一年前に怪人リサイクル(仮称)に「親友」を奪われた記憶を持つ行峰義堂。高校に入学した彼は、清楚で従順な美少女・返崎鈴音に出会い、彼女に過剰なまでの奉仕を受けつつ意味不明な言葉も投げかけられる。さらに彼女と二人でいる時に怪人リサイクルも現れるようになった。
少し我の強い天青素子。周囲と衝突することが多く、楚々とした返崎教諭に諭される彼女だが、他校へ出向いた際に出会った斉藤という少年の言葉に心惹かれ、彼と親しくなっていく。
一見関係のない二つのストーリーが交互に進み、やがて意味が明らかになるタイプの物語(商業出版で言えば、バリンジャー『歯と爪』(創元推理文庫)など)。義堂側では鈴音が痛々しくも可愛らしく、ファンタジー要素含みの奇怪な状況にも引きつけられる。素子側では彼女の潔癖な考えと不器用な行動が、読むうちにどこかせつなさをかき立てる。そして明かされる全体像。その果てに行き着く結末も、かなりの苦さに満ちている。
他に作品の中で際立っているのは、とある悪人だ。多数派の無垢なる『普通』を謳い、ゆえに自身を無謬の存在と位置づけ、『普通』でないものが傷つき踏みにじられることを何とも思わない、印象的な醜悪さだった。