第6話〈親殺しの血〉
~そこにあるのは英雄の血や偉人の血。透明な、花をかたどった入れ物の中に、ルビーのような血が注がれている。そうして商品として並んだ姿はまるでガラス細工でできた真っ赤な百合。夜の市場のおぼろげで、さまようような灯に照らされて輝く姿は、何とも危うい美しさで人間を取り込もうとする。~
……はあ、そうですよ。昔から「血をひいている」とか「血を受け継ぐ」って言うじゃないですか。才能の媒体として血に目を付けたんですよ。
……どういう意味かって? まあ、本来才能とかは遺伝子が関係したものですけど、血液そのものにも才能の欠片のようなものが含まれているんじゃないかって思ったんです。……まあ、実際には血に才能を期待できるほどの結果は出なかったんですけど……。でも、考え自体は良かったらしく、近いものに影響が見られたんです。
性格です。
血には思念というか、その人本人の性質が含まれているらしいんです。知っていますか。これは臓器移植の例なんですけど、臓器移植を受けて性格が変わった、って話、聞いたことありませんか。食べ物の趣向が変わったり、趣味が変わったりって例もあります。
だからもともと、血でも同じことになる可能性はあるんじゃないかって思ってはいたんですけどね。
え、何で臓器にしなかったのか? いや、臓器って気軽に手に入らないじゃないですか。血だったらその人本人が居れば居るだけ取れるし。
なので、英雄の血なら英雄らしい気力や胆力。偉人の血であれば、研究への意欲、芸術への興味。などなど……。その名に相応しい恩恵を受けられます。
才能が手に入るっていうわけではないので、やる気だけって感じですけども。まあ、ちょっとしたやる気スイッチのように思っていただければ幸いです。
やりたくない、自分の専門ではないことをしなくてらならない時……例えば、美術の課題が出たとしましょう。その時に芸術家の血を使えば、実力が上がるわけではないですが、やる気やアイディアを得る助けにはなると思います。
いろいろな血がありますよ。良かったら……。
え? はい、何ですか。うん?
今日は機嫌がいいって?
………………。
……別にそういうのでは無いんですけどね。機嫌が良いと愛想が良くなるって言いたいんですか。べつに。機嫌自体はいつもと変わらないんですけど。血の方ついては、勝手に見といてください。
……え、〈親殺しの血〉は何に使うか?
ちっ。
知りませんよ……人を殺したい時とかじゃないんですか?
………………。
お客さん。私は今、あなたのことを無視してるんですよ。察してください。
……あぁはいはい。どこで手に入れたのか質問するなんて、お客さん、いやに不粋ですね。そういうのはうち、言いませんから。
……何です。機嫌が悪くなったから教えてくれない、機嫌の良い時に聞けば教えてくれたろうになーって意味ですか。それ。でしたら、どうぞお早くお帰りくださいお客さま。
じゃあ分かりました。〈親殺しの血〉だけ元を教えてあげましょう。私のですから。
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