あとがき 熾火の章

〈親殺しの血〉の謎

 え……? はい。ああ、〈親殺しの血〉ですか? ええ、英雄の血も。そうですね、歴史の教科書に乗っているような、かの有名な偉人だったり。ふむ、それはもうとっくに死んでいる人のはずなのに、どうして血が手に入るのか、ですか。

 それ、結構いろんな方から受ける質問なんですよね。何人かに言ったので、その誰かに聞いてみてください。



 〜血の謎〜 完



 はいはい! 血のシリーズですか〜? ……ああ、あいつ、また話すの面倒臭がったんですか! まったく、絶対そのしわ寄せがおれに来るんですから、もうちょっと何とかして欲しいですよね〜! まったく面倒臭い! 

 ……ん。やだなあ、面倒臭くなんて無いですよ〜! では早速、説明させていただきます!

 えっとですねえ、いきなりなんですが、夜の市場って色んな時代、色んな国の人がごちゃまぜじゃあないですか、ええ、あなたもおれも。全然違う世代の人。だからその欲しい偉人の年代の人に頼んで、墓から掘り起こしてもらったんです!

 えっ、何をって。死体です。まだ死にたての死体の手首を切ってもらって、持って来るんです。

 まだ腐敗が進んでないやつなら、組織を復活させられますからね〜! 知ってますか、死んだ体でも、肉体だけなら蘇生できるんです。

 肉体の損傷さえ治せば、その人は生き返らなくとも体だけはまた生命活動をするんじゃって好奇心、湧いたことありません? そうすれば、新鮮な臓器だって手に入るし……。

 え、肉体の損傷をどうやって治すか?

 そりゃあ、栄養を与えたり、傷んだ部分を交換したり、酸化を防ぐ鉱物や植物を目一杯混ぜ込んだ特製ブレンドの中に埋め込んだり。一時的に生き物の体に繋げたり……っと。そりゃ内容を全ては明かせませんが、こんな感じですかね〜! 

 まぁそんなうんたらをやって、採血用手首にまで辿り着いたんですよ! 色々利用価値ありそうなので、他にも何かできないか、商品化できないかって模索の最中でもありますね! 

 まあそんな感じで、掘り起こした死体の血を取って売ってるって感じですね! 平たく言えば!

 ね、これ聞いたら、ああちゃんと作ってるんだなって信頼できたでしょう。まったく、こういう説明、信頼関係こそあきんどとして大事なのに……。


 ところでお客さんは、何の血をお求めですか? 

 何の血を、お求め、ですか?

 ん? 買うんでしょう?

 買い、ます、よね?

 ……毎度ありっ!

 またのお越しをー、お客様ー!











 彼岸花は、まるで水の中から伸びてくる無数の手のようだ。まっすぐ天に伸ばされた手首のようなそれは、地獄から助けを求め、手を伸ばしているのだろうか。

 だから目の前のこれらは、まるで彼岸花のようだった。

 剣山に刺して固定した、無数の手首。左から、英雄、芸術家、とにかく明るかった人。

 そして大人たちの手にまぎれて、一番はじにある女の子どもの手。しなやかで白くて、爪には桜色すらさしている。

 さて、私から、親殺しの血を取ろうかしら。

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