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 次の日もおれは、マユリの部屋にいった。近くにあてがない以上しかたがない。そのうえ昼間はすることがない。アパートの階段をのぼりドアをノックする。なかからの反応はなし。ドアの上部についている、そとをのぞくための目は冷たく虚空を見つめていた。

 から振り。

 フリーターのマユリはアルバイトにでもいっているのだろう。あてがはずれて、頭にくる。それにしても、腹へった。昨日の夜からかたゆで卵をひとつくったきりなのだ。今日に至っては朝食どころか水の一滴だってのんでいない。

 上空では月に変わって太陽が、こちらをじっとにらんでいた。あたりまえだが八月は暑い。街路樹にへばりついたセミたちが、ぎゃいのぎゃいのと騒いでうるさい。

 あまりにもうるさいから、おれは木登りでもして片っぱしから蹴飛ばしてやろうと思った。しかし、そんな元気はすでになかった。なにせなにもくっていないのだ。

 どこかの公園でせめて水でものんでマユリが帰ってくる夜まで寝てすごそうか。一瞬だけそう思ったが、とても現実的な方法ではなさそうだった。この気温とこの空腹では眠るなんてとても無理だろう。体感的には三十五度をゆうにこえている。

 とりあえず空腹だけでも解消しないと、ばたんと倒れて干からびて死ぬ。どうしたものか。しばし悩んだ。ジューシーなハンバーグやつゆだくの牛丼が頭に浮かんだ。

 プライドはゆるさないけど、背に腹はかえられない。コンビニの廃棄弁当でもあさってみるかな。


 一度思いつくと、いても立ってもいられなくなる。やらないと気がすまないのが、おれの悪いくせなのだ。

 マユリのアパートからふたたび駅まえに戻った。完全なる二度手間。路地を背負った全国チェーンのコンビニにむかう。

 目的の場所は車一台がとおり抜けできる裏路地で、左右は長い灰色の壁。飲食店のポリバケツが一軒ごとに規則ただしくならんでいる。

 壁にへばりつく配管や砂埃のこびりついたエアコンの室外機を左右に見ながらおれは汚い路地を歩いた。

 目的のコンビニのポリバケツは二十メートルほど進んだ場所にある。あたりに人がいないか警戒しながら、おそるおそる歩を運んだ。無意味に何度も背後を確認してしまう。駅まえの繁華街の活気は路地裏の入口で遮断されていた。まるで入口に不可視のバリアーでも張られているみたい。

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