《Blue notes》②


「お前には自覚が足りないようだな」


 そう呟く父さんの目は冷たい光を放っていた。じっと見下ろすのは身長差だけではなくて存在そのものの差。


「申し訳、あ――」


 震える僕の謝罪を遮るように、父さんは叔父さんに視線を移した。



「反省部屋へ連れていけ」


「兄さん。マーキスは」


「お前がマーキスの傍にいるのは庇うためか? 教育係ならばそれを全うしろ」


 一分の隙もない物言いに、叔父さんは口をつぐんだ。僕は無言で一礼し、自ら反省部屋へと向かうべく踵を返すしかなかった。このままここにいては醜態を晒し失態を列ねるだけだった。



 ティンクヴェルの家にいる間父さんに怯えて緊張感を保つことが出来る反面、学院で気が緩んでしまったのは僕だ。本当ならば家の外でこそ万全に気を張っていなければ一人前ではないだろう。誰も守ってなどくれない。敵がどこに潜んでいるかわからない。――幼い頃から教育されていながらこのザマだ。



 代表に選ばれスピーチをすることに気を取られてしまっていた僕は完全に油断してしまっていたんだ。魔法水に気付かず一気に煽るなんて初歩的なミスをこの僕が。


 声を封じられるなんて、絶対回避しなくちゃならないことだろ。魔法を使えない魔法使いなんて絶体絶命だ。何を失っても声だけはなくしちゃいけない――僕は知っていたのに。




 こんなにもあっさりと罠にはまってしまう僕に父さんは酷く失望しただろう。叔父さんにもまた迷惑をかけてしまった。



 油断していた。僕はロイに油断していた。先に仕掛けたのは僕なのに、何故反撃を警戒すらしなかった。魔法使いの家系じゃない新入生だから、何も出来ないとでも思ったんだろうか。


 いや。違う、そうじゃない。


 仕返しをされるという発想自体が僕の中には全くなかった。文句一つ言わないロイの目が僕を睨んでいたのに。


 僕はなんて馬鹿なんだ。



 僕の完敗だ。タイミングも手段も結果も、すべて。完璧なロイ。


 ロイがもし悪意ある敵で、僕の命を狙っていたなら。僕は死んでいた。



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