次はちゃんと

また雨が降ってきた。

彼といると、よく雨が降る気がする。私、確か曇り女なのに。

私と会ってるから雨が降るって思われてたらどうしよう。

嫌われる。今度こそ絶対嫌われる。

敬語は大分ましになったから、少しだけ距離が縮まった気がしたのに。

でも、やっぱり完全には対等に話せなくて。

遠くから見てるだけでも良かったんだけど、まさかこんなことになるなんて思わなかったし。

でも、あの雨の日がなかったら今は私はこうして彼と並んでないわけで。

だから雨に感謝しよう。この瞬間をくれた天気予報に感謝をしよう。


今度の雨は、傘を持っていかないでおこうかな。

雨とくれば、雨宿り。デートとくれば、お泊り。


なのですか?


どうしよう。彼の玄関先まで来てしまったが、体動かない。

普通初めて家にお伺いする時って、何か持っていかないといけないよね、そうだよね。でも何も持ってないし、服濡れちゃってるし、明らかに失礼な訪問者だ、私…

これはどうすればいいのでしょうか。

これはどうするのが正しいのでしょうか。


「どうぞ、上がってよ。」

「あの…私何も持ってきてないんですが…」


どうしよ、今から近くのコンビニとかに何か土産物的なもの売ってないかな。雨も止んでくると思うし、今から行けば…


「そんなのいらないから、上がってよ。今日結構歩いたし、座りたいだろ。」


無言を貫けば、コンビニに行かせてくれるだろうか。


「とりあえず、上がって。」


彼の手が私の髪に触れた。すっごい気持ちいい。

人に髪の毛を触られるの、嫌いだったのに、何でだろう。

人の手って、こんなに気持ち良かったんだ。


「あのさ、山下って門限ある家?」


彼は冷蔵庫をちらちら見ながらこう言ってきた。

こういう場合は、真面目な自分をアピールするべきだよね。

彼はきっと真面目な部類ではないけれど、私は真面目な部類に属しているわけで。


「ある。」


本当は無いんだけど、ここはしっかりとした女をアピールしなくては。


「何時?」


嘘、何時か聞かれるとは、そうか、どうしよう…

ここは正直に言おう。嘘はきっと、この人にはもう通じない。



「今日は、門限なかったかも。」


今日はって言っちゃったけど、いつもないんだよ。次はちゃんと言おう。

次はちゃんと相合い傘をしようって言おう。

次はちゃんと菓子折りを持ってこよう。

次はちゃんと門限がないって言おう。

次はちゃんとお泊りセットを持ってこよう。

しっかりとした女をアピールしなくては。

ちゃんとした女をアピールしなくては。


恋をしているんだ、私は。

私は彼に、恋をしている最中なんだ。


「じゃあ、ちょっとコンビニ行ってくるわ。」

「え、どうして?」


「朝御飯。買ってくる。前に食べたいって言ってたじゃん。あそこの苺のサンドイッチだっけ?あれ明日の朝御飯にしようぜ。」


覚えててくれたんだ。ぼそっと言った言葉だったのに。

彼の耳はきっと地獄耳だ、これは間違いない。


「宮下君も苺にするの?」

「いや、俺は弁当。唐揚げ弁当だよ、安定の。」

「私も唐揚げ弁当がいい。」

「え、朝からがっつり食べれるの?」


彼の好きなものを、もっと知りたい。

私は何も知らない事ばかりで、それなのに家に上がってしまった。


私はふしだらなのでしょうか。


「緊張すると思うから。きっとおなか空くと思うから。」

「ん?何に緊張するの?」

「夜一緒にいることに。」


私はやっぱり、計算高い女なのでしょうか。

彼の一言一言に、この気持ちを少しでも乗せていきたい。

届いて、私の気持ち。


次こそはちゃんと、好きって言おう。

もちろん、直接、目を見て、ね。

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