第2話 夏風

 バスは山がちの道を少し外れ、近くにあったローカル線の駅に停車していた。

 駅に到着する列車との待ち合わせでもあるのか、青年たちの乗るバスはしばらくロータリーの中に止まっている。

 その間、開け放たれたバスのドアからはもはや熱風としか言い表せない外気が吹き込んでくるが、車内からのこちらも負けず劣らずの強烈な冷風でそれを防いでいた。

「エネルギーの無駄遣いだな……」

「いや、まったく……」

 眉をひそめた青年と少女の声がその有様を見て頷きあっていた。

 冷風を生み出すために青年達が座っている席の後方ではエンジンが唸りを上げていることを考えるとなおさらそう思えてくる。

 せめて人が来るまで閉じて置いても良さそうなものではあるが、前方に座る運転席では熱風を感じないためか、そのような素振りはまるで無い。

 何気なくバスの乗車口を眺めていると、恰幅の良い中年の男と若干細身の男が乗り込んできたのだが、

「うげぇ……」

 その二人の装いを見て少女は思わず顔をしかめたような声を上げてしまった。

 この陽気には不釣り合い極まりない、上着着用の背広姿にネクタイを隙間無く首に締め付けた姿。本人たちだけでなく見ている方まで暑苦しくなりそうである。

 二人は席に座らず、前方のつり革が握れる位置に陣取ると運転手や回りの人に挨拶を交わしていた。

 挨拶をされた方も顔を知っているのか、あからさまなを浮かべて頭を下げている。

「……地元の有名人……ってところかな……?」

 恰幅の良い男の方はどことなく政治色を感じさせる立ち振る舞いをしているが、もう一人の男はどちらかといえば営業職に従事していそうな感じがする。

 青年の方は関わりたくないのか、素知らぬ顔で窓から駅の方を眺めていた。

 男たちが乗り込んで数分後、出発のアナウンスが流れ、乗車口のドアが閉まる。

 駅を出発すると、バスは再び先ほど走ってきた道に戻り、さらにその先へと向かう。

 ただ駅を出てからはまたもどの停留所も止まらず、『役場前』と称された停留所で停車し、先ほど乗り込んできた男たちと数人の乗客を降ろす。

 停留所から続く道の先には、これまた周囲の風景とは不釣り合いながあるのが見えた。

 辛うじて森に囲まれているため、少し離れれば見えなくなってしまうこともあり、気にならなくなってはいるようだが……

「下品とまでは言わんけど、垢抜けなさすぎる……」

「正直に言っちゃえば『成金』っぽいって」

「老朽化に伴う建て替え……というには、ちょいとグレードが上がりすぎている気がするからな……」

 確かに時代を超えて使用されていた建物を現代風に建て替えると急にイメージが変わってしまうのは仕方が無いところだが、それにしてもここはランクの上がり方が地域の身の丈に合っているとは到底思えない。

「『風』でも吹いたのかね……」

 『風が吹けば桶屋が儲かる』を短縮して揶揄する青年。

 乗客の少なくなったバスはそれまで走ってきた道を離れ、谷の中にある田園地域へと下り始める。

 日に照らされた道路からゆらゆらと陽炎かげろうが立ちのぼっているのが、後部座席に座る青年からも見えていた。

 その道路沿いに広がる森を横目に、しばらく停留所も無く、急カーブを何度も折り返しながら、下へ下へと向かうバス。

 そろそろ谷底に辿り着こうというところで、

『急ブレーキを掛けます、ご注意ください』

 という自動アナウンスが流れた。

「えっ!?」

 次の瞬間、急制動を掛けながらバスが横滑りを始め、対向車線をはみ出しながら斜めに滑走する。

 しかし下り坂でスピードが増していたこともあり、止まれないどころか、このままでは車体はバランスを崩し、横転しかねない。

 青年は車内をさっと素早く一別すると……

風爆呪ブラスト オブ シルフィー!」

 右腕を頭上に突きだして小さく『何か』を叫んだ。

 その瞬間、バスンっという大きな衝撃を伴って浮き上がろうとしていた車輪側に摩擦が戻り、バスは対向車線側のガードレールギリギリで止まった。

 青年は座席裏に備え付けてある手すりを素早く掴んで衝撃に耐えており、他の乗客も直前のアナウンスが功を奏したのか、座席から投げ出されることも無く、なんとか踏みとどまれたようである。

