第3話〈ホウセキコビト〉

 〜鳥かごの中で、何かがかしゃかしゃ動いてる。 針金で作った棒人間のような生きもの。そして、その針金には色とりどりの大きな宝石が括り付けられている。頭にいっこ、体に に、さんこ。腕や足にも宝石がついているコビトもいて、宝石は全部違う色や形をしている。宝石は闇夜の中で薄ぼんやりと光りを放ち、美しくキラキラ輝いてる。〜



 いらっしゃいいらっしゃいらっしゃーい! リクの冒険譚、間も無く開幕だよー! はいどーぞお客さんこちらへ! はいそっちのお客さんも、はいいらっしゃい!〈風鈴の帆〉へようこそ! どーぞどーぞごゆっくり!

 あっお客様にはこれなんかどうですか。 〈虚しき愛欲〉! どんなにもてなくてもこの薬さえ使えば……え、違う? あ、その鳥かごのやつですか! お目が高いですね〜! そう、この小っちゃい奴らはホウセキコビトって言ってね、昼間はふつうの針金のおもちゃ。なのに夜になると踊って戦ってきらめいて! まるで舞踏会? それとも武闘会だっひゃっひゃっひゃ! 小さな子供とか喜ぶと思いますよー!

 えっ、どこで手に入れたのかって? よくぞ聞いてくれました! さあて、お客さんもだいぶ集まった頃ですし、〈風鈴の帆〉 兄こと店主、リクの幻の道具を求めての冒険譚! はじまりはじまり〜!


 ホウセキコビトは、ある魔女が作っていた魔法人形の試作品でした。おそろし〜〜い魔女でね。人の心を操っちゃおうとか企んでる悪い魔女なんです! でもおれは逃げなかった! 妹を庇いながら、勇敢にもおれは言った! 「ください!」そうしたら、魔女はこう言った。

 幻術の冠が欲しい。

 幻術の冠? おれは聞いた! その幻術の冠とは、かつて昔、世にも恐ろしい女王が付けていたという魔法の冠……! それを取ってきてくれたのならばこのホウセキコビトだけにとどまらず、これからも取り引きに応じてやろう。魔女はそう言った。これは大きな取引先を得るチャンス到来! 早速その冠を求めて旅の準備!

 幻術の冠がある場所は滅びた城跡。冠の持ち主、女王は自ら戦地に赴いては、敵の軍に恐ろしい幻覚を見せる女術師だった! その幻術の恐ろしさに心を壊した兵士、味方を化け物だと思わされ、同じ釜の飯を食った仲間を殺しあった兵士! ああ非道! 果てしなく非道! そんな冷酷無慈悲な女王が何故! そこまで強い幻術を使えたのか……。

 それは、冠。かつて女王に献上品として捧げられた冠は、凄まじい魔法のみなぎるすんごいお宝だった! それを女王は、自分の得意とした幻術の魔力を込め続けたんです。そうしてできたのが、すさまじい魔力を帯びた幻術の冠! しかし恐ろしいのはそれだけでは無い。その女王は戦争により、とうとう最後には殺されてしまいました。しかし! 女王の亡霊が冠にとり憑き! 未だに城に近づくものを殺し続けている、という、話なん、です!!

 危険な旅になるからと、魔女もいくつか魔法の道具を貸してくれました。それは、今実際に取り扱っている商品でもあります。どれか、というのは話の途中に出てきますので、お楽しみに!

 さあ、ごく普通の非力な子どもがどうやってそんな恐ろしい亡霊相手に戦えたのか? それは奇しくも、恐ろしい魔女の作った優れた道具のおかげでした……。


 まず城の入り口にはたくさんの兵たち。とは言っても、中身は全てがらんどうです。骨ぐらいは入ってるかもしれませんが……。つまり落ち武者ですね。鎧が魔力によって動けるようになってしまったのです。冠の力は城の外まで張り巡らされていて、その猛威を振るっていました。

 え? 冠の力は幻術ではないのかって? いやいや、それはもちろんそうなのですが、それは女王が主とした魔法。冠の魔力を長い間浴び続けているうちに、その城に関するもの全てが魔力を帯びる魔法の道具となってしまったのです!

 さあ、ここを突破する方法はひとつ! 空です! とぅーんっと、空を飛ぶのです! 魔女は言っていました。あの城を守る無数の落ち武者たちのこと。そしてその時こそ、この〈天狗の下駄〉を使いなさいと!

