6-4 禍々しく、凶暴な程に
火柱は一瞬にして、亮治を飲み込んだ。
「――――っ!」
炎は獣のように吠え猛り、少年の小さな身体を蹂躙する。
身体中を掻き毟りながら、彼は身を捩った。それで火炎が消えるはずもなく。
「ぎ――ぃあ――っ」
絶叫も、盛る轟炎にかき消されては聞こえない。
だが、御琴には理解できた。亮治の感じている苦しみ。炎に巻かれる痛み。奇妙な感覚だった――まるで、彼の意識が御琴へと流れ込んでくるような。複雑に絡んだ光の糸を渡って、届かないはずの声が聞こえる。
(助けてくれ)
内蔵を抉る叫びだった。際限のない苦痛が御琴の意識も焼き切ろうとする。
(死にたくない。死にたくない。死にたくない。薫。死にたくない。オレは)
脳の中に、感情と言葉が反響していく。
次第に、強く、強く。
言語を超えていく。
(世界なんて。もう。オレは。どうでもいい。薫。薫。薫)
――明白な感覚が脳裏に浮かぶ。
照明に隠されたライブハウスの片隅。座り込んだ少女。差し伸べる手。少女の冷たい眼。柔らかい手。路地裏。ファストフード店のざわめき。渋谷の雑踏。小さなアパートの一室。少女の笑顔。少女の涙。少女の怒り。明るい声。揺れる髪。滑らかな肌。白い頬。瞳。温もり。例えようもない。
(――薫)
御琴は叫んだ。あらん限りの力で。
「うあああああぁぁぁぁぁぁ――っ!」
途端、彼らを結んでいた光線が、輝きを増した。禍々しく、凶暴な程に。
そして炎が、爆発と言っていいほど激しく燃え上がる。火の球と化した亮治の身体がぐらりと傾いだ。
(落ちる――)
咄嗟に、その腕を掴む。
一際大きな爆音と共に、亮治の半身が腕ごと爆ぜた。
「――――」
窓枠にぶつかると、勢いもそのままに、彼はその向こうへと消えて行く。明々とした炎に包まれて。
御琴はそれを見ていた。伸ばした手は届かない――届いてはいけない。
握った拳が、震える。
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