Turn5 行峰フェイズ
本当に、この言葉を鵜呑みにしてしまっていいのだろうか?
だけど僕は知りたい。知らなければならない。親友はどこへ行ったのか? そして返崎さんはどうして僕に罪悪感を抱いているのか?
だから僕は縋ってしまう。
「返崎さんとあの大男の関係、知りたくはないかい?」
金水くんから発せられた、あまりにも魅力的な提案に。
しかし……
「……君の言うことが、信じるに値するとは思えない」
「おいおいひどいなあ、この前だって僕は君に忠告してあげたんだよ?」
「そんなこと……元はと言えば、君が久米田くんをけしかけたんじゃないか!」
「待ってくれよ、僕がそんなことをしたっていう証拠はあるのかい? 久米田くんは勝手に君たちに暴力を振るい始めたんだ。いやあ、全くひどい人だよねえ」
「くっ……」
金水くんは徹底的に責任逃れをしている。あくまで自分は僕へのいじめとは無関係だと主張している。そのきっかけを作ったというのも、彼がほのめかしているというだけで証拠はない。
だけど彼はわざとほのめかしているのではないかという考えがよぎった。わざと僕にそれを伝えることで、僕が彼に対して敵意を抱いても、どうしようもない状況に悶える様を楽しんでいるのではないかと考えてしまった。
良くない考え。僕の信念に反する考え。だけど僕は反射的に……
「このっ!」
そばのベッドにあった枕を、金水くんに投げつけてしまった。
「おやおや……」
「あっ!?」
しかしその枕は、金水くんに当たる寸前で何か見えない壁に当たったかのように跳ね返される。
「全く、ひどいな君は。何の罪の無い僕に物を投げつけるなんて。当たらなかったからいいようなものを」
違う。あの軌道だったら間違いなく枕は当たっていた。なのに現実には、枕は不自然な動きをして金水くんには当たらなかった。
「しかしこれで確信したよ。やっぱり君は排除されないといけない存在だねえ」
「……どういうことだよ?」
「君、そして返崎さんは『普通』じゃないって言っているんだよ。世の中はね、『普通』の人間のために存在しているんだ。だから『普通』じゃない人間は排除されて当然だと思わないかい?」
「そんな勝手な……」
金水くんはいつのまにか、あの人を見下すような笑みを浮かべていた。思わずその顔に嫌悪感を抱きそうになる。
「大体、君の言う『普通』って何だよ!?」
「そうだねえ、例えば他人の机を隠したりしないとか?」
「君だって知っているだろ!? あれは僕の仕業じゃない!」
「いやあ、わからないなあ。僕はあの時のことはよく覚えてなくてねえ」
「君は……!」
なぜだ、なぜ彼は相手が『普通』じゃないというだけで……ここまで残酷になれるんだ。
「あとはねえ、他人に暴力を振るうのも異常だね。正直言って考えられないよ。君や久米田くんみたいに、他人を傷つけようとするなんて」
「君だって久米田くんをそそのかして僕を……!」
「だからさあ、僕が何をしたって言うんだい? 僕はあくまで『普通』の人間なんだ。誰かを傷つけたりしないし、犯罪だって犯さない。そんな僕は……」
そして金水くんは両手を広げる。
「カミサマに守ってもらって当然だとは思わないかな?」
その姿は、まるで自分を大きく見せようとしているかのようだった。
「……カミサマ?」
「例えばだよ。この世をカミサマが見張っているとして、一番守るに値するのは『普通』の人間だと思うんだよ。当然だよね? 一番数が多いんだから」
だとしても、それが他人を傷つけていい理由になるはずがない。
「そして僕はとても『普通』の人間だ。いじめなんてしないし、常に平和でありたいと考えている。そんな僕に、カミサマはある『幸運』をくれたんだ」
「……『幸運』?」
その言葉で、僕はさっきの現象を思い出す。金水くんに枕が当たらすに弾かれた現象を。
「僕はね、幼い頃に肺炎になって死にかけたんだ。病院に行こうとしても、近くに小児科が無くてねえ。消防署も遠いし、僕の家には車もなかった。そこで両親は藁にもすがる思いで、僕を抱いて町外れの神社に向かったんだ」