「あんたいま……」

「ちと乱暴だったが、バスの屋根に空圧を加えただけだ」

 青年は少女の問いに事も無げに頷いた。

 とはいえ、かなり大きな圧力を加えることには間違いないため、どうしても衝撃が避けられない。発動させる前に念のため車内を確認したのはそのためである。

「前よりも……大分使い慣れた?」

「ああ、とはいってもさすがに今の俺じゃ解放ブーストなしでギリだったかもしれんけどな……」

 降ろした自分の右手を見ながら呟く青年。

 ふと前を見ると車内の乗客が慌ただしく立ち上がり、何事かと運転手へと問い質そうとしているところであった。

 何かを避けるための急なハンドル操作は感じなかった。ただ急ブレーキを踏んだだけと思われるのだが、それだけならカーブでも無い限り簡単に横滑りすることは無さそうであるが……

「ねえ、見てあそこ……バスが通ってきた道路が光ってる……」

 少女の声は、小さな声で青年を促す。

 青年が改めてバスの後方に目をこらすと……

「逃げ水? ……にしてはハッキリし過ぎだな……」

 一見、熱せられた道路上に浮かび上がる蜃気楼現象の一種『逃げ水』に見えるが、揺らめきが少なすぎる。

 乗客を落ち着かせ、どこかに連絡を終えたらしい運転手が前方のドアから出て行く。

 運転手は外の様子を確認に向かったのだろう。

 気になった青年もそのドアから外に出て、光っている場所へと向かった。

 あたりは圧力すら感じるほどの熱気に包まれていた。あの冷涼な車内から出てきたこともあって、ことらさそれを感じさせられる。

 青年は輝いている場所へと近寄って行くが、おかしなことに逃げるはずの『逃げ水』が逃げること無く、そこにとどまっていた。

 一瞬水たまりとも思ったが、ここ数日この辺りで雨が降ったということはない。またこの天候では昨日今日の雨はすぐにでも干上がってしまうだろう。

「こ、これは一体……」

 先に到着していた運転手が愕然としてその逃げ水の前に立ち尽くしていた。

 道路一面に張られた鏡のようなもの……

「……氷……?」

 それは一センチメートルにも満たないほどの厚さであったが、触れた手から感じる冷気から間違いなく氷であった。

 既に溶け始めてはいるものの、それでもこの季節には到底有り得ない現象である。

 何らかの悪戯にしてはあまりにも手が掛かりすぎているが、自然現象としても不可解だ。

 運転手の方はまた状況の連絡をするのか、バスへと駆け戻って行ったが、青年の方はあたりを探りながら、氷床のまわりを歩いていた。

「こんな季節に道路が凍結なんて……ふつーに有り得ないわね……バスのスリップはこれが原因かしら」

「たぶんな、恐らく『逃げ水』かと思ったら、近づいても変化が無いから水たまりか何かだと思い直して急ブレーキ、しかしその実は『アイスバーン』でスリップ……といったところか……」

