第7話 人生やると決めたらなんとかなる

 俺は未来から来たという訳ではなかった。

 そうではなく、俺は単純に何か別の世界に来てしまったようだった……。


(困った、困った事になったぞ……)


 ともすれば所謂、お得意の未来はこっからこうなりますというものが全く見えなくなってしまう。


「あ、あの……現在の織田家のご様子は……」

「若いのは本当に知らないんじゃのう。こんな事になるのであれば、もっと早くに説明しておくんじゃったわい」


 その通りだよ備中さん、と心の中でぼやく。

 しかし、あの時に最初に出会った人がこの人で良かった、とも思う。

 そうでなければ、怪しい人物として突き出されて今頃はどうなっていたかわかったものではない。

 この和装にも随分と慣れたものである。


「現在は……」


 と、浅野という人物が説明を始める。


「我が織田家は北の遠藤えんどう氏と目下、対立中である。しかし、東の今川とも状況は芳しくない。それは当主である勘十郎平朝臣信勝かんじゅうろうたいらのあそんのぶかつ様が戦力を大きく失っている事にある」

「え、それ誰よ、信勝さんってあの弟だっけ、信長さんの」

「き、貴殿!無礼であるぞ!!」

「ええ……、な、何がですか……。もっとわかりやすく言って下さいよ!こっちはか弱き未来人、じゃなかった異世界人なんですよ!」

「まあ、多少の無礼は許せと言われておる」


 おおよそ異世界なんて概念はないのかもしれない。ひょっとしたら黄泉の国からの使者なんて思っているかもしれないのだ。

 ともかく、ここの大名は織田信勝なので信長の尾張平定は叶わなかったという事なのだろうか……。


「で、だ」


 こほん、と咳ばらいをしてから再び話し始める。

 もう一人はひたすら黙ったまま目を閉じている。

 いるよね、こういう考えてますアッピルしてるやつ。そういう奴に限って何も考えてないんだよきっと。たぶんね……。


「現在の織田家は特別な事情がある」

「特別な事情?」

「そうだ、我々は領地を治めてはいるが一枚岩ではない」

「と、いいますと?」

「うむ。正確にいえば、我が織田に領主たちは完全には屈していないと言う事だな」

「な、なんでですか?一応は配下なんじゃないですか?」

「ああ、確かに配下ではある。それはそうだ。しかし、我が家は大義名分のもと主家を斬って現在の力を手に入れた。そして当然ながらその力は未だ全域には行き届いておらん。あれやこれやと難癖をつけては主命に従わずに謀反をするものばかりだ」

「そういうものは……どうしちゃうんですか?」

「大抵はある程度戦った後に、許さねばならん。農民や常備兵がいなくなってしまえば、それだけ戦力を削いでしまうからな」


 戦には農民の力が必要だとは聞いていたが、その様な事があったのかと思った。

 外の鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 どこか、あいつらは良いよな……とつぶやいてしまう自分がいた。


「それでのう。問題は、こういった支配をしておるゆえ、少々厄介な事がある。それは、彼らを治めてはいるが、皆が家臣という体制をあまり整えてはいないと言う事だ」

「ん?と、言いますと?」

「ええい、わからぬ奴め!つまりだな、それぞれには土地を支配する領主がおる。その領主が集まっているのだが、弾正忠だんじょうのじょう様は飽くまでもその連合の中心人物という性格を担っておるのみなのじゃ」

「だんじょーのジョー?」

「勘十郎信勝様じゃよ」


 備中さんからも呆れたかの様なため息が聞こえる。

 し、仕方ないじゃないか!分かりづらいんだよ!


「つまり、弾正忠信勝様は飽くまでも領主連合の最有力者であって、領主を直接支配している様な態勢じゃないんだね」

「左様だ」

「へー、てっきり土地を部下に分け与えてそこからあがる年貢を報酬として渡していたのかと思ったよ」

「うむ。しかし、それこそが弾正忠様が目指しておる姿。つまり、この様な支配体制に於いてはいずれどこぞの家が攻めてきても、簡単に皆裏切る可能性がある。領地の安堵さえしてもらえば彼らは良い訳だからな」

「た、確かに……それだと常に自分が強くないといけませんよね」

「それだけではない。さっきとは話が逆になってしまうが、味方の戦力を敢えて割いて裏切る目を摘むことも肝要になる。それゆえ、敵を作り常に緊張状態を作り出さねばならん。気が休まる事はない」

「な、なるほどです」


 それしか言えなかった。目の前の出来事にさえ付いていけないにもかかわらず、この様な深い話を理解するなんて出来なかった。


「しかしあなたは聡明であらせられる。先に述べた様に、弾正忠信勝様は自分の手足となる配下を増やし、この様な連合体制からの脱却を考えておられる」

「革新的ですね!」

「うむ、そしてそのためにまずは城を一つ!お主に預ける事とする」

「なるほどです!確かに自分ならまず謀反はしないでしょうし……って、今何と?」

「いや、お主。あの不逞な盗賊たちから村を守った采配をしたのであろう?だから、城を一つ!お主に任せる!今日はこれを伝えに来たのである。また、話もしっかり聞き、聡明さもある。期待しておるぞ」


 隣を見ると、備中さんも口を開けている。

 なぜこうなったし!とんとん拍子の謎出世に、驚くよりも先に不安が圧し掛かってきた。

 だ、だからあんな込み入った事情まで俺に話してくれたのかあああああああ!

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受験生たる俺の、慎ましやかな並行世界戦記 朝立 朗 @sanara7

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