警鐘で塗り潰した。


 ギョロリと蠢く金色の瞳達。


 莫大な質量を持つガーディアンがその敵の一部から吹き伸びた触手の本流によって胸部を打撃され、吹き飛ぶ。


「ッ、ぐぅううううううううう!?!」


 吐き気、眩暈、衝撃に脳裏で火花が散る。


 その合間にもガーディアンのハンガー格納庫内で真正面全方向からのミドルレンジ打撃が機体を打ち据え。


 明滅とレッドアラートの濁流の中で少年は己の両足。

 否、機体の両足が食い千切られたのを見た。


「クソォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!?」


 両手にある二挺の突撃銃。

 片方は小銃で片方はガトリング。


 どちらもが絶叫と共に放たれ、その衝撃を支え切れるはずもない脚部無きガーディアンが反動で後方へ無様に倒れ込むよう後退していく。


 対奈落用の銃弾は連射の成果もあってか。


 全ての奈落獣の触手を打ち落とし、また本体にもダメージを与えていたが、相手は再生が可能なのか。


 ハチの巣になった肉体が銃弾が通った後から再生していく。

 やがて、ガトリングも小銃も弾切れ。


 立ち上がれない機体ではどうしようもないと殆ど呆然自失ながら、咄嗟に背中にした壁に掛けられていた槍を取った途端。


 再生して幾分か体積を失った奈落獣が少年の乗る機体へと跳び掛かった。


「うぁあああああああああああああああぁあ!!?」


 無我夢中。

 思考がそうさせたか。

 反射的な動きでガーディアンが槍を目の前に突き出す。


 それは確かにとても単純な動作だったが、最短の距離を最適な形で進み、進む虚空上の敵を貫いた。


 そして、ガコンと槍の中央部が開き、柄の根元が輝いたかと思えば、僅かな放電がその槍身の中央に幾筋も発生し―――刹那、押し広げられた肉の中央に何かが射出された。


 それも連射だ。


 轟音と雷鳴の二重奏が連射速度を上げて敵対内へと確実にダメージを刻み込んでいく。


「来るなッ、来るなッ、来るなぁあああああああああ!!!!」


 何発も何発も格納庫内で響いた雷鳴のような発射音。


 そして、奈落獣が最も分厚い胴体を貫き通した攻撃で内部から灼熱、融解し、最後には毒々しい蒸気、アビスのオーラを上げながら潰えていく。


「ぅぅ……ぅぅうぅ………ッ」


 その紅蓮の機影の中。

 ポタポタと零れるものが自分の涙だとも気付かず。

 少年は、彼は今まで意識の片隅にも入っていなかった歓喜の声。


 安全な場所に退避していたのだろう両親からの通信に気付いて、世の不公平を呪った。


 何故、この両親の息子が自分で。

 何故、この場所にいるのが自分なのかと。


「よくやった!! それでこそ私達の息子だ!! お前は失敗作じゃなかったんだ!! はははは、これで昇進だぞ!! 本当によくやってくれた!!」


「あなた……そんなに褒めてはダメよ。フギンを壊してしまったじゃないの。それに復元もされていない……これからの課題ね。まぁ、それでも奈落獣を破壊した事は褒めてあげましょうか。よくやったわね。ご褒美に何か欲しいものがあったら言いなさい。後で業者に届けさせるから」