 道路が直線であったことも幸いではあった。カーブの途中だったりしたら、青年が『力』を行使しても間に合わなかっただろう。

 凍結は対面通行の一車線を完全に覆い、対向車線の半分くらいまで広がっていた。

「何か、感じるか?」

 青年は氷結した道路に手を置きながら、どこへとなく語りかける。

「う~ん……この氷自体からは何も感じ取れないわね……たぶんかなり微弱だからかもしれないけど……」

 青年の問いに少女の声が難しそうな声で返事した。

 氷から手を離し、立ち上がった青年がアイスバーンの端から端を見渡すと、妙なことに気が付く。

 凍結している範囲が扇状になっており、その扇のかなめの先には同様に氷結した森の下木かぼくがあった。

 比較的背の高い木々は覆い茂った葉に覆われており、特に異常は見受けられないが、その下に茂る下木だけが凍結している。

「森の中からか……」

「そう考えるのが普通よね、この場合は」

 青年は少女の言葉に頷くと、覆い茂った森の奥を見つめていた。


☆ ★ ☆


 青年が一度バスに戻ると、運転手が運転再開を乗客に説明しているところであった。

 どうやらこの少し先にこのバスの運行所があるらしく、そこまで徐行運転で向かい、そこから念のためバスを乗り換えてもらうとのことである。

 青年は座っていた座席に戻ると先ほどの衝撃で横倒しになっていた床の荷物を手に取り、再び座席に座ってバスの発車を待つ。

「……森の中、調べなくていいの?」

「ここでいきなり降りたりしたら怪しまれるだろう。次のバス停まで行って戻ってくるさ」

 運転手のアナウンスが流れ、バスがゆっくりとした速度で走り出す。

 先ほどまでの軽快なスピードはなりを潜め、路面の小石一つ一つを確認できるほどの速さでバスは進む。

 実際、運転手は目を皿のようにして、道路の状態を確認しながら運転していることだろう。

 好都合なことに次のバス停はすぐそばにあり、そこでバスを降りた青年はアスファルトと空からもたらされる熱気に挟まれながら、バスが走ってきた道を折り返す。

 十分ほど歩いたところで、先ほどの道路が氷結していた現場に辿り着く。

 氷は殆ど溶けてしまっており、既に縁のあたりは蒸発して水分すら残しておらず、日陰になっていた森の中のみ氷結していたのが分かる程度にまで状況証拠が消え去ろうとしていた。

