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「ダンちゃん、怒ってる?」

 マユリがたずねる。べつに怒ってなんかいない。だが、おれは返事をしてやらなかった。

「ごちそうさま」

 そういったつもりだったが、口のなかに卵を頬ばっているので、うまく言葉になっていなかったと思う。床に足を着地させ、マユリとすれ違う。キッチンをとおりすぎ、一直線に玄関にむかう。

「ごめんね」

 声といっしょにマユリがあとを追ってくる。小走りになっておれを追いこし、玄関のドアをさっさとひらいた。

「またきてね」

 言葉と態度がともなっていないと思ってしまうのは、おれがひねくれているからだろうか。

 またきてね、か。

 おれはさっさとアパートのそと廊下にでる。

 さあな。

 マユリを振りむかずに心のなかでいった。

 ドアがしまると、背後のドアスコープからの視線を感じた。アパートの玄関に据えつけられたのぞき穴から見られているが、振りむいてなどやらない。おれにはほかに、めしをくわせてくれる女が何人もいるからな。マユリや、この場所に固執する理由は初めからどこにもないのだ。

 そう、おれは――

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