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@choro

第1話ただ会いたくて抱きしめたくて

 今こうしている間も、おれは気が気でない。

 このワンルームマンションの一室の主である陽一は、一年前に交わした約束を守るため、愛車に乗って出かけて行った。

 高校の同級生である陽一とは、三年前、ともに大学を現役合格して上京した。そして一年前、陽一は趣味の一眼レフカメラを持ち、被写体を探すあてのないドライブに出た。その道中、たまたま立ち寄った人けのない冬の海で『愛』という少女と出会い、つかの間の楽しい時間を共に過ごし、遠いところに住んでいるという彼女と一年後の再会を約束して別れたという。

 今日はその約束の日だ。


 海での出会いから数日後、陽一はその『愛』という美しい少女とのツーショット写真を自慢げに見せてきた。わざわざここに呼び出してだ。

 陽一は満面の笑みで、写真たてをおれに押し付けてきた。しかし・・・。

 その写真には姿写っていなかったのだ。始めは彼がからかっているのだろうと思っていたが、それは違っていた。逆に陽一の姿しか見えないおれのほうが彼をからかっているようになってしまうほど、それほど陽一は彼女との出会いを大真面目に、かつ、楽しそうに語っていたのである。

 写真の中の陽一は、見えない誰かの肩を抱いて幸せそうに微笑んでいる。

 彼はひとしきり彼女の自慢話をすると、誇らしげにデスクの上に写真たてを置いた。結局、自分には『愛』の姿が見えないということは口にしなかったが、おれの不安は募るばかりだった。

 ・・・妄想?しかし、その件以来、陽一に以前と変わったところはない。

 ・・・幽霊?幽霊と出会って、また会う約束をしたというのか?

 約束をしたといっても、その後はまったく連絡をとりあっていない。彼女はその約束を覚えているのか?おれはなんとか彼を思い止まらせようとした。無駄だとはわかっていてもだ。彼は彼女を愛している。だからこそ、なおさらこの約束の日に約束の場所に向かったのだ。

 一年前に言えなかった「愛してる」を言うために。

 出かける間際、陽一はおれに思いつめたような表情で「もう彼女と離れたくない。彼女を連れて帰ってくる。それができないなら、おれが彼女のところへ行く」と言った。彼は何をどう感じ、どんな決意を持っていたのだろう?


 静まり返った部屋に、夕陽が射し込んできた。昼前に陽一が出かけて行ってから、いつの間にこんなに時間が経っていたのだろう。

 ガタン!

 大きな音をたてて陽一の写真たてが倒れ、背を向けていたおれはハッとして振り返った。

 こんなときに・・・。おれは写真たてを元の状態に戻したが、それを見て愕然とした。そこには、幸せそうに微笑んでいる陽一と、彼に肩を抱かれて微笑む、冬の海には不似合いな白いサマードレスがよく似合う長い髪の少女が写っていたのである。

 ・・・初めまして、愛さん。

 おれは写真の中の陽一に、精いっぱいの笑顔を見せた。

「そうか・・・。よかったな、陽一・・・」





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