第38話 二人で夕食
小熊は礼子のログハウスのキッチンでお好み焼きを作った
ここに来る途中で買ってきた材料を広げ、刻んだキャベツ、紅生姜、卵、小麦粉、水をボウルで混ぜ合わせる。
小熊が自分のアパートで時々作って食べている質素なお好み焼き。材料もそれしか買ってきてない。
たまには変わった味で食べたいなぁと思いながら、飲み物を取ろうと冷蔵庫を開けたところ、食料がほとんど入ってない冷蔵庫にはなぜかスーパーの発泡スチロール製トレイに入った豚バラ肉があった。
ブタ玉を作るのにちょうどいい、でも勝手に使っていいものか、冷蔵庫を閉めて少し考えてると、礼子がリビング中央の羊毛ラグに寝っ転がっりながら言った。
「お好み焼きまだぁ~?お腹空きすぎてガソリン飲みたくなる~」
小熊は冷蔵庫を開けて取り出した豚バラ肉を、お好み焼きの材料が入ったボウルに全部入れた。
パックに記された賞味期限は一昨日だけど、匂いを嗅ぐ限り大丈夫。一応礼子にも返事をしておいた。
「もうすぐだから」
お好み焼きのタネをフライパンで焼く。出来栄えより時間を優先すべく油多めで火を強めにしたところ、思いのほか表面がこんがりと美味しそうに焼けた。
小熊が普段そうしてるようにフライパンでまとめて何枚も焼く。猫舌気味なのでホットプレート等で焼きながら食べるのは苦手だし、礼子とも一緒にお好み焼きを焼くような関係でもない。
何枚かのお好み焼きが出来上がり、小熊は礼子の待つリビング中央のラグに置かれたちゃぶ台まで持っていく。
礼子はラグの端にしゃがみこみ、十二畳ほどの室内の三分の一を占めるレンガ敷きのスペースに並べて置かれた自分のハスラー50と小熊のスーパーカブを眺めていた。
似合ってるような不似合いなような二台の組み合わせに興味を抱いてるというより、一夏を越えたとはいえ買ってまだ3ヶ月足らずで真新しい小熊のカブと、あちこちか傷つき、汚れた自分のハスラーを見比べて苦笑しているような感じ。
バイクにさほど詳しくない小熊にも、礼子のハスラーはしばらく見ないうちにだいぶくたびれたように見えた。
黄色いタンクには大きな凹み傷が出来ていて、シートも破れ、ウインカーのレンズが割れている。
礼子はエンジンだけ真新しい自分のハスラーに触れながら言う。
「こりゃそろそろ外装取っ替えないといけないかな。」
レンガ敷きのスペースには工具と共に、ハスラーがもう1~2台組めそうなくらいの部品が積まれていた。
小熊は、背を向けて自分の原付を見ている礼子に話しかけた。
「お好み焼きが出来た、食べよう」
その一言で振り返った礼子は、既にソースがかけられ八等分に切られたお好み焼きを見て、目を輝かせる。
礼子は、学校でもよく昼休みに飲んでいるウィルキンソンの炭酸水を二瓶取り出した。キッチンの栓抜きで王冠を抜いて、ガラスの瓶をちゃぶ台に置く。
小熊と礼子はちゃぶ台を囲んで座り、お好み焼きと炭酸水の夕飯を食べ始めた。
いただきますの言葉と共にお好み焼きを食べ始める礼子。猫舌の小熊が食べるにはまだ少し熱い。小熊は自分の前に置かれた冷たい炭酸水の瓶に口をつけながら、礼子に聞いた。
「夏休み、どこに行ってたの?」
お好み焼きを頬張っていた礼子は小熊を見て、部屋の隅に置かれた自分のハスラーを見てから笑顔を浮かべ、近くて遠い所に行っていたという自分の夏について話し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます