6
「ダンちゃん、怒ってる?」
マユリがたずねる。べつに怒ってなんかいない。だが、おれは返事をしてやらなかった。
「ごちそうさま」
そういったつもりだったが、口のなかに卵を頬ばっているので、うまく言葉になっていなかったと思う。床に足を着地させ、マユリとすれ違う。キッチンをとおりすぎ、一直線に玄関にむかう。
「ごめんね」
声といっしょにマユリがあとを追ってくる。小走りになっておれを追いこし、玄関のドアをさっさとひらいた。
「またきてね」
言葉と態度がともなっていないと思ってしまうのは、おれがひねくれているからだろうか。
またきてね、か。
おれはさっさとアパートのそと廊下にでる。
さあな。
マユリを振りむかずに心のなかでいった。
ドアがしまると、背後のドアスコープからの視線を感じた。アパートの玄関に据えつけられたのぞき穴から見られているが、振りむいてなどやらない。おれにはほかに、めしをくわせてくれる女が何人もいるからな。マユリや、この場所に固執する理由は初めからどこにもないのだ。
そう、おれは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます