俺と魔王の戦争の果てに

じんむ

第1話 魔王城

 人族と魔族の激しい闘争が繰り広げられているこの時代。魔族の戦闘能力は凄まじく、数年前には絶滅寸前、人族の戦況は苦しいものだった。

 そこで、人族は一万年に一度の才児といわれる子供を『勇者』とし、鋭才訓練の後、魔族のはびこる様々な地域に遠征させたのだ。


 勇者の戦いぶりは凛々しい物だった。行く先々では無敗の強さを誇り、その道中、たまたま機会があった聖騎士、魔術師、僧侶、そして剣士の俺を仲間とし、魔王討伐の旅を共にしてきた。

 

 人々は俺らをこう呼ぶ。「勇者パーティー」と。そして今この目前には大きな城門がある。ついに魔王の本拠点をみつけたのだ。


「ついにこの時がやってきたね」


 勇者が静かに告げる。

 容姿、性格共にイケメン。こいつこそが対魔族戦無敗を誇る人類最強の戦力。


「回復はまかせてくださいね」

「頼りにしてるよ」


 微笑む僧侶に勇者が爽やかなスマイルで返す。

 僧侶、彼女は少しドジなところもあるが、可愛らしい銀髪清純眼鏡っ娘。男受けはかなり良いようだが、俺としては清純派を装ったクソビッチなのではないかと疑ってはいる。時々宿とかで一人で笑っているのを聞いた事があるからな。


 とは言いつつもこの子はかなりできる子だ。悔しいけどその線は無いさそうなんだよな。


「僕も治癒魔術はある程度使えるから、援護に回りつつ攻撃もさせてもらうとするよ」


聖騎士は壁にもたれかかりながら腕を組み、二人のやり取りに加わる。キザっぽい雰囲気とは裏腹にあまり女好きという印象は無い不思議な人間だ。


「いよいよね」


 ふと声の方を見れば、魔術師が挑戦的な目で目の前にそびえる大きな門を見据えていた。とにかくうざい赤髪巨乳。以上。


……さて、改めてメンバーについて認識したところで俺も意気込んでおくか。


「前衛はまかせておけ。特に防御には定評があるからな」

「というか、あんたは防御くらいしか取り柄ないでしょ?」

 

 出たよ魔術師。いっつも何かにつけて文句たらたらなんだよな……。


「剣術もきちんとわきまえてるからな?」


 ついでに誰にも見せてない究極の奥義も持ってたりする。


「えー? どこぞの魔剣士にボロボロにやられたのはどこの誰でしたっけぇ?」


 わざわざ顔を見ないようにそらしてやったにも関わらず、うざいまでに魔術師は顔を近づけてニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべる。


「それでもあの勝負に一応俺は勝ってるからな」

「それ、あんたの耐久値がが高くてなかなかくたばらないから相手が勝手にくたびれて下手こいて自滅しただけでしょー? 剣術においては確実にあっちが上回ってもんねぇ?」

「うっせぇ、勝ちは勝ちだ。……ああでもそう言うけどな、あの時先に魔剣士と衝突して戦闘不能になった誰かさんに 言われたところで負け犬の遠吠えにしか聞こえないからそれ。いやほんと」

「あ、あれは不意打ちだったから……焼き殺すわよ?」

「あ? やんのか?」

「すとーっぷ、ストップ! ここでおしまい。仲間割れしてどうすんのさ」


  勇者が俺らの口論に割って入ってきた。まぁ、確かにこんなところで仲間割れするのはよろしくない。ここはもう敵の本拠地だからな。とりあえず大人の対応というわけで謝罪しておこう。


「悪かったな」


 しかし魔術師はフンと吐き捨てそっぽを向いた。

 な、なんて奴だ……これだから女は嫌いなんだ!


「じゃあ、突入だ」


 勇者は苦笑いしつつきっぱりとした声でゴーサインを出した。





 そして俺らはなんやかんやで魔王の間に続くであろう大きな広間に到達したのだった。


「よし行こう」


 勇者が一歩を踏み出す。それに続き俺ら四人も足を踏み出す。一歩、また一歩と歩を進め扉へと近づく。


 刹那、激しい轟音とともに、あたり一面に砂塵が舞う。

 クソッ、目に入った! 前が見えん!


「伏兵だ!!」

「そんな事知ってるわよ!」

「僕としたことが、油断していたね」

「みなさん大丈夫ですか!? 癒しを! プライトアヌーリ!」


 口々に騒ぎ立てる中、突如目に入った砂が消え去り、視界を回復させる。僧侶が治してくれたようだ。優秀だなちくしょー。


「ってなんだこれ……」


 思わず声が漏れる。


「絶体絶命……ってやつかな」


 勇者が苦い笑みを零すのが傍らに見えた。

 でも勇者がそうなるのも無理はない。


「過去最高記録だな」


 辺りを覆いつくすのは無数の魔族。人型、獣型、液状型……これまでここまでの数を相手にしたことがあっただろうか? 答えはもちろんノーだ。

 

「まぁでも、何もしないわけにはいかないわよね」

「だね」


 魔術師の言葉に勇者が賛同すると、ゴーサインと共に臨戦態勢へと移った。





「聖騎士危ない! フラムカーテン!」

「悪いね魔術師、ルーメディウス!」


 魔術師の援護により聖騎士が敵の攻撃を躱した。

 しかしなんて数だ。もしかして魔王城の魔族が全員集合しているんじゃないのこれ? まだ全然いるし。

 この思考が一瞬の隙を作った。

 ふと見れば迫りくるのは大きな拳。胴体に凄まじい衝撃が走る。


「っと……ブレイズブレイド!」


 防御には自信がある。身体でそれを受け止めると、炎を纏わせた剣でその腕を一太刀。魔族の断末魔が耳を貫く。

 続いて火の玉が数個飛来。それも受けると一気に間合いを詰め、玉の発生元を両断した。

 なおも続く攻撃の連打の中、今度は注意を払いつつ頭に思考させる。


 このままじゃ魔力切れで確実に俺らが負ける。さっきから見ていると他の奴らも手こずっているようだ。こんなところで終わらせるわけにはいかない。何かないのか俺。


「はい、詰めが甘い。こんなんじゃ俺は倒せないよ! ヘラクレイド!」


 ふと勇者のほうを見てみると、かなり善戦しているようだ。


 ただ、勇者とて魔力が永遠に続きはしない。魔術師、僧侶は勿論、勇者、聖騎士、剣士、誰もが魔力が切れればもはや少し強くて装備が良い凡人という枠にしかならない。それだけで勝てるのなら今頃人類が魔族に悩まされることは無い。

 確かに勇者は一人ずば抜けて強い、しかしそれは魔力あってこその事なのだ。


 ……ただ、まだ魔力のある彼なら一人でも魔王とも対等に渡り合えるのではないだろうか。このまま戦いが続き魔力が切れるのを待ち負けるのならば俺は勇者に賭けよう。


 方針が決まったなら善は急げ、群れを切り開きなんとか勇者の所へ近づき声をかける。


「勇者、俺らが扉への道を開く。だから先へ行け。この数の中じゃ俺らは防戦一方だ。となると魔力切れになって魔王とも戦わないまま俺らの冒険はおしまい。だったらお前だけでも魔王と戦い、俺らの冒険を終わりにしてくれ。結果はどうあれな。俺らとしても戦わないで散るより、戦って散るほうがいい。勿論、剣を交えるのは俺らの冒険の目的、魔王とだ」

「……だけど」

「俺らを信用してないのか? 安心しろ、くたばりはしない」


 勇者は少し思案していたが、まもなく首を縦に動かした。

 よし、ならあとの問題はこっちだが……。


「おい魔術師! 俺の話を聞け!」

「は? こっちは忙しいから話しかけないでくれる!?」


 魔術師はいかにも不機嫌に返してきたがどうでもいい。声が届いているのがわかったなら十分だ。


「このままじゃ俺らは魔力を消耗しきって、長年願い続けてきた夢を永遠に叶えられなくなる!」


 ちょっと人の話を……とかなんとか言っていたが構わず続ける。


「このまま全員くたばっちまうくらいなら、俺らの夢を勇者に託そう。今からあの扉までの道を確保しようと思う。ただ俺だけじゃそれは無理だ。そこで魔術師、お前に協力してほしいんだ」

「なにいってんの? あんたと協力なんて……」

「お前が必要なんだ! 頼む!」


 本音を言うとこちらも貴様なんぞと協力などしたくないがね! 