「………………」


 少年が両親への思いをブチまける寸前。


 機体の各所でバチバチという何処かショートしたかのような音がし、爆散した。

 ――――――。


「な!?」

「まさか?!!」


 膨大な量のアビスエネルギーが周囲で荒れ狂い。


 それが一瞬で収束したかと思うと今度は爆心地を中心にして薄緑色の透き通った結晶がまるで樹氷のように周囲を覆っていく。


「あなた!! これは?」

「ああ、お前!! これは確かに……」


 そうして、最後にその巨大な結晶樹の中。

 変質したALTIMAの最中に機影が浮かび上がる。


 それは先程と同様のシルエットをしていたが、唯一その両足のみが消え失せていた。


 少年は思う。


 その何も見えない聞こえない思考すらも儘ならないはずの暗闇で。


 自分が求めたのはこんなにも頑張らなければ、手に入らないような……そんなものなのだろうかと。


 粗い息遣いが響く漆黒のみが満たされたコックピットの中で彼が拳を握った時、僅かなAL粒子の輝きが蝶のように世界の外側へと向けて旅立っていった。


 *


 鳳市高校付属中学。


 この市内でも高レベルな進学校はその性質とは裏腹に学生に寛容でその情操教育や野外学習、社会学習にも力を入れる勉学だけではない優良校として名高い。


 鳳市高校へのエスカレーターではあるものの、その鳳市高校自体が半数程は受験で学生を入れているので閉塞感は無く。


 それなりに外の風も入ってくる教育現場と言える。


 それに中等部と高等部の交流も盛んであり、学食や購買などは中等部にも開放されていたりするのである。


 つまり、高校生も中学生も無く。

 交流が広がっていたりする。


『本日、売り切れました』


 パンはどうやらもう無いらしい。

 弁当もまた存在しない。


 綿密に在庫管理して廃棄処分を出さないようにと計算された入荷量は足りないという事はあっても余る事は確実に無い。


 なので、無いと言ったら無い。


「………はぁ」


 トボトボと溜息を吐いた少年は一人。


 昼を買うには遅過ぎた悲哀を購買横の学食で補う事にしたが、此処でもまた珍しい事に満員御礼の学食では席が一つも空いていなかった。


 それもそのはず。


『本日限定100食限り!! 並み盛り価格で大盛に!!』


 という張り紙がガラス戸にはしてあった。


 運動系の部活連中が物凄い列を作っているのを見れば、並ぶのもうんざり。


 これはどうしようもなさそうだと自販機で大人しく甘いお茶でもと踵を返した彼は其処で正しく未来の自分にも見えて絶望してオアシス(自販機区画)に辿り着いたらしき少女を一人発見した。