 ご覧ください、この摩訶不思議な形をした履物を……これをこの通り、履いて跳ぶとほらっ! よっ、ほっ! どうです。体がこんなに軽くなって、少しジャンプをするだけで人の5人分は軽々と飛び越えられるんです! ほっ、よっ、ありがとうございます、拍手の方、ありがとうございます! ふう。しかし、盛り上がるのはまだ早いですよ。

 おれはその城の前で、この天狗の下駄を履きました。そのまま敵陣に向かって真っしぐら! からんからんからん!!! 襲い来る落ち武者たち!おれは地を蹴る! 跳ぶ! 体はぐんぐんと高く上がってく! やがて体は下へと落ちてゆき、 おれは落ち武者の兜の上に着地! そして思い切り踏みつけては、また空へと飛び上がる! 落ち武者たちを踏み台にして、ジャンプジャンプジャンプ!! いよいよおれは、城の庭園へと飛び込んだ! そして着地!

 奴らの体は空っぽ、つまり頭も空っぽ。能無しどころか脳なしのあいつらに、見えなくなった敵を探すという脳は無いのです。そうしておれはようやく、城の中へと潜り込みました。


 城の庭園にたどり着いたおれは、持ってきたのり巻きを食べようと木の根元に腰を下ろしました。包みを開けて、いただきます!

 ……しかしふと、そこで視線を感じました。右を見る、左を見る。なにもいない。

 ぁああああ!!!!!

 ……おれは驚いた。何故って? 耳に、息を吹きかけられたから……そう! その視線の正体はおれのすぐ後ろ、木だったんです!

 何ということでしょう。おれが腰かけた枯れ木にはよく見ると枝ではなく、無数の手や足が生えていたのです! そして顔! 丁度おれのあたまの後ろに、老いた男のような首がめり込むように生えていました……!

 おれは聞きます。なに、誰? その木のおばけはゆっくりと口を開け、ぎしぎし、ぎしぎし軋んだ音をたてながらこう語り出しました。

 私はかつて、この朽ちた城に調査へ来た調査員だった。しかしおかしな甲冑に襲われ、気付いたらこの木に埋め込まれていた。そして共にきた調査員たちも同じく埋め込まれていた。時々新しい人間がこの城に足を踏み入れ、同じようにこの木に埋め込まれる。

 どのくらいの時間が経っただろう、他の皆は少しずつこの木に取り込まれ、同化していき、このように手だけになった。私は何故かずっとこのように、これ以上は取り込まれずに顔だけ残っている。私より後から来た者はとっくに取り込まれてしまったというのに……。

 老人はそう喋っていた。おれはその間、南南東を向いてのり巻きを食べていた。

 うなだれている老人におれはそっと言いました。大丈夫、人間に戻る方法をおれは知っている。老人は悲しげに返します。

 そんなものはあるわけない、お前さん、魔法でも使えるのかね。

 おれはバッグの中を漁り、老人にあるものを差し出しました。老人は、これは何だとおれに聞きます。おれは笑顔でこう言いました。今から何でも願いをひとつだけ叶える道具の使い方を教えます。まずそのまじないの間はひとことも喋っちゃいけない。願いを心の中で途絶えさせることなく唱え続けなくちゃならない。そして、これを南南東に向かって食べるんだ。今年の恵方は南南東だから。あ、噛みちぎっちゃだめだよ、一気に食べてね。おれは恵方巻きを老人に差し出しました。ぽかんと口を開けた老人の口におれは恵方巻きを差し込み、そのまま城へと走ったのです。

 老人のヨタ話に付き合ってはいられない、そもそもあれが幻覚な可能性の方がずっと高い。おれは冷静であり、優先順位もしっかり分かっている。そういう人間なんです。


 さてさて、城に向かったこのおれ。城の中には、魔女から聞かされていた無数の罠! そこで大活躍、この冒険譚に登場する道具たち!


 まずはお約束、無限部屋! 襖を開くと大部屋、また襖を開けば大部屋! 永遠に大部屋! こういうのは基本的に、同じ場所を何度も歩かされているというのがお決まりです。そう、その城での無限部屋の仕組みは、部屋自体が丸い輪になっているという巧妙かつ単純なからくりだったのです! 幻覚を使って、直進に進んでいるように見せかけてね。

 ではそこから抜け出すには? 目には目を、歯には歯を。そこで使ったのがこの、ホウセキコビト! なんとこれ、おもちゃや飾りにだけではなく、囮としても使えるんです! このホウセキコビトの恐ろしいところは、本人にとって都合のいい解釈をさせてしまうところ。あたかもホウセキコビトがその相手のように感じてしまうのです! 幻覚の部屋にもまた然りです。そのうち部屋はそのホウセキコビトをおれだと錯覚してしまう! そう、同じように騙してしまうのです。そのホウセキコビトを無限部屋で走らせて、おれはその間、まるで部屋の置物のようにじっとしている。そうしていると幻覚を見せる対象がおれからホウセキコビトへと変わるのです。

 すると! 気づくと直進だった部屋は、ぐにゃぐにゃのおかしな部屋に変わっていた。幻覚はホウセキコビトのおかげで解けたのです!


