第4話〈虚しき愛欲〉
〜小さなブドウ色の瓶。中にはオーロラのような光の帯が揺蕩っている。蓋を開ければ、オーロラ色に輝きながら、胸の内が外へと舞い上がる。〜
……へぁ? さっきのですか? あぁ、虚しき愛欲! はいこれはですね〜、報われない恋や好きな人に会いたくてたまらない! そんな想いを抱いた人たちが、夜に発する念! それを集めて凝縮してこのビンにつめた、思念の塊です!!
ほんでもってこれはですね〜、惚れ薬になるそうなんです! このビンを〜、キュポッと開けて好きな相手に嗅がせると。他人の抱いていた虚しい愛欲に感化されて、あなたのことを好きになっちゃう! おひとついかがですか!!
え? どうやって念なんか集めたのかって?
う〜、それは妹の分野というか、妹に聞かなきゃ分かんないというか……。
すみません、珍しいものとかを調達してくるのはおれの役目なんですけど、それを商品にしたり、はたまた詳しい使い方、交渉とかは全部妹なんですよね〜。
え、どういうことかって? いやあのねですね、例えばこの影のマントとかは魔女からもらったもので、崖に生える薬草を取ってくる代わりにもらったんですよ。で、その取ってくる役目はおれなんですけど、その商品の情報とか、魔女の居場所とか、どうやったらその珍品を分けてくれるかを交渉するのはみーんな妹なんですよ!
念の塊シリーズはうちで作っているものなんですが、製造方法とかはおれよく分かんなくて〜。すみません、妹が店番の時とかにでも聞いてみてくれませんか。ありがとうございます!
お早く買ってお早くおかえりくださーい。
……何ですかあなた。うちの商品じっと見て。え、うちの念の塊の商品? はぁ、兄に……。すみません、馬鹿な兄で。はあー……。
で? 商品の説明をしてほしい? それも虚しき愛欲。何で。買うわけでもないあなたに説明しなきゃならないんですか。お帰りくださいお客様。うちはひやかし専門でもお喋り喫茶でもありません。……ちょっと、なんですか。暴力を振るう気ですか? お止めくださいお客様、私が迷惑です。
…………。
はあー。
(ちりん ちりん。)
(がらん がしゃがしゃ どっぽん。)
ありがとうございましたー。
はーいらっしゃーい! あっ、お客さーん。どうでしたかー妹に聞けましたー?
え、毒を吐かれた? はぁ、更に川に落とされた……。すみません、無愛想な妹で。はあー……。
え? なになに? ふむ、掴みかかろうとしたらリコが風鈴を鳴らした。そしたらいきなり殴られたみたいに体が吹っ飛んで、そのまま池に落ちた。
あぁいつっ! またやったんだっ!
やー、すみませんお客さん! それ、たぶん結界です。うちのぶら下げてる風鈴って、風に吹かれても音は鳴らないじゃないですか。妹やおれが触った時だけしか、音は鳴らないんですよね。そしてその風鈴を鳴らすことでこの船に結界を張るんですよ。
ほらー、妹って礼儀を知らないじゃないですか! それにお客さんみたいにガラの悪い大人もいることですし、危ないからって店を構える際に取り付けたんですよ。そしたらもー付け上がる! うちの商品は珍しいから、ここでものを買わなきゃならないお客さんがいることもあいつ分かってるんですよ。そこに相手が自分に手を出せないような道具があれば鬼に金棒? 全く笑っちゃいますよ。あっはっはっは!
……うん、何ですか? こんな目にあったんだからお詫びの品くらいよこせ? いや〜お客さん、冗談きついですよ〜もー、それとこれとは話がべ、つ! さっ! お帰りはあちらですよー。
うん? この店を立ち行かなくしてくことだってできるんだぞ? あはっ心配はご無用! うちの自慢の珍品、嫌でも買いに来るお客さんはそこそこ居ますし〜! 無理ですよ、それは。
えー? こんなチンケな商品、買いに来る奴はいない? いますいます! これ、確かにガラクタに見えますけど、結構珍しいんですよ〜! だからお帰りやがれこの顔面福笑いが!
(ばきっ。 がらがしゃ。 どっぽん。)
おい、えぇ? こっちが下手に出てりゃいい気になりやがってよ。てめえ福笑いで遊んだ後みてぇな顔しやがって。お?
おれも遊んでいいか? 顔のパーツの位置を変えてやるよおるぁ!! 何だてめぇ、怖がってんのか?はっはー。こちとらたかだか12かそこらのガキだぞ。何怯えてんだよ。……笑え、お前福笑いだろ。福笑いが笑わないでどうするんだよぉ〜、笑え!!? 水から上がってこいよ。ほら、頭を踏みつけてるこの足をどかさないと、溺れ死ぬぞ? えー? 何言ってんのか聞こえねぇよ! このクズ! あぁ!!?
(ちりん ちりん。)
(がらん がしゃがしゃ どっぽん。)
……何やってんのよ馬鹿リク。全く、少し店を開けてみればろくな事があったもんじゃない。すみませんねお客様、うちの馬鹿が。しっかり躾けておきますので。これどうぞお詫びに、粗品ですが……。え? いらない、つけあがってごめんなさい、私は福笑いです。
……左様でございますか。ではせめて上がって、体だけでもお拭きください、このタオ……。ありがとうございましたー。泳いで逃げてっちゃった。
……さて。まったく何やってんのよ馬鹿。お客さんにあんな失礼な態度とっていいと思ってるの? ほら、いつまでも川にいないで、上がっておいで。最近は落ち着いてきたと思ったら……。あんたまだその気性治ってないのね。接客態度は身についたのに……。だからあんたに店番は任せられないのよ。いつそっちに戻るか分かったもんじゃない。
……なに? ほらふてくされてないで、上がっておいで。ふむ、商品をバカにされて悔しい。よしよし、あんたの揃えた商品は立派よ。あんなの負け犬の遠吠えだから気にしなくて良いの。 ほら、ほんとよ。ね。上がっておいで。
……全く、手のかかる双子ね。
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