 魔術師は一瞬顔を伏せ、何やら呟いたようだが、まもなく顔を上げ挑戦的な笑みを浮かべる。


「……剣士の言いなりになるのは身体をげじぶり虫に這われるより嫌だけど、今回だけ言いなりになってあげるわ」


 あのカサカサ動く魔虫か……。どんだけ嫌なんだよこいつ。やっぱり女って不快な生き物だ。まぁともあれ、協力の承諾は得た。


「やることは簡単だ。確かお前、目をくらませる魔術アウルムアウラを使えたよな。こっちの準備も整ったら叫ぶからそれをフル出力でやってくれ。」

「はぁ? それだけでいいわけ?」

「ああ」


 言い方がいちいち鬱陶しい奴だ……いやまぁ今はよそう。とにかく集中だ。

 今から行使するのは剣術最強奥義フェルムスアスカロア。極限まで魔力を剣に集中させ一気に前方へ放つという大技。今まで勇者が強すぎて使う機会が無かったんだよな。


 ……さぁ第六感だけを感じろ。外からの衝撃を断絶しろ。

 感じる魔力の循環。熱が身体を覆いつくす。


――――今だ!


「やれ!!!」

「アウルムアウラ!」


 眩い閃光があたりを覆い、一時的に魔族どもの視界を奪い去る。

 まずは盲目による敵の動きの制止。そこへ扉まで一直線に高威力の技を放てば即興廊下の完成だ。

 

「フェルムスアスカロア!!」


 剣から放つのは巨大三日月型の波動。

 砂塵が舞い上がり、激しい轟音が空間に響き渡る。


「勇者! ちょっと煙で視界が悪いが今ならいけるはずだ! 扉まで突っ切れ!!」

「わかった、すまない。絶対やられるなよ!」

「当たり前だ」


 必ずお前と共に帰る!

 勇者は煙の中へ身を投じる。

 まもなく煙が消えると、切り開いた道は視力を取り戻したであろう魔物で埋め尽くされていた。ただ勇者は無事に扉の向こうへ行けたようだ。


 ……さて、俺の得意な持久戦だ!




 勇者が扉の向こうへと行って、どれくらい経っただろうか。魔族のおぞましいおたけびがあたりに響く。

 視線を移動すると、魔術師が地面に倒れ、ごつい人型の魔族に押し倒されていた。


「ちょ、見てないで助けなさい剣士!」


 そのままで犯されちまえ!

 あ、いや待てよ? 正直こいつが死のうと俺はどうでもいいが、勇者はどうだ? おそらく誰の死も勇者は望んでいないだろう。はぁ、仕方がない、助けてやるか。


「リアマ・フィロ!」


 目の前の敵を斬り伏せ、魔術師を押し倒す魔族に遠距離斬撃。その魔族は一瞬ひるんだものの、すぐさまこちらを捕捉。猛虎の勢いで飛びかかってきた。

 こいつは痛そうだ。ちょっとはダメージを緩めないと。とりあえず盾系剣術を。


「ブレイドモニア」


 声だけがむなしく響く。待て、どういうことだ。発動できない?

 ……そうか魔力切れか。道を開いた時のでけっこう魔力を消費していたらしい。元々剣士っていうのは所有魔力量が少ないからな。


 すぐ目の前には魔物が勝ちほこったように舌を出し、俺の息の根を止めんと厳かな拳が振り上げられている。

  終わった。人生振り返ってみると、なかなか充実してたな。悔いの残らないよう俺は生きてきたつもりだ。ただ、一つだけ悔いが残ることがある。

 勇者、俺は――――


「静まれ野郎ども!」


 バタンとドアが開け放たれる音と、これは……なんというか幼女の声である。待て、おかしいだろ。こんな地獄のような場所でそんな声が聞こえるはずがない。もしや俺は死んだのだろうか。……いや、脈は動いている。こんな時に脈をはかる俺の冷静さ加減は称賛してほしい。それはさておき、となると聞き間違えだろうか。そういえば、扉の開く音が聞こえたな。既に棒立ちになっているさっきの魔物から扉のほうへと目を転じる。