「神社?」
待ってくれ。その神社って……
「そして願った。『この子は決して他人を傷つけない子に育てます。だからこの子をお助けください』とね」
「まさか、それで……」
「そう、僕の病気は瞬く間に治り、今では健康そのもの。さらに僕はあれから病気も怪我もしていない。そして僕は他人を傷つけない人間に育ち、あらゆる厄災に見舞われないようになったんだ。これが僕の『幸運』だよ」
「……」
偶然、なんだろうか。
だけど金水くんの『幸運』と同じような奇跡的な現象が、あの神社で起こっている。
「気づいたかい? 僕が考えるには、あの神社は『極限状態』の人間の願いを叶えるような場所なんだ。ただ単に人間の願いを叶えるようだったら、もっと多くの奇跡的な出来事が起こっているだろうからね」
「『極限状態』……」
「つまり君が『リサイクル』と読んでいるあの大男は……」
僕は金水くんと同じ結論にたどり着く。
「『極限状態』に陥った誰かの願いによって作り出された存在……?」
「そういうことだよ」
確かにそれなら説明が付く。というか他にあの超常的な存在を説明する推測がない以上、無理矢理納得するしかない。
それに金水くんの『幸運』も『リサイクル』も同じ場所で生まれている。そうなればもう僕が取る行動は一つしかない。
「そう、君はあの神社に行って、全ての真実を確かめるべきだよ」
僕の心を金水くんが代弁する。
しかしいいのか? 金水くんは明らかに僕に『悪意』を持って接している。僕の破滅を見て楽しもうとしている。そんな彼の言うとおりにしていいのだろうか。
「何をしているのですか!」
その時、大声が保健室に響きわたった。見ると、返崎さんが先生を連れて入り口に立ち、金水くんを睨みつけている。
……もしかしたら、『リサイクル』は彼女の願いが生み出した存在なのだろうか。
「おっと、愛しの彼女が戻ってきたようだね。それじゃ、僕はこれで。君の決断を待っているよ」
金水くんは、逃げるように保健室を出て行った。
その後、僕は保健室で傷を消毒してもらい、絆創膏を貼ってもらってから保健室を後にした。
返崎さんは僕に何かを言いたいように見えたが、結局は会話の無いまま教室に戻ることになった。教室でも僕に話しかける生徒は誰もいない。あれだけのことになったのだから当然だろう。
……どうしてだろう。どうしてこんなことになったのだろう。
今のこの状況は、一年前のあの事件と無関係ではない。全ては『リサイクル』が僕の前に現れてからおかしくなったんだ。だから僕は……
だめだ。何を考えているんだ僕は。『リサイクル』が何者であろうと、全ての罪がアイツにあるわけじゃない。そうやって責任をなすりつけてはダメだ。
だけど僕は『リサイクル』に対する複雑な感情を消すことが出来なかった。
放課後。
僕は学校を出て、近くのコンビニで飲み物を買って考えを巡らせていた。
これから僕はどうすればいい? あの神社に行くべきだろうか? だけどそれだと金水くんの言うとおりに動くことになる。本当にそれでいいのか?
そんなことを考えていると。
「失礼。地元の人間だとお見受けするが、一つ質問をしても構わないかね?」
その声に反応して顔を上げると、一人の女性が僕の前に立っていた。首もとまでのショートカットに、どこか不敵な微笑みを浮かべている不思議な女性だった。
「な、なんでしょうか?」
「ふむ、驚かせてしまったかな? 声のトーンは抑えたつもりだったのだがね」
「い、いえ……」
なんだろう、この妙に芝居がかった口調は。見たところ、僕とそこまで変わらない歳のように見えるのに。
「それでだ、私は道を聞きたいのだよ。主人との集合場所にたどり着けなくてね。この近くに高校があると聞いているのだが」
「あ、その高校だったらすぐ近くにあります。僕はそこに通っていますので」
「ふむ、やはりそうだったか。君に声をかけたのは正解だったようだ」
それにしても今この人、『主人』って言ったか? この歳でもう結婚しているのかな?
「さて、君が良かったらそこまで案内してもらいたいのだが……」
「あ、いいですよ」
「ありがとう。ああそうだ、君に一つ忠告しておこう」
「はい?」
「私に何か危害を加えようとするのは止めた方がいい。私としては歓迎なのだが、そうなったら主人がありとあらゆる方法で君を追いつめるだろうからね」
「そんなことしませんよ!」
……なんだろう、見た目も性格も全然違うのに、なんだか返崎さんと似た印象を受ける人だな。
そして僕はこの女性と一緒に、学校まで戻ってきた。
「ここです」
「ふむ、無事にたどり着けたようだ。感謝するよ」
「いえ……」
「ところでだ、君は何か悩み事を抱えてはいないかね?」
「え?」
いきなりの質問に、思わずドキリとする。
「その反応だと図星のようだね。お礼と言ってはなんだが、話を聞こうではないか」
「……」
どうしてかはわからない。もしかしたら、誰でもいいから相談したかったのかもしれない。だから僕はこの女性に相談をすることにした。
「実は……僕は行方不明になった親友を捜していて、その手がかりがやっと見つけられそうなんです」
「ほう、それで?」
「ただ、迷っているんです。僕は本当にその手がかりを辿って親友を見つけるべきなのかを。その手がかりはある人がくれたものなんですけど、その人が信用できる人かわからないんです」
「ふむ……」
女性は顎に手を当てて少し考え込むような仕草を見せた後、僕に向き直った。
「一つ聞く。君には何か、生きているうちにどうしても叶えたい願望はあるかね?」
「え? えっと……」
「私にはあった、どうしても成就したい願望が」
僕の答えを待たすに、話は進んでいった。
「だがその願望はもう成就することはない。これから先、一生ね」
「ど、どうしてですか?」
「私には主人がいるからだよ。主人がいる限り、私の願望はもう決して叶うことはない。ああ、言っておくが、主人を恨んではいないよ。私に新たな願望を与えてくれたからね」
「はあ……」
「だが、君がそうなるとは限らない」
「え?」
「そのお友達を見つけられないことが確定したとき、君が自身の願望が叶わないという絶望を喜べるとは限らない。……そう言っているのだよ」
「あ……!」
そうだ、この機を逃したら僕はもう一生、親友の行方も、『リサイクル』の正体も掴めないしれない。そういうことだ。
「君がどういう状況に悦びを感じるかはわからないがね、せめて後悔しない生き方をしたまえ。願望を潰される前ならそれも可能だよ」
……不思議な人だ。初めて会った人なのに、どこかその言葉に耳を傾けたくなる。
でも、そのおかげで心は決まった。
「ありがとうございます」
「ん?」
「決心がつきました。僕はその親友の手がかりを追います。僕の願望を叶えに行きます」
「ふむ、いいことだ。……さて、私の方も待ち人が来たようだ」
女性が僕を挟んだ向こう側を見ている。振り返ってみると、長い髪をした女性がこちらに手を振っていた。
……あれ? 確かご主人と待ち合わせをしていたんじゃなかったのかな? まあいいか。
「では、僕はもう行きますね」
「ああ、気をつけたまえ。暗くなると君を狙う者がいるかもしれないからね」
……確かに。
『リサイクル』がどう出るかはわからないが、もしかしたら再び僕か返崎さんを狙ってくるかもしれない。
だとしたら早い方がいい。僕は全ての真実を知らなければならないんだ。
決意をした僕は、久しぶりにあの神社に向かうことにした。
思えば、全てはあの神社から始まっていた。
あの時、あの場所で何が起こっていたのか。それを僕自身はよく覚えていない。だけどよく考えてみればそれはかなりおかしなことではないだろうか。
僕はこの一年近く、ずっと親友がどこに行ったのかを探していた。それほどまでに親友は大切な存在だったはずなのだ。なのになぜ、『リサイクル』にさらわれる直前のことは全く覚えていないのか。何か思い出したくないことがあったのだろうか。
それを確かめるためにも、僕はもう一度あの神社に行く必要があると思った。だから今、神社へ続く人通りの無い道を自転車で走っている。
「もう少しだな……」
だがそんな僕の前に、予想外の光景が現れた。
「なっ!?」
『ケテ、ケテテ……』
曲がり角を曲がった僕の前に現れた大男。思わず僕はブレーキレバーを引いて、自転車を止めてしまう。
そう、『リサイクル』が再び現れたのだ。
「な、なんで……?」
『……』
おかしい。『リサイクル』は僕と返崎さんが二人きりになっている時に現れるはずだ。今までのパターンからしても、それは間違っていないはず。なのに何で僕一人の前に現れたんだ? 何か別の法則があるのか?
『な、ん、で……』
僕の言葉を繰り返すようにノイズがかった声を発した『リサイクル』は、道路脇の草むらに放置されていたゴミ袋を手に取る。
まずい! また武器を作り出して襲ってくるつもりだ! 理由はどうあれここから逃げないと……
『……』
「……あれ?」
しかし、『リサイクル』はゴミ袋を身体の中に取り込んだまま、動かなくなった。そうだ、そもそもコイツが狙っていたのは返崎さんのはずだ。もしかしたら……
コイツは、僕に対して攻撃する気は無いのか?
『……』
『リサイクル』はいくつかのゴミ袋を取り込んだまま依然として動かない。このままにらみ合ってても仕方がない。そう考えた僕は、『リサイクル』を無視して、そのまま神社に向かうことにした。
何度か後ろを向いて確認したが、『リサイクル』が追ってくる気配は無かった。
十数分後。
ようやく神社に続く階段の前までたどり着いた僕は自転車をそばに止めた。
辺りを見回すが、『リサイクル』が追ってくる気配は全くない。しかし僕が神社に向かおうとしている時に、法則を無視してアイツが現れたということは、やはりこの神社には何かがあるのだ。
何度か深呼吸をして心を落ち着かせた後、神社に続く階段を一段ずつ上っていく。少し急な階段ではあったが、この時の僕は全く疲れを感じなかった。
そして階段を上り終え、本殿のある境内に入る。
「ここに来るのも久しぶりだな……」
僕は何度かこの神社で手がかりを探していた。しかし、親友の行方を示すような手がかりは何も無かった。
だけど今なら何かわかるかもしれない。この神社であったことをよく思い出すんだ。
しばらく、本殿の周りや神社の境内を調べることにした。しかし何も無かったので、次は賽銭箱の後ろにある本殿の中を覗いて見た。
しかし本殿の中には、紙垂のついた注連縄で仕切られた神棚のようなものが中央にあるだけだった。正直言って、神社の中を下手に荒らすとバチが当たりそうで怖い。
どうしたものかとしばらく迷っていると、あるものに気がついた。
「あれ?」
賽銭箱の裏に、ちょうど本殿の正面からは隠れるような形で何かが張り付いている。よく見ると、それは白い封筒だった。見た感じ、昔からここにあるものではなく、まだ真新しい。
以前にここを調べた時にはこんな物は無かったはず。気になった僕は封筒を剥がして、中を透かしてみた。
「なんだこれ……写真?」
中にあるのは、一枚の写真のようだ。なぜ神社にこんなものがあるのかはわからないが、とにかく今は何でもいいから手がかりが欲しい。そう考えた僕は封筒を取り出し、中の写真を取り出す。
そこには……
「……え?」
しかし、僕がその写真に何が写っているかをはっきりと見る前に後ろから声をかけられた。
「義堂さん」
「う、うわっ!」
突然声をかけられた僕は、とっさに写真を懐に隠す。後ろを振り向くと、そこには返崎さんが階段を背にする形で立っていた。
「か、返崎さん?」
「ここで何をなさっていたのですか?」
返崎さんはこれまでに無いほどの無表情で僕を見つめる。その表情に、僕は確かな恐怖を感じた。しかしなんだろう、彼女の顔にそれ以外の何かを感じる。
なんというか、『敵意』のようなものを。
「あ、ああ。金水くんにここを調べてみたらどうかって言われてさ……」
「やはりそうですか」
金水くんの名前を出すと、彼女の『敵意』が更に増したような気がした。そう言えば、彼女は金水くんを異常なまでに嫌っていたのを思い出した。
「帰りましょう、義堂さん」
「え?」
「ここはあなたがいるべき場所ではありません。帰りましょう」
返崎さんは有無を言わさない口調で僕に迫ってくる。そして腕を捕まれた。その時……
「あっ……」
僕の頭にある映像が浮かぶ。親友が僕の腕を掴む映像だ。そうだ、よく考えたらこの前に『リサイクル』に襲われた時も、親友のことを思い出した。
そしてその時も、返崎さんは一緒にいた。
偶然、なんだろうか。しかし、返崎さんとアイツには全く関わりがないはずだ。
だが、僕が思考を巡らせていたその時。