「さてと、行ってみますかね……」

 青年は残っている凍り付いていた草と木々を掻き分けながら、森の中に足を踏み入れる。

 森の入り口こそ人が足を踏み入れた様子は無かったが、数メートル先に人の足で踏み固められて出来たとおぼしき林道を見つけた。

 その道からあたりを見渡してみるが、鬱蒼うっそうと茂った森が続いているだけである。

 真夏の昼間だというのに森の中は薄暗くひんやりとした空気に包まれているのだけは幸いであったが。

 凍結の跡を追って、足下の地面を探っていると……

「ねぇ! あそこに誰か倒れているみたいよ!」

 少女の声が何かを見つけて叫び声を上げるが、如何せん『声だけ』なのでどこを指しているのかよく分からない。

「毎度のことだが、具体的に言ってくれ」

「んっとに注文が多いわねぇ。えっと、今、あんたの右腕の位置、で、右手の中指の延長上にある木の根元あたりよ」

 青年はとっさに右腕を固定して、伝えられた方へ視線を向けると……

「人形……?」

 そこにうつぶせで倒れていた――いや、落ちていたのは人形と思わしき物体であった。

「そうね、人間にしては等身がおかしいし……。遠目からだと小さな子供かと思ったんだけど……」

 ただ、打ち棄てられた物というには着させられている服に目立った汚れは無いように見える。

 気になって青年が近寄ってみると、人形にしてはあまり飾り気の無い妙な服――強いて言えば、白装束だろう――を着せられていた。

 しかし、辺りの地面と草木の凍結具合からすると、この人形の位置から何かしらの冷気が放たれたように見えるのだが……

「騒ぎの張本人が落としていった……と考えるのが普通か?」

「う~ん、そうかもね……」

 青年はその落ちている人形に近寄ると、念のため、手近にあった長めの枝を拾い上げ、それで突っついてみる。

 何度か黒い髪に覆われている頭を軽く突っついてみるが何の反応はない。

「やっぱりただの人形かしらね……?」

「とりあえず、爆発物でも無い限り、危険はなさそうだな」

 青年はおもむろにその人形の襟を掴んで拾い上げようとしたが、

「人形にしてはやけに重いな……それに、妙にひんやりとしているし……」

 野ざらしにされて水分でも含んでいるのか、見かけよりも遙かに重さを感じる。

 しかも、あたりを凍り付かせた冷気を浴びたのか、タオルに撒いた氷嚢ひょうのう程度の冷気を帯びていた。

 まるで大人しい猫を掴み上げるかのようにひょいと掴み上げて、その人形の顔を覗き込む青年。

 この手の小さな人形にしてはしっかりと目鼻口は作られているが、その瞳はまるで眠っているかのように閉じており、その作りは人形らしくない。

「着せられている服がシンプルな割りに、結構ちゃんと作られているわね、この女の子の人形」

 少女の声に青年が頷きを返そうとした瞬間、不意に人形のその両目が開いた。

「へっ!?」

「なにっ?」

 その人形だったものは青年につり下げられたまま、首をひょこひょこと左右に振ってから、真正面から見つめていた青年の顔を凝視し……

 次の瞬間、寝ぼけ眼を見開くと顔を真っ赤にし、雷に撃たれたかのように体を硬直させたかと思いきや、間髪を入れず襟を引っ張ると、飛び跳ねるように青年の手から逃げ出す人形らしき物体。

 青年は襟を軽くつまんでいただけであったため、すぐに取り落としてしまったが、人形は背丈よりも数倍もある高さから見事に着地し、そのまま林道をダッシュで逃げようとする。

「ま、待ちなさいっ!」

 少女の声がとっさに引き留めるが、構わず人形は駆け出していた……のだが……

 着地とスタートダッシュまでは良かったものの、数歩も行かないうちにその足取りはよたよたと頼りなくなり、そしてつんのめるようにして『ぺたんっ』と再び土の上に平伏してしまうのだった。

 青年が駆け寄り、人形と思っていたものを――さすがに生きているものと分かったので、今度は両手で起こすようにして――地面から拾い上げる。

 両手に抱えて、その顔を見ると熱にうなされたかのように息が荒い。いくらなんでもこの短距離を全力疾走したためとは思えない様子に、

「この子……具合悪いんじゃ……?」

 少女の声が心配そうになる。

「人形じゃ無ければ、物の怪の類か……とりあえず、シル」

「ほいきた」

 シルと呼ばれた少女の声が返事を返すと同時に、青年の首から提げられていた翡翠色のペンダントから同じ色の光を放ち始める。

 一瞬の後、填め込まれていた翡翠の石が外枠から離れ、ふわふわと浮かびながら淡い輝きを放ち、その中から小さな人の形を作り出す。

 エメラルドグリーンの光が消えた後、そこに居たのは――青年が抱えている物の怪よりもさらに小さな桃色髪をなびかせた妖精であった。

「それじゃ、大急ぎで……。む、むむむむむむぅ……」

 妖精の姿を取った少女の声ことシルは、その姿を現すと、なにやら念を込めるように難しい顔を見せる。

 空中で身を一回りさせ、目を閉じながらもあたりを探るような仕草をわずかな時間漂わせると――

「あっ、見つけたっ!」

 ぱっと顔を上げ、シルは森の奥へと続く道の先を指差した。

「うし、案内よろしく」

「りょーかい、こっちよ、こっち」

 要請の言葉に頷き返した青年を導くように道の先へと背にある羽より燐光を放ちながら飛び立つ妖精。

 両手に物の怪を抱えた青年はその光に従って森の奥へと足を踏み入れて行く。


 川岸の岩に腰を据え、青年は目の前をさらさらと流れる渓流のせせらぎに耳を傾けていた。

 森に囲まれたこの清流は人の手が入っている様子も無く、ありのままの姿を晒している。

 その両膝の上には先ほど拾った正体不明の白装束の物の怪を乗せているが、その額には水で濡らしたタオルが置かれていた。

「大分、顔色が良くなってきたみたいね……」

 青年の肩にちょこんと乗っていたシルが覗き込むようにして、物の怪を見下ろしている。

 物の怪からは、先ほどまで見せていた熱にでもうなされたような様子はなくなり、静かに眠っているように見えた。

 青年は物の怪の額にかけてあるタオルを川の流れに晒すと、適度に水を絞ってから再びその額に乗せる。

「それにしても、コイツは一体何なんだろうな……」

 物の怪のプニプニとした柔らかな弾力が返ってくる頬を人差し指で軽く突っつきながら呟く青年。

 和人形とも思えるほど黒く長い髪と白装束、真珠のような肌をした手足の形もしっかりしており、確かに遠目に見れば小さな子供に見えないことも無い。

 ただ気になったのはその体温。生き物とは思えないほど冷たい肌をしており、ジーパン越しにもその冷気を感じ取ることが出来るくらいであった。

 凍傷になるほど大げさな温度ではないが、長らく触れていると痺れが来るようになるかも知れない。

「これだけ冷たい肌しているのに、頭は熱を上げているとか……確かに不自然な存在ものよね……」

 青年の肩から降りて、シルもその小さな手に触れながら率直な感想を述べる。

「まあ、しばらくすればまた目を覚ますだろうさ……っと……」

 妖精との会話で目を覚ましたのか、白装束の物の怪が先ほどとは違いうっすらと目を開き始めた。

「あ、起きたみたいね。やっほーー。大丈夫?」

 やたらとフレンドリーに声を掛ける妖精シル。

 自分よりも小さい姿をしている妖精からとはいえ、突然かけられたその声に身をびくつかせると……

「お……」

「あらら……」

 先ほどのような脱兎のごとし動きは見せないものの、額のタオルを落としながら青年の膝から飛び降りると、トコトコとした足取りで近くの木の陰に隠れてしまう。

「あちゃぁ~、すっかり警戒されちゃっているいるわねぇ……」

「まあ、自分よりも大きな人間が近くに居れば無理も無いだろうがな」

 それでも助けてもらった恩義は感じているのか、顔を半分ほどこちらに見せて木の陰からこちらの様子を伺っているようである。

 そして……

「……………………」

 聞き取れないほどか細い声で何かを呟いたように見えた。

 その様子に青年は少し首を傾げたが、距離の問題では無くそもそも人には聞こえない声のように思える。

「うん、ここはあたしに任せてよ」

 妖精は木に寄り添うようにしている物の怪を怯えさせないようにゆっくりと近寄った。

 自分よりも小さな存在である妖精、そして同じ物の怪の類だと感じたのか、逃げる素振りは見せず、近寄ってきたシルに興味を示し、手を伸ばしてくる。

「初めまして、あたしの名前はシルフィード=G=アストライア。見た目通り、妖精だと思ってくれて構わないわ。あっちの胡散臭そうな怪しい男はあたしの旅の連れ」

 妖精の自己紹介とおざなりな――しかも誤解を招く――青年の紹介に震えた様子を見せず、物の怪は頷くと、

「……………………!」

 青年には聞き取れない声でシルに何かを呟いていた。

「うんと……とりあえず『助けて頂いてありがとうございました』って言っているわよ」

「この川を見つけたのはそこにいる妖精のシルだ。俺は大したことはしとらん……と伝えてくれ」

 まるで通訳を頼むような台詞を述べる青年。

「あ、別にこちらの言葉が伝わっていないわけじゃないみたいよ。単にこの子の声が小さすぎてあんたには聞こえていないだけ」

「そうなのか……」

 そのあと二・三言葉を交わしたように見えたシルだったが、

「ふむふむ……えぇぇぇぇぇ……」

 唐突に驚嘆の声を上げた。

「どうかしたのか?」

 何かを聞かされたシルは青年のところまで飛んで戻り、

「この子……『雪女』だって……」

 と……

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雪と風と彼方の物語 風野旅人 @tabito_kazeno

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