「は?」


 我ながら間抜けた声を出したが、誰だってそうなるに決まっている。見ろ、他のやつらは声すら発していなくただただ唖然としている。


 扉の前には勇者が幼女を抱きかかえて立っていたからだ。


 しばしの沈黙。

 先ほど声を発することができたのが俺だけなら、俺があいつに質問するべきなんだろう。


「あー勇者? その子は誰なんだ?」

「魔王だ!」


 魔王? あの幼女が? いや確かにそれっぽい恰好はしてるけどさ。角も生えてるし。


「えーっと、本物?」

「そうだ!」


 あーはいはい、あの子が人々を虐殺し、悪の限りを尽くしたといわれる魔族の頭領と。


「そうか、それはわかった。そいつが魔王だとして、お前はなんでその子を抱っこしてるんだ? あの悪い魔王だぞ?いますぐにでも消しておくべきなんじゃないのか?」

「お前……それ本気でいってるのか?」


 はい、本気ですが? え、魔王だよねその子。


「おいふざけるなよ! この世の幼女に悪い子がいるわけないだろうが!! 幼女は正義だ!!」

「いや、え? なにこれどういう状況?」


 なんか、頭が混乱してきた。えと、あの幼女は魔王で魔王が幼女で……あ、混乱してなかった。結局はあの幼女が魔王って事だね! いや違うそもそも俺はその点についての思考をしていたわけではなく……ああやっぱ混乱してる。


「勇者、ここからは私が説明しよう」


 舌足らずの声で幼女魔王が勇者に降ろせと言わんばかりに肩をトントンする。ちょこんと飛び降りた魔王はこちらへ向き、仁王立ちをした。


「とりあえず一刀両断に言おう、勇者は私の友達になった!」


 一刀両断……単刀直入っていいたかったのかな? あと説明にもなってない……まぁ、突っ込まないでおいてあげよう。


「ちょ、ちょっと、どういうことよ?」


 ようやく我を取り戻したのか魔術師が言葉を発した。


「うむ、先ほど、勇者が私の部屋へ入ってきたときはすごく怖かった。何せ勇者といえば極悪非道の殺戮者のボス。しかし、実際は違うかったのだ。勇者は私が怯えているのを見てやさしく声をかけてくれた。そうして話しているうちに私たちは友達となったのだ! それと、両者がいろいろと誤解していることも同時にわかった。聞くに、攻撃を仕掛けていたのはこちらからだったという。長として詫びよう。すまなかった」

「まおたん、謝るのはこっちだよ。魔族の皆が俺たちに攻撃するようになったのも、人族が魔族のその容姿から勝手に悪だと判断して、魔族の皆を目の敵にし、大量虐殺を行った歴史があったからなんだろう? ごめんね」


 まおたんってあんた……。なんか言ってますけど。なに、悪いのは俺らだったってこと?


「なるほど、だいたいは分かった。でもそんな記述はどこの書物にもない、信用性に欠ける話さ。そんな情報に踊らされるとは勇者が情けない。君が倒さないんなら、悪いが魔王は僕が倒させてもらうよ」


 聖騎士がレイピアに手をかざす。


「そうよ! 勇者、あなたは騙されてるの! 離れて!」

「まさか……!」


 勇者の表情が少し強張る。

 ようやく洗脳が解けたか。ヒヤッとしたぜ。


「まさか、お前らは幼女が嘘をつくと思っているのか!? そんなわけないだろ! 恥を知れ!!」


 辺りが静まるのを感じた。

 もうだめだこいつ。幼女とか言って勇者はロリコンだったというわけか……。


「魔王様、マントをお忘れでしたよ」


 その沈黙に、優しげな声が開け放たれた扉から聞こえてきた。


「おお、悪いなメイド」


 マントを抱えて、扉から出てきたのはいかにも穏やかで優しそうな年配の女であった。人型の魔族なんだろう。あまり俺らと姿は変わらないが、角は相変わらずある。


「はっ……」

 

 不意に聖騎士が息を漏らした。

 あれれー、気のせいかな? なんか聖騎士の表情が少し変わったような?


