第14話 考える

 アパートに帰った小熊は、夕飯の支度をした。

 いつもの下校コースとは違う寄り道で少し気疲れしたので、簡単な物で済ます。

 買い置きのパスタを茹でてレトルトのソースを和えたミートソースパスタ。

 テレビの無いアパートで、すぐに出来上がった夕食をラジオを聞きながら食べる。

 それほど頻繁に食べるわけでは無いのに、なぜか食べ飽きた味のする乾麺のパスタを食べながら、都内で母と暮らしていた時に食べた生パスタを思い出した。

 ラジオはつまらないJPOPを流す。曲の中に出てくる女の子が、たかが失恋で悩んでるのを聞いて無性に腹立たしくなる。


 礼子のバイクに付いていた箱。荷物が何も積めない小熊のカブを変えてくれるかもしれなかったボックスは、学校帰りに寄ったホームセンターで見つかったが、奨学金暮らしの小熊のお小遣いではほんの少し足りなかった。  

 三千円くらいのお金が財布や口座に無いわけでも無かったが、子供のように持ち金を全てはたくわけにもいかない。

 一人暮らしの小熊にとって、金が無くなることは飢えること。

 食費のことを考えていて、米よりもガソリンが小熊の頭に思い浮かんだ。


 パスタを食べ終わった小熊は風呂に入り、明日の予習を簡単に済ませて寝ようとしたが、妙に目が冴えて眠れない。

 今まで悔しい思いを抱きながら眠ったことが無いことも無いが、そんな時は落ち込む気持ちに安全弁が作動するように、布団の中で目を閉じると眠れることが多かった。

 今夜は妙にあのボックスが気になる。子供みたいに未練がましく欲しがるのはみっともない。買えないものは買えないと諦めようにも頭から離れない。

 眠ろうとしても眠れない。まるで自らの潜在意識が自分自身に訴えるように。

 考えろ、と。

 

 私はあのボックスが欲しいんじゃなく、カブに荷物が積めるようにしたい。箱、カゴ、あるいは袋、何かを収納出来る物をカブに加えたい。

 カブを買って以来、道の上で見かけると気になるようになった、他のカブのことを思い出す。通学路の途中にある一軒家に停めてある黄色いカブは、黒い特大の饅頭みたいな箱をつけていた。

 あれはきっと私が昼間に見たボックスより高価だろう。それにヘルメットを入れたら他に何も入らないというのはちょっと物足りない。

 学校の近くにある畑にいつも置いている、かなり旧そうな青いカブは、確か四角いカゴを荷台に固定していた。

 市場で野菜を入れたり、分別ゴミを入れるのに使うような黄色いプラスティクのカゴ。あれはどうだろうと思った。

 ちょっとカッコ悪いが容量は充分。それにあのカゴはあちこちで見かける。頼めば一つくらい譲ってくれるかもしれない。

 同じカゴなら強度も容量もありそうなスーパーの買い物カゴでもいいかもしれない。そう思った小熊は自分のアパートの風呂場を見た。

 洗濯物を入れるカゴがある。置き場所が悪く何度も蹴飛ばしたせいであちこちヒビが入ってる。これは使えない。

 ついさっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、色んな案が思い浮かぶ。明日の朝までの睡眠時間が心配になるくらい眠れない。ただ箱をどれにしようかと考えるだけで。

 いくらでも思いつきそうな想像を切り上げ。小熊は強引に眠った。

 

 翌朝、小熊はディバッグを背負い、相変わらず荷物の積めぬカブに乗った。

 面倒だとは思わなかった。この問題を自分の力で何とかすると決めたから。

 出来れば、タダで。 

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