第5話〈夜のとばり〉
~手にしようとすれば指のすき間から流れてしまうほど、なめらかですごく薄い布。先が透けて見えていて、まるで本当に影をはがしたかのよう。あまりにも儚くもろそうなそれは、感触もあいまいで、重みも分からない。まるで本当の影のように実体がつかめない。~
お早く買ってお早くおかえりくださーい。……何か用でもあるんですか。うちの商品をじろじろ見て。 はあ、商品を買いに来た……?
ふぅん、そうですか。
……何ですかさっきから。話しかけてこないでくださいよ。え、その商品? 説明書き読んでください。 ……えっ、無い? ……ちっ。
はぁーーはいはい、それはですね。〈夜のとばり〉です。簡単に言えば、影を紡いで作った布ですね。 は? 意味がわからない? ……はあ、そうですか。
…………。
何ですか、まだ何か用があるんですか。私、いま新聞のクロスワードパズル解いているんですけど……えっと、「い」……。 ああはいはい。分かりましたよ、……んどくさいのがきたなー……。は? 何も言ってませんよ。
ええっとですね、夜のとばりは夜にしか存在しない布なんです。つまり、朝が来れば消えてしまう布。でも、また夜が来ればそこに現れるんです。だから日中の移動は不可能。
…………。
え? それで何だって? 以上です。
以上。
……使い方? 知りません。使いどころがあるかなんて知りませんよ。無いんじゃないですか?
うん? 見つかりたくないお宝とかを、夜のうちにこの布にくるんで。それで日中の間だけ隠すのに使えるんじゃないのかって? あー……。
はしゃいでいらっしゃるところ申し訳ないのですが、そんなん宝石だけそこに残ってとばりだけ消えますよ。話聞いてました?
……あーはいはい、失礼申し上げましたー。ちょっと、船が揺れるのでこっちに重心かけてくるのやめてください。風鈴鳴らしますよ。
……ご協力ありがとうございます。で、お買い上げは?
…………。
冷やかし、と認識していいですね。
(ちりん ちりん。)
(がしゃん がつっ どっぽん。)
ありがとうございましたー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます