魔性のサクラメント

下駄迅兵衛

第1話 プロローグ


 機械人形が、最先端の技術だったとき、まだそれが、一つ目の赴任先で稼働していたとき、その家の子供が泣きながら帰ってきた。小学校低学年の、小さな女の子だ。話を聞くと、機械人形が歌うことを、音楽の教師が馬鹿にしたのだという。

「あんなものはニセモノだって、心がこもってないって、そう言うの」

 機械人形は介護や医療のために開発されたものだ。介護対象が眠れないとき、緊張しているとき、歌う機能がある。

 その家の子供にとっては、それは安らぎを意味していた。祖母の不平不満、叫び声が、夜になるとその子を怖がらせた。だが、機械人形が来てから、祖母は穏やかになった。

 女の子は不思議に思い、夜中、祖母の部屋をのぞいた。

 機械人形が歌っていた。

 そして祖母が、まるで自分と同じような、小さな女の子のような顔で、眠っていた。

 その歌を馬鹿にされたのだ。

 家で、彼にしがみついて泣いた。抱きあげられ、柔らかく角のない胸に落ち着くと、彼女はなんだかイライラし始め、自分の部屋にこもった。

 機械人形の胸から、祖母のにおいがしたからだ。

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魔性のサクラメント 下駄迅兵衛 @jinbey

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