第13話 ホームセンター
午後の授業を終えた小熊は、ディバッグとヘルメットバッグを肩にかけて席を立った。
教室を出る時に礼子の席の横を通る。
「また明日」
「うん」
いつのまにか礼子とは自然に言葉を交わすようになった。自分にそんな関係の人間が出来たということにも小熊は気付かない。
早歩きで駐輪場に向かった小熊は、自分のカブのエンジンをキック始動した。ヘルメットを被りグローブを着け、カブに跨る。
今日は学校帰りに行くところがあった。行かなきゃいけない所じゃなくて行きたい場所。
カブは小熊がどこかに行きたいと望んだ時にはそれを可能にしてくれる。小熊はカブをひと撫でしてから駐輪場を出た。
学校の前を通る県道を2kmほど走ったところにある交差点を右に曲がり、甲州街道に入る。昨日通った道は昨日よりほんの少しスムーズに走れる。
交差点から1km少々のところにある複合ショッピングセンター。
左のスーパーマーケットは昨日行ったばかり。食材がいつも行っていたコンビニより少し大きい程度のスーパーより安かったので、これからもちょくちょく行くことになるだろう。
右側のホームセンターには入ることなく帰った。生活用具で必要なものが無かったから。今はある。
礼子のハスラーについていたプラスティックの荷物箱。礼子のバイクで小熊が唯一羨ましいと思った物で、荷物を入れるカゴや箱の無いカブに必要としている物
スーパーマーケットとホームセンターが共有している、広大な駐車場。その奥にある駐輪場にカブを停めた小熊は、ヘルメットを脱いでヘルメットバッグに納めた。
このヘルメットもこれからは箱を開けて入れるだけになるかもしれない。スーパーマーケットでも食材をまとめて買って帰ることが出来る。
小熊はバッグを背負い直し、ホームセンターの中に入って行った
店内に置かれている商品の半分は、小熊にはよくわからない物だった。
何に使うのかわからない電動工具や農機具。ガーデニングに使う機材や材料。生活用品も置かれていて、そっちは小熊にも縁がありそうだが、今日は素通りして店内を歩き回る。
プラスティックの箱だからと衣装ケースなどが置かれた家具コーナーに行ってみたが、礼子の持っていたあの箱は無かった。
続いてここかな?と思った工具箱のコーナーにも無し。視野狭窄気味に店内を歩き回った小熊は、礼子にあの箱の商品名をもっとよく聞いていたら良かったかな、と少し後悔した。
礼子はどこのホームセンターにも置いてあるありふれた箱だと言ってたが、もしかしてこの山梨の田舎にあるホームセンターはどこにでもあるものが無いこともあるのかもしれない。
半ば諦め気味になった小熊は、今日はもう帰ろうかなと思い始めた。せっかく来たホームセンター、洗剤や歯磨きでも買って帰ろうかと思い店内を見回す。
生活に必要な物が揃ったホームセンター。小熊は自分の生活に新しい物が加わったことを思い出した。
バイク用品コーナー。今までの小熊には縁がなかったが、これからはあるかもしれない。世の中のバイクグッズというものを見物でもして行こうと売り場を探した。
バイク用品コーナーはカー用品、自転車用品コーナーに隣接した場所にあった。
端から見てみたが、オイル、バッテリー、洗車用具、電球、といった具合で、小熊のカブに必要なものなのかどうかもわからない。
今日はこれくらいでいいかな、と思った小熊の視線は、隣のカー用品売り場に注がれた。
自動車のレジャー用品を扱っているコーナー。キャリアやルーフボックス等の車につける積載器具。その隣に灰色の蓋のついた緑色の箱。小熊が探していた箱が見つかった。
小熊は小走りに近づく。幾つかのサイズ違いの並ぶ箱のうちの一つが、礼子のハスラーについてた物と同じ大きさで、カブの荷台にもちょうどいい。ヘルメットとグローブが充分な余裕をもって入りそうなサイズ。
手に取った小熊は、ボックスの置かれた棚に書かれた文字を見て、そっと箱を棚に戻した。
三千円。決して高価ではないけど、今の小熊にはその金額のものを衝動買いするだけの余裕は無かった。
結局、小熊は何も買うことなくホームセンターを出る。
相変わらず荷物も積めないカブに乗って家に帰った。
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