「やはりマントはないとな」

「まおたん、似合ってるぅ~」

「そ……そうか? なんだか恥ずかしいな」

 

 頬を赤らめる魔王幼女。

 魔王はもう勇者にぞっこんかな? なんだか話しかけずらいなこの空気。でも焦るな俺。俺にもつけいる隙があるはずだ。


「聖騎士」


 勇者が魔王から目を離し問う。


「どうしても、戦うというのか?」


 聖騎士は沈黙している。何か考え込んでいるようだ。顔の顎あたりに手をそえている。まずい、嫌な予感がする。


「どうした聖騎士」


 勇者が訝しげに聖騎士を見る。


「あ、ああ」


 はっとした表情をしたが、聖騎士はすぐにいつものキザな笑みを浮かべ言った。


「フッ、興が冷めたよ。勇者、君のいうことは正しい。悪いのは人類の方だ。それに……」


 そう言って、コツコツと足を鳴らし勇者のほうへと歩いていく。


「聖騎士? どうしちゃったの!?」

魔術師の声など気にもせず、静かに勇者のところまで歩いていき、その後ろに控える、先ほどマントをもってきた女の前までいき、ひざまずく。

「マダム、僕は今まであなたほど美しい人を見た事が無い。あなたのような方が悪なわけが無いです。これまでの無礼、申し訳ありません。それと、僕と結婚してください」


 まさかの婚約発言である。あの聖騎士の目はおかしいのだろうか。いや、マダムといったことからちゃんと目は正常なのだろう。しかしにわかに信じがたい。


「あらあら、おばさんをあまりからかうもんじゃないですよ」


 聖騎士が声をかけた女性はそれなりに歳を重ねている。失礼だが、肌も潤いがなかなか失われている。普通男の子って若い女を好むもんじゃないの? そうだよね?

 でもあれだな、たぶん俺は聖騎士を称するのに丁度いい言葉を知っている。


 奴は熟女好きだ。


「は? ふざけないでよ!」


 魔術師が激高する。


「ふざけてなんかないさ。僕は大まじめだ。そもそも崇高なる聖騎士がふざけるわけがないだろう? マダム、僕は本気なんです。どうか、考えていただけないでしょうか」

「ふふ、困りましたねぇ」

「聖騎士たるもの、女性を急かすなど言語道断、ゆっくりお決めください」


 勇者はロリコン、聖騎士は熟女好き。すごいパーティーにいたんだな俺って。


「そんな……でも容姿はともあれ、魔王の一派には代わりないわ! あんたたちが邪魔するというのなら、あんたたちも魔王と共に倒させてもらうわ! それにこっちには回復のプロフェッショナル僧侶と硬い剣士がいるんだから!」


 俺の説明テキトーだな。どうせならダイヤモンド剣豪とかそういう感じにしてほしかった。あ、それもダサい?


「なんでわかってくれないんだ。俺らはこんなところで争うべきではないんだ。さぁ、まだ間に合う。皆も共に!」


 勇者が悲痛な声で訴えかける。


「魔術師さん」

「どうしたの僧侶?」


 そういえば僧侶の声、久しぶりに聞いた気がする。嫌な予感……。


「私、あちら側につきます」

「え、僧侶までどうしたの?」

「それは……」


 僧侶は眼鏡をかちゃりとあげる。


「男がたったの一人しかいないパーティーなんて、何の価値もないです!! 私が見たいのは男たちの宴! 罪深き蜂蜜! ランデブゥなのよおおおぉぉぉおおお!!! 攻めと受けが奏でるハーモニーふううぅぅうう!」


 な、何が起こった!? あの大人しく清純で先刻言った通り見てくれも可愛いから、男からはかなり人気があるあの僧侶が、よだれをたらしていきなり奇声を発してなんかもう、はしたない! 新種の呪いなのか!? 


