Ⅴ-cinq-


〈代わりのもの〉


アインは全てを思い出したのであった。


レイリア。


彼女は一度だけ見た。

ミイリアに似た憂いを帯びた

切ない少女だと。


それから二度と会うことはなく、

ミイリアに真実を問うこともしなかった。


レイリアの死刑を

求める国民の意志が強くなるにつれて

アインの苦悩は深まるばかりであった。


罪人である事は正しいのだが

何故だか苦しい気持ちが

強くなるばかりであった。




ある日ー。

思い立ったアインは首都へ向かった。






首都。

レイリアは疲れを感じさせない顔と艶やかな髪のまま粗雑な服を着せられ

国王の城の牢屋の中に居た。


とうとう斬首刑が決まったのである。

これまで自分がしてきた罪を思い返すと

まるで自分が自分ではないかのように

悪感を覚えた。


不思議と運命に抗う気は起きず、

このまま何もなく死ぬことを

嫌だと感じなかったのであった。


執行前日の夜。

最後の晩餐として質素な食事が出された。

妙に幼い頃の事を思い出させる味で

涙を流したのであった。

そうして小さな声で泣いていると、

少し音がした。

兵隊かと思い怯えていると、


愛おしい瞳が見えた。


アインだ。



「レイリア様。

君の事は思い出したよ。

だけれども、

ミイリアの事は一生許すことはないだろう。

ただ、ここで君が死んでは償う事には

ならないと思ったんだ。」


そう彼は言い、レイリアを牢屋から出した。




「早く行って、

この後は僕がどうにかするから。」




不安ながらもレイリアは勢いで

牢屋から出た。


すぐそこには女性が立っており

こう言った。

「アインに案内を任されています。

さあ城から出ましょう。」


女性は目もと以外隠しており、

少し怖かったが何故か信用できる気がした。


城から無事に脱出した。

国王の城は頑丈な塀に守られており、

お堀がある。

しかし城下町に出てしまえば

とても人が多いので

その後見つけることは難しいだろう。


そしてどうにか城下町に辿り着く事が出来た。

物資を運ぶ為の大きな河川が見えてきた。


賑わう街。笑顔の人々。


それを横目に眺めながら

小さな船に乗り

霧のかかった方へ向かった。

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紅薔薇に傾倒 神崎 瞳子 @Maybe_Candy_Lady

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