『ザ、ザザザ……』
「あっ!?」
「……」
そうだ、今は僕と返崎さんの二人きり。今度こそ条件を満たしている。
そう、『リサイクル』が現れる条件を。
本殿の横に再び現れた『リサイクル』は、既にいくつかのナイフをその手に持っていた。おそらく、ゴミ袋にあった空き缶を再構成したものだ。
だがヤツの弱点は既にわかっている。返崎さんの左腕を掴めば……
「あっ……返崎さん!」
しかし彼女は既に僕から離れて、『リサイクル』の元に向かっていた。
「さあ、早く私に止めを刺しなさい! 私の、そしてあなたの目的を今度こそ果たすのです!」
返崎さんは『リサイクル』の前で両手を広げてその身を差し出す。それに応えるかのように、『リサイクル』はナイフを振り上げた。
『ケテ、ケテ……』
「させるかぁっ!!」
振り下ろされる直前に返崎さんを引っ張って、かばうことに成功する。『リサイクル』が体勢を崩しているうちに、強引に彼女を連れて距離を取った。
「離してください! 彼は、私が殺されないと彼は……!」
「だめだ! もう少しなんだ。もう少しでアイツの正体が……」
「あなたは彼の正体など知らなくてよいのです!」
「何で君にそんなことを決められないとならないんだ!」
返崎さんがいつになく焦っている。この反応から見ても、僕が『リサイクル』の正体に近づいているのは間違いない。
「このっ!」
「あっ!」
そして僕は返崎さんのリストバンドに覆われた左手首を掴む。
『ガアアアアアアッ!!』
予想通り『リサイクル』は苦しみ始め、動きを止めた。
『ガ、ア、ケテ、ケテ、ケテ……』
しかし尚も動こうとしている。さらには震える手でナイフを投げつけようとしているが、力が入っていないのか、ナイフはこちらには全く届かなかった。
アイツもいつになく必死だ。しかしなぜここまで必死になる必要があるんだ?
「離してください、義堂さん! あなたは、あなたは何も知らなくていいのです!」
「何でそこまで隠すんだ! 僕は、僕は親友の行方を知りたいんだ!」
「そんな人のことなど忘れてください!」
「君にそんなことを言われる筋合いはない!」
激しくもみ合っているうちに、僕の頭に再び映像が浮かんでくる。なんだこれは? 親友が詰め寄ってきて、僕は親友を……
「離して!」
「あっ!?」
返崎さんともみ合ったことで、僕の胸ポケットからさっき隠した写真が飛び出した。そして地面に落ちる。
「あ……ああああ!!」
その時、返崎さんは写真を見て悲鳴を上げた。
「な、なんでこんな写真が! まさか、金水朝顔! あいつ、こんなものを……!」
なんだ? 何が写っていたんだ?
「だ、だめです! 見てはいけません!」
返崎さんが制止する前に、僕は写真を見た。そこには……
「……は?」
なんだこれは? 僕はこんなものは知らない。知らないぞ。
だけど僕が、どんなに否定しても、その写真には。
血を流して倒れている親友を呆然と見つめる僕の姿が映っていた。
「……なに、これ?」
「違うのです! あなたは何もしていません! こんな写真は嘘です!」
僕が何もしていない? じゃあこの写真はなんだ?
いや待て。ちょっと待て。そもそもこの写真が真実だとしたら。
アイツは、既に死んでいる?
「義堂さん!」
必死に僕に言葉を投げかける返崎さんを見て、僕はあることに気づく。リストバンドがずれて、その下にある手首に何かの模様のようなものが見える。
ちょっと待て、まさか、まさか、まさか!
「あっ!」
返崎さんが動揺している隙を見て、僕は一気にリストバンドをずらした。
「だ、だめ!!」
とっさに手首を隠した返崎さんだったが、僕ははっきりと見てしまった。
その手首に痣のように浮かんでいる……『リサイクルマーク』を。
「あ、ああ、あああ……」
そしてそれを見た僕は……
「あああああああああああああああああああっ!!!」
全てを、思い出した。
――フェイズ終了――
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