「そ、僧侶? どうしたの……?」


 魔術師もかなり困惑しているようだ。


「聖騎士と勇者! 禁断のメロディイイイ! 想像するだけで、美味しすぎるぅ! ホモォ……ホモォ……」


 僧侶はひとしきり叫ぶと、何やら不自然な息の吐き方をする。普通疲れたらはぁはぁだろ……。


「……というわけで、あちらにつかせてもらいますね」


 最後はいつもの僧侶に戻り(鼻血はたれていたが)、満面の笑みを向けた後てくてくと魔王の方へ歩いて行く。ちょっとさっきのは俺でも理解できない。しかしこうなればもうこっちサイドは魔術師だけになるのか。いろいろとまずいな。というかこんな奴と一緒にいたくないんだが。しかも肝心の勇者があっちにいるからなぁ。

 俺は心の中で色々と決意を固めた。


「なんで……。魔王、皆にいったい何を!」

「なんのことだ? 私は何もしてないぞ?」

「嘘つかないでよ!」


 魔術師がきつく言い放つと、魔王が嗚咽を漏らしだした。


「うっく……えっく…本当だもん…嘘つかないもん……」

「魔術師! 言い方がきつづぎるぞ! まおたん大丈夫? 俺がいるから泣かないで」

「うぅ……ゆうしゃぁ……」


 魔王が勇者に抱き付く。くそ、こいつ。胸糞悪い。勇者に触るな。


「魔王相手なのに何馬鹿なこといってるの? ……しょうがないわね剣士。魔王が倒せば洗脳は解けるはず。私たち二人だけでもなんとかするしかないわ。その……魔力なら少しわけるから、それでいけるわね?」


 いけるわけがないだろう。その自信の根拠をぜひとも教えてもらいたいところだ。


「魔力をうつすったって、そんな魔術あったか?」

「それは……実はないこともなくて……」


 なんだか魔術師の様子が変だな。いつもバシバシ言い放ってくるうるさい女なのに今は妙にしおらしい。

しばらく辺りは沈黙に包まれる。

まぁいい。俺は戦う気などないから、そのむねを伝えないと。俺はあちら側につく、と。


「くちう……」

「悪いが魔術師、俺もあちら側につかせてもらう」


 魔術師も同じタイミングで言葉を発したがすぐに口をつぐんだ。まぁ俺にとってはどうでもいい。


「……剣士まで何を言ってるのよ? 冗談でしょ?」

「本気だ」


 魔術師が下唇を噛む。


「だって、どうして!」

「まず、俺らだけであいつらに勝てるわけがない。あれでもあの女の子は魔王だ。しかも勇者までいる。挙句には僧侶も聖騎士もあちら側についた。戦力差は歴然だろ?」

「そんなの、やってみなくちゃわからないじゃない!」


 何故わからないんだこの戦力差を。


「あと言わせてもらうが、俺はお前と二人で一緒に戦うなんざまっぴらごめんだ。……そうだな、げじぶり虫に這われるより嫌だ」

「……そんな」


 魔術師が俯く。少しひどく言いすぎただろうか。げじぶり虫に這われるというのは言い過ぎだが、嫌なのは本当のことだし第一、先に限らずさんざん俺が言われ続けた言葉だ。どうして俺に非があろうか。


「というわけだ」


 勇者の方へと足を動かす。

 今はいい、だがそのうちいつか魔王は倒す。



 して、人族は最大の戦力であった勇者パーティーを失い、しかもそのパーティーが魔族側についたことを知り、すぐさま魔族側に降伏した。それと同時に、人族が魔族との歴史を大きく改ざんしていたことも明らかとなった。かつて、魔族と人族はお互い尊重しあい、助け合いながら生きていたらしい。しかし魔族の容姿の醜さゆえに、それを快く思わない人族により、その平和な日常は壊された。ということが正史だ。つまり、魔族と人族の長きにわたる戦いは、人族が起こしたものだったのだ。魔王の言っていたことは正しかったわけだ。本来なら許されることではないはずだが、魔族側はそれを許した。人族と魔族は、互いに永遠の友達になることを誓い、長きにわたって繰り広げられた人族と魔族の戦争は終わったのだ。



 ちなみにあの時に俺が勇者側についたのは、魔術師に言った理由がすべてなわけではない。むしろ最大の理由がまだ残っている。俺は女が嫌いだ。それは日ごろから散々心の中で吐き続けた。

 でも、男は好きだ。



そう、俺はホモだ。



 そして俺は勇者を愛していた。いや今でも愛している。どうして好きな人と敵対しなくてはならないのであろうか。

人族と魔族の戦争は終わった。しかし、





俺と魔王の戦争は終わっていない。

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俺と魔王の戦争の果てに じんむ @syoumu111

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