 童顔で一瞬、同学年かと思ったのだが……どうやら高校の方らしいと制服から気付く。


 しかし、そんな事より問題なのは浮遊する腰の甲冑や片方の方を覆う装甲だろう。


 正しくファンタジーな装いに首を傾げ、数秒でそう言えばと思い出したのはクラスメイト達が数日前に会話していたからだ。


 高等部の方に突然レムリアへ2週間のホームステイして戻ってきた女の子がいる、と。


 それも魔法まで使えるようになった云々。


「……うぅ、こんな事ならコンビニで買ってくるんだったよ」


 涙目でお茶のペットボトルを手にした少女はお腹に手を当てていた。


 その様子は普通の高校生に見えなくもないのだが、それにしては華々しい頭部の飾りが気になる少年は思わず見つめてしまい。


「? あ、ごめんなさい。どうぞ」

「あ、いえ、別に……」


 少女がどうやら自販機前を占領していた事に気付いて横に退く。


 それに恐縮する自分を感じながらもオズオズと投入口に硬貨を入れて、いつも愛飲するお茶のボタンを押したのだが、出てこず。


 もう売り切れだと気付いた彼が横の少女が持っているペットボトルが最後の一本だと理解した。


「……あ、もしかして、コレ?」

「え、ええ、此処の自販機にしか売ってなくて……」

「ご、ごめん!!? ボク、他のでもいいから、君が飲んだらいいよコレ」


 慌てた少女にいやそこまではと言おうとした少年だったが、いいからとペットボトルを押し付けた少女がイソイソと購買から遠ざかろうとするのを見て、思わず声を掛ける。


「あ、お金!!」


「いいのいいの。ボクって実はお金持ちだから。同じ学校なんだから、もしまた次に会ったら、その時返して!! これから用事があるから、ボクはこれで!!」


 言うが早いか。

 少女が脱兎の如く購買から遠ざかっていく。


 それを止めようと少年が手を出し掛けた時にはもう相手の背中は廊下の遥か彼方。


 追い掛けていくだけの動機にしてはペットボトル一本は弱く。


 否、今の自分が誰かと深く関わるような事は避けるべきだろうと彼はポツリ「ありがとう」と呟いて、ペットボトルを抱えて教室の方へと戻る事にした。


「………」


 彼、雙龍ソウリュウ・シンヤは普通の中学生……一週間前までは……取り立てて何か取柄も無い何から何まで普通の一般人と言えば、自分の事だと思っていた。


 黒髪中肉中背。

 少しだけ醒めた視線の何かが出来るわけでもない子供。

 家庭環境に問題があった事を除けば、本当に何処にでもいる存在。


 その一番問題になりそうな部分とて、現代病理の一つであると語れば、どんな時代のどんな国にもあるだろう話に過ぎなかっただろう。


 しかし、それは一夜にして一変した。

 いつも家にいない疎遠な両親。


 半ば育児放棄に近い形でお金だけを入れて、一年に数回しか帰って来ない相手からの来いというお達しは黒塗りの車で……その先で何故か、少年は本当に嬉しそうな両親を……一度も見た事の無いような笑顔を、見た。


 その理由を訊ねた時、奈落警報が発令され、彼がいた場所は襲撃を受け……両親は言った。


 自分に見せたいものがあると。

 自分の為に作ったものがあると。

 早く逃げようと言った彼を無視して、辿り着いたハンガー内。

 其処にあったのは……ガーディアンだった。

 紅蓮の色に染まったスリムな体形の人型。


 これに乗れと両親が言い出した時、何の冗談なのかと思った少年は……両親が本気だと気付いてようやく理解した。


 目の前のが自分に何をさせたいのか。

 否、どうして自分を育ててきたのか。

 そもそも一度とて運動会に来た事の無い両親だ。

 授業参観だって来た事の無い両親だ。


 お遊戯会だって、誕生日だって、は一度も無い両親だ。


 しかし、それでも彼には……興味無さげに時々、お金を振り込む程度の事しかしてくれずとも……確かに家族だったのだ。


(どうして、僕なんだろう……)


 言いなりに乗った理由なんて大そうな話ではなかった。


 結局、自分は大人に生かされているだけの存在で機体に乗らねば、この目の前の人達は自分に価値も見出さず……最低限の生活すらも儘ならなくなるだろうという予感があったのだ。


 いや、それはそんな曖昧なものではなく。


 長年、両親という人間を見てきた彼のまったく正しい予測に過ぎなかったかもしれない。


 家を出されたところで行く宛ては無く。

 乗ったところで勝てるかどうかも分からない。


 ただ、逃げ出したって奈落獣が普通の人間に追いつく事なんて簡単で此処には軍も警察も来れないと両親がしていた事前説明も本当だろうと思えば……自分に出来る事は限られれていた、というだけだ。


