第12話〈世界にひとつだけの花〉

 〜何も咲いてない植木鉢。育てたら、あなたの心を写した花が咲く。それは世界にひとつだけの、あなたの花。〜




 いらっしゃいいらっしゃいらっしゃーい!! リクの冒険譚、始まるよー! はいお客さん、どーぞこちらへ! はいそこのね、お似合いのお二人もいかがですか!? ん、付き合ってない? あーららら、こりゃ失敬。お似合いだなあと勝手に思っちゃいましてね……。あっ、お二人さん、聞いてくださるんですか!? ありがとうございます! さあーみなさんいらっしゃい! 間もなくリクの冒険譚、 はーじまーるよー!!

 えー……コホン。 みなさん、お集まりいただき誠に光栄です。それでは本日の主役、〈世界にひとつだけの花〉。聞いてください。

 ……あっ、歌じゃないですよ? そうそう、この商品のことです! だっひゃっひゃっひゃ!

 それでは〜、じゃーん! ご覧ください、この植木鉢を!

 ……はい、何も生えてませんね! しかしそう言った後に何ですが、本当に植木鉢を見ろってことではございません。実はこちらの植木鉢、種もなにも撒いてないんです。じゃあ何で見せたのか? ふっふー。こちらの品、種は育てる自分自身の心なんです。

 自分の心を映す鏡……みなさん、そんなフレーズを聞いたことがあるでしょう。この品はその通り、あなたの心を種とし、あなたの心を栄養とし、あなたの心をかたどった花を咲かせるんです。

 ……ありがとうございます。歓声の方、ありがとうございます!

 しかしこちらの花、育てている時の心の状態で咲く花の姿が変わるんです! 恐らく、自分の心を写した花が咲く、と聞いて自分という存在を、人生全てを代表した一輪の花が咲く、と思った方は多いのではないでしょうか。しかしこの花は、移り変わりやすい私たちの心をこまかく切り取って! その瞬間ごとのあなたの心を見せてくれます!

 大切に育てれば、この花は一生育ちます。そうしてあなたが死ぬ直前に、その人生全てをかたどった一輪の花が咲いてくれるのです。

 だから例えば老衰で死ぬ前、または逃れられない死を覚悟した時、または自殺を覚悟した時に、この花はあなたの人生全てを表す最後の姿へと形を変えるのです。

 聞いた話では、それはそれは美しいものだとか……。

 これは、その魔法の花を譲り受けた時の話です……。






 ふー、終わった終わった! 〈世界にひとつだけの花〉、完売とまではいかないけどなかなか好評だったな〜。まあおれの宣伝が良かったってのもあるかもしれないけど……にひひ。

 おっ。どうしたの君、何かお買い求め?

 えっ、注文の品……? ちょっと待ってね、リコが残してったメモに……。あぁ、あったあった。ふぅん、〈人間の首〉ね。注文先、「獣首の造船」……。えっ、君、もしかしてあそこの息子さん?

 ほ〜〜、はじめまして! 君のことは君のお父さんから聞いてるし、妹からも時々……いや、割と……うーん、かなり聞いてるよ。

 とにかく初めまして、会えて嬉しいよ!

 ほら、こんな場所じゃ子どもなんてほっとんどいないだろ? おれ、同じくらいの年の子と話すのほとんど初めてだからさ。

 それにしても、妹がいつもお世話になってるね! うんうん、ありがとうありがとう。これからも宜しくやってこうねところで君のお父さんにうちの船の改築を頼みたいんだよね。でね、それでその時ついでに、防水もサービスしてくれないかって聞いてみてくれない? 

 ほら〜おじさんとこの防水ってすっごく良いだろ? なのにあのサービス、安くしてくれるの初回だけでさ。あれやってもらっちゃったらもう他のじゃ駄目なんだよ〜。でもさ、あれすっごく高いじゃんか。うちも儲けてるとは言えなくてさ〜。まあ、タダとまでいかなくても、ちょっとまけてくれるとかね。もしくは別の商品でその分代替するとかさあ。どうだろう? ねっ、未来のお・と・う・と!

 おっ、おっ。いやぁ〜〜ありがとう!

 君が話の分かる相手で良かったよ!

 あっ、ところでさ! お礼と言ってはなんだけど、この商品良かったらあげるよ! うんうん、さっきおれが売ってたこれ。売れ残っ在庫としてとっておいたんだけど、お礼にもらってくれないかな?

 ほら、女の子ってきれいな花が好きでしょ。さっきも言った通り、この花って咲いたら、めちゃくちゃきれいらしいよ……。もし意中の子な〜んか居るんだったら、これあげたらイチコロなんじゃないかなあ〜。その子のことを想って咲かせた花なんか、ロマンチックだしすっごくきれいだと思うよ? 気持ちがいっちばん伝わりそうだし、現に妹はそう言うロマンチックなの、きっと恐らくは多分もしかしたらそういうの好き……いやぁ〜〜、ありがとう! うんうん、親父さんに防水の件も、よろしくね!

 君とは仲良くやっていけそうだよ、サバ君!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る