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「ダンちゃん。またきてくれたんだね」
まあ、いちおうといった調子で、曖昧にうなずく。
「もしかして、私のこと待っていてくれたの? ごめんね」
こんな嬉しそうなごめんねには絶対気持ちがこもっていない。というより昨日といっしょ。言葉と態度が真逆にある。マユリはいった。
「昨日もせっかくきてくれたのに、帰らせちゃったもんね。ひさしぶりにケンジがきてくれるっていうから、彼氏優先させちゃった」
まあ、気持ちはわからなくもない。こいつも先ほどのコンビニ女といっしょだ。毎日バイト先とアパートの往復だけ。そんな日々の色になっていて、そんな日々のささえになっているのは彼氏であり、ケンジという若いリーマンの存在だけだ。恋愛に唯一の幸せを求めることは決して悪いことではない。
それにしても、どうしてきかれてもいないことを女はべらべらしゃべるのだろうか。一日に三万語をしゃべらないと発狂するといううわさは本当かもしれない。
「本当にごめんね」
ごめんをひたすら連呼しながら、マユリはノブに鍵をさしこむ。おれは三万語の犠牲になるつもりもなければ、そんないいわけにも興味はない。ただ黙って腹を膨れさせてくれればいいのだ。
「今、ごはんつくるからね」
そういいながら嬉しそうに部屋におれを招きいれる。完全に彼氏持ちの女のヒモってポジションだろうか。もっともマユリにはそんな認識はこれっぽちもなさそうだが。
これもたぶん、悪いことではないと思う。
昨夜と続きのおれたちの日常。
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