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どうやら彼女は長野だか岐阜だかの田舎からでてきて、ひとり暮らしをしているらしい。ひとり暮らしのきっかけは大学に合格したこと。しかし、都会の空気に慣れないらしく、大学に入学しても友達はできなかったそうだ。
ついでにいえば、授業にだってたいした興味も持てないらしい。学校とアルバイト先のコンビニとひとり暮らしのアパートをいったりきたりするだけの毎日。そんな生活に、うんざりしきっているという。
「でもね」
彼女の話は続きがあった。
「最近彼氏ができたんだ」
この女も基本、のろけをしたいだけのようだ。まじめにきいていたことがバカらしくなる。
女がいうには、恋をしたことで、なにもない人生にひとすじの光が見えてきたのだそうだ。そのよろこびは日々のすべてを帳消しにできるほど。バイト中もケータイチェックを欠かさないほど、うきうきしている。
くだらない。この手の話は本人にとってはドラマチックなものかもしれないが、他人にとっては退屈極まりないものだ。おまけにまったく需要もない。マスターベーションの親戚だった。
「ふぁ……」
口をあけて盛大にあくびをしてやった。女はおれが飽きあきしていることなどおかまいなしに、需要のない話を続ける。
「このまま学校に残ってもしかたがないし、もう辞めちゃおうかと思ってる。彼は社会人だし、私もバイトを増やせば、ふたりで生活できるかなって。彼も、卒業したらいっしょに住もうっていってくれているし、二年くらいまえ倒しにしてもいいかなって思ってるんだ」
そんなもん勝手にしろといいたくなったが黙っていた。女はもう退学届の用意もすでにしているらしい。書類を書いてハンコを押した。あとは提出だけだという。
「だけど、ひとつだけ問題があってね」
おれは興味のなさを前面に押しだし一切返事をしなかった。あるていど話して満足したのか、女ははっとわれに返った。
「ごめんね。初対面で、こんな話ししちゃって」
そういって立ちあがり、尻の汚れを手ではたくジェスチャーをする。
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