5-4 それは果たして、信仰なのか

『新たに爆弾が爆発しました。通行人にまぎれていたようです。市民に被害はありませんが、実行者は死亡』

 最新の報告が、耳の後ろのイヤホンから聞こえてくる。

「……クソッたれ」

 真由理はどうしようもない苛立ちを、唾と共に車外へ吐き捨てた。

 一体何度同じ報告を聞いただろう。十までは数えていたが。

 『チーム』の物量はあたかも無限のように思えた。信じられない数の爆発物と、それを運用・・する工作員を彼らは擁している。その製造もさることながら、自爆テロを決行する人材の育成には、日本国民はいかにも不向きだと彼女は考えていた。前世紀ならばいざしらず、今この国に、自らの生命以外を至上とする動機が根付くとは、到底思えない。

 一体何が彼らをつき動かしているのか。それは果たして、信仰なのか。

「総員、発砲を躊躇うな。不審な点があれば即座に威嚇、最悪射殺しても構わない」

 既に都内各所で混乱が生まれ、いよいよ報道規制も意味を持たなくなってきている。いかに人手を割いても、インターネットを始めとする情報の奔流を、完全に塞き止めることは出来ない。間もなく爆破事件の存在は国民の共通認識となり、大きな意見の動きが生まれるだろう。それは少なからず、この国の政治に影響を与えることになる。

 そうしてテロリズムは、ついにその意味を成す。

(ふざけるな)

 真由理は独りごちた。そこまで間抜けを演じられるほど、彼女は寛大ではない。

 無線のチャンネルを切り替えながら、モニターに目を移す。そこに映されているのは、既に役目を終えたゲートのそれではなく、場内の各所に仕掛けられたカメラが撮らえる映像だった。

 画面の向こうに呼びかけるつもりで、無線通信の送信ボタンを押す。

「早苗。そっちの様子は?」

 間もなく液晶の片隅、列席した人々の間で、見知った背中が身じろぎするのが確認できた。

「目立った動きはありません。進行は予定通り――」

 早苗の背中は座席の最前列にある。同じカメラには、壇上の様子も映し出されていた。

 鉄パイプで組み上げられた舞台の上に、黒いパネルが背景を作っている。白抜きで書かれた慰霊式典の文字以外に装飾などはなく、至って厳粛な飾り付けだった。中央にある演説台に立つ男には、それがふさわしかったのかもしれない。

「――竹内正蔵たけうちしょうぞう警視総監の悼辞です」

 早苗の声が聞こえる。真由理は何も言わず、ただ紺色の制服に身を包んだ男の姿だけを見つめていた。否。睨みつけていた。

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