『お迎えに上がりました。ご両親からは検査だとのお話です』


 クラスに辿り着く前の廊下。


 そろそろ人も掃けた階段の踊り場で黒服の男達が待っていた。


 付き従うしかない自分の護衛は正しく奴隷を連れていく商人のようなものかもしれず。


 シンヤは軽く頷いてから、トボトボと男達に誘導されるまま歩き出す。


 だが、途中で男達の一人が小型端末の着信に耳を当てた後。

 何やら他の相手と話し込み始め。


 すぐに何かを決めた様子でシンヤに予定が変更になったと玄関先でこれから仕事をする同僚が来るまで待っていて欲しいと告げて、何処へともなく歩き出していった。


 仕事をする同僚って、という問いが投げ掛けられるはずもなく。


 昼休み終了のチャイムが鳴り始めた最中、カバンも持たずに靴箱で履き替えた少年が外に出ると。


 何故か一人だけ少女がいた。


 それはさっきお茶を奢ってくれた相手だと気付いて、少年が近付いていくと。


 どうやらそちらも気付いたらしく寄ってくる。

 二人が玄関の横に移動した。


「どうしたの? カバンも持たずに? あ、こっそり、早退?」

「あ、いえ……その、同僚が来る、らしいです」

「ドーリョー?」

「はい」

「そうなんだ。ボクも連絡を貰って、此処に迎えの人が来るって話で」

「迎え? お姉さんも早退ですか?」


「あはは、いいよいいよ。お姉さんなんて……ボク達、歳はそんなに離れてるわけじゃないしさ。あ、僕はミコト。此花ミコトって言うんだ。よろしくね」


「あ、はい。僕はシンヤ。雙龍ソウリュウ・シンヤって言います。ミコトさん」


 その差し出された手を思わず取ってから、少し恥ずかし気に放して、少年もまた名乗り返す。


「じゃあ、一緒に待とうか」

「え、ええ……」


 二人が誰の邪魔になるわけでもないが、玄関の横並ぶ。


「……シンヤ君て、何年?」

「3年です」

「じゃあ、来年には卒業して鳳市高校にそのまま?」

「はい。一応」

「ふ~ん。じゃあ、ボクの後輩だ♪」

「そうですね……」

「シンヤ君てどんな部活してるの?」


 顔を覗き込まれて、そんな経験の無かった少年が思わず赤くなって目を逸らす。


「部活はしてなくて……」


「そうなんだ。ボクは……うん、部活してなかったけど、今は放課後やる事が出来たから楽しくやってるかな」


「やる事?」


「うん。今、ガーディアン関係の技術者になりたくて勉強してるんだ」


 その言葉に少しだけ詰まりそうになったものの。


 目の前の人には関係ないと努めて平静に少年は当たり障りの無い答えを返した。


 そんな二人が何処かぎこちない遣り取りをしている最中。

 不意にサイレンが鳴り始める。


「アビス警報!?」


 驚くのも一瞬の事だ。


 日常と化した奈落やテロリストとの戦いにおいて一般人のやる事はとにかく早くシェルターに避難する、である。


 学校にも専用のシェルターがあるのは言うまでも無い。

 生徒ならば誰でも知っている事である。


「早く非難しないと!!」

「シェルターに急ぎましょう」

「あ、えっと、実はボクこれから行―――」


 ミコトが何かを言い掛けた時、ギュルルルルルルルルッッッと車輪がスピンする音と共に校門が軍用車の突撃で破砕され、それでも止まらぬ勢いで玄関前までドリフトしてきた車体が二人に当たる寸前で横に付けストップ。


 勢いで片側の車輪が浮き上がってからガションと地面に着地した。


「な、ななな?!」

「??!」


 アワアワと咄嗟にシンヤを抱き締め庇う姿勢になっていたミコトがその無骨な屋根の無い車両に瞠目し、声も無い様子で少年は呆然とした。


「間に合ったか!? お前達がこれから配属されるってリンケージか―――って、子供!? って、此処鳳市高校じゃねぇか!? どうなってんだよ!? チトセの奴!?」


 やってきたのは金髪のおっさん。

 褐色の肌に金髪のチャラそうな30代前半の男。

 どう見ても胡散臭さ全開の彼。

 ロドニー・チャンであった。


「え、ええっと、もしかしてフォーチュンの人ですか?」


 ミコトが前に出て訪ねる。


「ああ、そうだ!! とにかく時間が惜しい!! お前ら後ろに乗れ!! このままフォーチュンに直行する!! 一応確認しておくが、レムリアの此花ミコトにテラネシアの雙龍シンヤで間違いないな?」


