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「あった、あった。これ、これ」
嬉しそうな声をあげ、マユリはちいさな箱を引っぱりだした。それを持ってこちらにくる。
なんだよ、それ。
そんな目で見つめていると、さらに嬉しそうな表情で中身を見せてくれる。
チョーカーだった。マユリの髪のようなダークブラウンの革ひもの両端がシルバーでひとつにまとめられている。レザー部分には飾り気のないブロック体で、記号みたいな『DAN』の文字。とめ具のシルバーには別パーツでなにかがついていた。蜂蜜色のにごった石。中央には白いラインが一本はいっている。クリソベリル・キャッツアイ。たしかそんな名前だったと思う。猫目石というやつだ。
「これ、私とお揃いなんだよ」
そういってまえかがみになり、自分の鎖骨を指でさす。マユリの首には華奢なネックレスのペンダントヘッドとしておなじものが光っていた。それがこちらを見つめている。
もっともおれの視線は、そんなものより、その奥のキャミソールからのぞく胸の谷間とわずかに見えるブラジャーにくぎづけになってしまっていたが。
「ダンちゃんのえっち」
そういって頬を膨らませるが、そんな格好でそんなポーズをとるほうが悪い。不可抗力というやつだ。おれに非はない。
「私がつけてあげるね」
そういってマユリはなにが楽しいのかへらへらしながら、おれの首にチョーカーをかける。ぐっと近づいたマユリの身体からはシトラス系のボディソープの香りがぷんぷんしてきて酔いそうになる。
またえっちなどといわれてはかなわない。おれはキャミソールの隙間の胸から視線をはずした。ソファから九十度角度を変えた場所に、この部屋唯一の窓がある。もっとも今は夜なのでカーテンがしめられていて、そとは見えない。ライトグリーンの波がなめらかにうねっているだけだ。
「うん。似あう、にあう」
おれの首にチョーカーをかけ終えたマユリがとめ具の位置をネクタイみたいに調整する。おれは新婚のだんなのように身をまかせる。視線をしたに落として見つめてみたが、位置が悪くペンダントヘッドの猫目石は見えなかった。果たして本当に似あっているのだろうか。わからない。
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