 次に待ち構えていたのは主を失くした名刀! 血を欲して彷徨うそれは、おれを斬りかかりに一直線! そして登場、〈母の錦〉! ご覧くださいこの一見みすぼらしい着物を! これは名前の通り、子を持つ母親が来ていた衣でね。この母親は子をかばって死んでしまった、深い慈愛の持ち主だったんです。

 そしてこれを刀の前で、バッ! と広げる! 迫り来る刀! ドスッ……!

 …………腹に向かって突き刺してきた刀。しかし、当たってはいるもののおれの腹は切れてない。そう、 これが〈母の錦〉のすごいところ! これをまとえば、 刀どころか爆弾からすらも守ってくれる最強の盾!

 ……しかしこれ、子どもしか守ってくれないのが難点なんです。なので、お買い求めの際は子どもがいる方の方がいいかと……。

 さて、話の続きですが、おれの腹に飛び込んできた刀をそのままその錦でぐるぐるぐるーっと巻いて、あとはてきとうな紐で縛れば、もう刃も柄も出ない! 誰にでもできる! そう、〈母の錦〉ならね!


 ……無数の罠をくぐり抜け、おれはとうとう辿り着きました。女王のいた、そして冠の鎮座する本丸御殿に。冠はそれは美しく、恐ろしいものでした。おれはその《冠の間》に足を踏み入れる。ぐちゃ。何かおかしなものを踏んだ。下を見ると、そこはいつの間にか真っ黒の沼の中! さらにその沼からは、溶けかけたような真っ黒の手や顔がうごめき、這い出てきている! 幻覚といえども感触もあり、それはそれは恐ろしかったです……!

 そうしておれは、魔女から手渡された最後の道具を手にする。その道具とは、この皆さんの目の前にあるホウセキコビトたちを閉じ込めている〈黒水晶の檻〉!

 黒水晶は、非常に強い魔除けの石と呼ばれています。しかし、黒水晶の魔除けというのは魔力を跳ね返すのとは少し違うのです。黒水晶は……魔力を、消してしまいます。それこそ魔法のようにね。

 この〈黒水晶の檻〉は魔女が特別な魔法をかけて作ったもの。魔消しの檻、なんて名前でも良かったくらいです。この檻の中に閉じ込めさえしてしまえば、いくら魔力を放出しようと、その魔力が外に届くことは無い……。


 ……そうしておれは冠の入った檻を持ち、その城を後にしました。すると、後ろからおーい、おーいと声が聞こえる。後ろを振り向くと、どこか見覚えのある老人がこっちに駆け寄ってきました。彼はぜいぜいと息を切らしながら、涙を流してこう言います。

 ありがとう、君のくれた魔法の食べ物のおかげで私たちは元の姿に戻れたよ。最初は半信半疑だったんだけどね、まさかだよ。食べてしばらくしたらあの大きな木が枯れて……! みんなも助かったんだ。疑って悪かった、ありがとう、本当にありがとう!

 なんとそれは、あの枯れ木に閉じ込められていたあの老人だったのです! おれは思いました。あれは適当にあしらうためについた嘘だったのに、きっと恵方巻きではなくて、この冠を回収したからだろうな、と。

 しかし、それを言うのは野暮な気もしてやめました。おれはそのまま名も告げずにその場を去り、幻術の冠を巡る冒険は幕を閉じました……。


 ……さあ、この冒険譚に出てきた品の数々!〈天狗の下駄〉! ではまず10から! はい12、13、おっ! 20! 20です、他にいませんか? おっと30!他には。他の方は? ……30、落札しました!!

 では次の商品、〈母の錦〉! こちらは15から、いきますよ! …………



 ……お疲れリク。相変わらず口が上手いわね。しかも詐欺すれすれ。魔女が罠を知り尽くしていたって嘘もなかなかだったと思うわよ。そうすれば、罠に合った道具があってもおかしくないし。

 ……何よ、だって最初に冠を取りに行った時、道具なんて使わなかったじゃない。全部殴り倒すか破壊して力任せ。先に城に行って冠があるところまで行ってから引き返す。それで魔女に仕掛けられてた罠を説明して、その罠への助けになりそうな品を無理やりこじつけて選んで……。しかもその道具を持ってもう一回その城に行くし。それで使えることを確認して、あたかも道具を使って冠を手に入れたかのように話をでっちあげてるじゃない。こういうのも出来レースっていうのかしらね。違う? ああそう。

 まあ、嘘すれすれでもいいんじゃない? 冒険譚を織り交ぜた方が競りでも高い値がつくし。

 え? 幻術の冠をあの魔女はどうしてるのかって?

 さあね。大方どこかのカモを騙すのに使っているんでしょ。あのエメルジェって魔女が人を陥れることができたとしたら、それはきっとあの冠のおかげでしょうね。

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