「え?」


 ミコトが思わず横のシンヤを凝視した。


「は、はい……」


 おずおずと頷く少年の頼りなさに今まで少年少女を正義の味方として鍛えてきた雷霆の異名を持つ男は内心でテラネシアのおざなりなメンタルケアを非難しておく。


 二人が後ろに乗ったのを確認し、シートベルトを締めた途端の急発進。


 急激なタイヤの加速がギュラギュラと路面に跡を付けた、途端。


 どうやら住宅街に近い場所で戦闘が起こっていたのか。

 校舎の一部に砲弾の破片らしきものでも当たったか。


 建造物の一部が突如として爆砕し、粉塵と瓦礫と化して玄関先を襲う。


 それを置き去りにする車両の加速はもはや殺人的。

 どんなドライブテクなのか。


 ロドニーは次々に周囲に無秩序な破壊をばら撒く流れ弾を華麗に先読みしながら、危険地帯を一気に抜けた。


「上からの話は聞いて……るわけないか。テラネシアだもんな。少年、悪いが今から君にとって最悪の事態を告げなきゃならん」


「最悪……」


 もはや諦観した様子でこれ以上の最悪なんてありはしないだろうとシンヤがロドニーを見つめる。


「……君のご両親だが、先程……奈落獣の襲撃でお亡くなりになった」


「?!」


 驚いていたのはミコトの方だ。


 しかし、その横で静かに何も言わずにシンヤがロドニーを背中から見つめる。


「そして、テラネシアは君の自由と今後の生活を保障する方法として二つの道を選ぶようにと迫ってる」


「……一つは?」


「ガーディアンから降りて、一生テラネシアの監視を受けながら、その庇護下で生きるか」


「二つ目は?」


「今からガーディアンに乗ってテラネシアの拠出戦力として一つの事件を解決し、自由を得るか」


「ちょ、ちょっと待ってください!? そんなの―――」


 ミコトがその理不尽な二択を前にして声を上げようとしたものの。

 シンヤがそれを片手で制止した。


「二つ目を選んだら、解決後はどうなるんですか?」


「テラネシア側は君がガーディアンから降りたとしても一切干渉しないし、監視も付けないと言ってる。その上で莫大な報酬を払うそうだ。少なくとも一生裕福に暮らせるくらいの金額が提示された」


「分かりました。二つ目の選択肢でお願いします」

「いいのか? そんな簡単に決めて」


「僕は自分が非力な子供だと知ってます。両親が僕に財産を残しているなんて話も聞いた事が無いし、お金をが遺してくれてるとも思いません。勉学も中の中。奨学金が入るわけもないし、借金だって背負うのは遠慮したい。今のところ何かに成りたいって夢も、将来希望する仕事も、関心のある出来事だってありません」


「………」


 ロドニーがミラーで後ろを確認し、確認しなきゃ良かったと心底に思った。


「特別なガーディアンに乗る才能があるなら、リンケージの技能を自分の生きる為の力とするのは選択肢としてアリだと思うので……二つ目の選択肢でお願いします」


 車を運転する彼とて、今までそれなりに人生経験を積んできたベテランだ。


 だが、その後ろにいる少年はゾッとする程に冷たい瞳で……恐らくは彼が今まで戦ってきた戦いを好む連中や軍の士官やテロリストよりも……何かを


(こいつぁ……骨が折れそうだ。良かったのかチトセ……本当に……)


「分かった。フォーチュンには連絡を入れておく。まずは一働きして貰おう。話はそれからだ」


「一働き……今、起こってる事と何か関係あるんですか?」


「ああ、今の戦闘も関係ある。二人のガーディアンはもう現場に運び込んであるそうだ。これから君達にはスペシャルタスク・チームを結成してもらう」


「スペシャルタスク……」


 シンヤが僅かに目を細める。


「他に現地の防衛軍から2人の助っ人。連邦軍からはふねが一隻とリンケージとサポート要員が一杯。総勢5人のチームだ」


 そうロドニーが言っている合間にも不意に世界が陰った。


「ッ」


 思わず上を見上げたロドニーが日差しを遮った巨大物体。

 否、巨大な空飛ぶ鋼色の空母。

 否、戦艦を前にして唇を噛む。


「クソ?! さすがに艦一隻じゃ厳しいか!? 他のチームは出払ってるっつーのに!?」


「アレは!!? まさか!!?」


 思わず声を上げたミコトが目を見張る。


「そうだ!! 君達がこれから住まう事になる連邦軍の軍事力の象徴。エンタープライズ級だ!!」


「「!!?」」


 二人が驚く間にも複数の艦影の下に複数回の爆発が起こっていた。


 そして、幾つかの地点で煙を引いて艦表面装甲が燻りながら海の方へと流されていく。


「フォーチュンまで後少しだ!! 倉庫内に入ったらハンガーで着替えて出撃して欲しい!! 最初の任務内容はあの艦を助ける事だ!!」


「わ、分かりました!!」


 今はとにかく戦うしかないとミコトが大きく頷く。


 シンヤもまたエンタープライズに目を奪われていたが、すぐに頷いた。


 そうして、一組の先輩と後輩はフォーチュンの地下ハンガー倉庫内にて、お互いの特殊な機体を確認する事になる。


 片や白き翅と甲冑の巨人。

 片や紅の装甲持つ多脚の巨人。


 もはや戦いは避けられない。

 初めての共闘はすぐそこまで迫っていた。

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Nameloss・M~我が剣に蒼天の鞘を~ TAITAN @TAITAN

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