第三章
第一部
帰還と報告
「おい、女王陛下がご帰還なされたぞ! 門を開けよ!!」
そんな声が響き渡った。
城にいた様々な者達が城門付近に集まる。
たくさんの目が城門に向けられる中、開かれた門より姿を現したのは、火の国の女王であるアーデントと一人の見知らぬ少年のみ。
「他の者達はどうしたんだ」
「一人じゃなかっただろう」
「あのそばにいるのは誰かしら?」
様々な呟きがあちらこちらから聞こえる。
火王は静かに目を閉じ小さく息をつくと、静かに口にした。
「――他の騎士たちは、皆……死んだ」
その言葉に、場が水を打ったかのように静まり返る。
「死んだんだ。一人残らず、全員、闇の者達に殺された」
ざわめきが走った。
「そんな馬鹿な。全員なんて、そんなの有り得ない……」
震える声でそう言う者もいれば。
「闇が、本当に……いた、のか……」
青ざめた顔でそう言う者。
そして中には、死んだ友に、あるいは死んだ恋人に、涙を流す者もいる。
城は愴然とした空気に包まれた。
そんな中、一人冷めた目でその光景を見つめる少年の姿。
それはどこか恐ろしいもののように感じられた。
暫くして、一人の男が火王の前に歩み出て彼女に言う。
「ですが、女王様がご無事で何よりでございます。貴女様のことです、これから何をするのかはもうお考えなのでございましょう? まずはその少年のことについてお聞かせください」
その男はそう言うとアルフォンスに目を向けた。
どこか鋭い眼差しである。
アルフォンスはあの読めない笑顔でそれを受け止めた。
「アルフォンス・レンフィールドだ。我々騎士団に力を貸してくれた。こいつのおかげで私が無事だとも言えよう」
火王がそう言うと、男は彼女の考えを探るように目を細めて問う。
「それで。どうするおつもりですか?」
「今回の闘いで多くの騎士たちを失い、今や【紅蓮の聖騎士団】は壊滅寸前だ。そこで、こいつを騎士団に入団させることにした」
それを聞くと男は眉間に皺を寄せ、辺りには先ほどとは別のざわめきが広がった。
それもそのはず。
本来、騎士団に入団することができるのは20歳以上の男のみ。
これは火の国に限られたことではなく、全ての国において定められているものである。
その理由はまだ成人にも満たない者にとって騎士団はあまりにも危険な場所だからだ。
命に関わる場所。子供が行くべきところではない。
誰もがわかることだろう。
至極当然のことである。
はたから見ればまだ16歳、多く見積もっても18歳ほどにしか見えないアルフォンスが騎士団に入団するなど異例なのだ。
「女王様、それは本気ですか。私の目には、まだ子供のように見えるのですが」
「本気だ」
火王がそう答えたものの、その男を含めほとんどの者たちは納得していない。
「そんなに不満なら、見せたほうが早いんじゃない?」
アルフォンスが言った。
「何をだ」
男がそう問うと、アルフォンスは剣の柄に手をかけ答える。
「……ボクがそんなに弱くないってことを、さ」
そう言うと、彼の姿は一瞬にして消えた。
そして次の瞬間、一筋の閃光が――
「やめろ!」
火王の声が響いたかと思えば、その直後、どこからか何かが刺さる音といくつかの悲鳴が聞こえ、そして男の背後にアルフォンスが現れる。
彼の持つ剣の刃が男の首の真横にあった。
「……なんで止めんのー。別に悪いことじゃないでしょ? 殺すんじゃないんだし」
軽い調子で残念そうにそう言ったアルフォンスに、火王は呆れたように言う。
「お前に敵う者などこの場にはいないだろう。私でさえ勝てる自信がない」
その言葉に誰もが耳を疑った。
火王自身が、自分でさえ勝てないと言ったのだ。
彼女はこの国で一番の強さを誇る。
まさに無敵という存在。
そんな彼女が、まだ20にも満たない少年に勝てないと言った。
それだけでアルフォンスの強さは知れたようなもの。
そしてそれは騎士団に入るには十分すぎるくらいの強さだ。
つまり、認めざるを得ない。
「早く剣を下ろせ。そして投げたナイフも回収しろ」
「はいはい」
アルフォンスは男に向けていた剣を下ろし鞘に納める。
「ナイフ、だと……?」
男が辺りを見回すと、三ヶ所ほど誰もいない空いた空間ができていることに気付いた。
そこの中心には一本のナイフ。
「いつの間にっ……」
一本一本ナイフを回収するアルフォンスを、周囲にいる者たちが興味深げに見つめる。
その中には恐怖に近いものを感じている者もいた。
「わかっただろう。彼は騎士団には必要な存在だ。今ではその若さなどにこだわるような余裕もない」
「…………」
火王の言葉に反論する者はもう誰もいない。
「アルフォンス、そろそろフードを取れ。それのせいでお前に不信感を抱いている者もいるだろう」
「あー、そっか」
ナイフを回収し終えたアルフォンスはそれをローブの中にしまう。
そして火王の言われた通り今までずっと被っていたフードを脱ぐと、周囲にいる者たちを見回し、最後に火王の側にいる男を見て言った。
「ま、よろしく」
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