アルフォンス・レンフィールド

『……もうっておいたよ。――“全員”、ね』



その言葉通り、辺り一面死骸ばかりだった。

騎士も、闇の者も全員。

生きている者は火神と少年のみと言っても過言ではないほどだ。



「――お前、私たちを救いにきた訳ではなかったのだな」


「ちゃんと救いにきたんですよ、ボクは」


「なら何故、騎士たちも皆死んでいるんだ」


「彼らは闇と闘って死んだんです」


「…………」



その言葉が嘘か真か。

火神には見定めることはできなかった。


彼もまた、あの少年と同じように、感情をよむことができないからだ。



「──そろそろ、かな」



アルフォンスが呟く。


瞬間。



「……なん、だと──?」



──闇の者達の死骸が砂となり、やがて黒煙と化してその姿を跡形も無く消した。



「どうして――――」


火王はただ呆然とするしかない。


そんな彼女を横目に、アルフォンスは目の前に広がる騎士たちの残骸を見、口にした。


「まるで、騎士同士で闘ってたみたいだね。――“味方同士”で、さ」


その表情は変わらずの笑みを浮かべている。

しかしどこか、残虐なものに見えた。


その光景を、喜んでいるようだった。



アルフォンスは剣を腰にさしていた鞘にしまい、そしてふと歩き出す。

その時、火王は初めて気付いた。

アルフォンスが持つその剣は、それ。

ドラゴンが変化したものではないのだ。

この世界では必ず、ドラゴンと契約し、相棒パートナーとなったそのドラゴンが変化した剣で闘う。

しかし彼は、それを持っていない。


はそんな彼を訝しく思い、思わず凝視した。


黒い無地のローブを羽織りフードを目深に被るその姿はあの少年に似ている。

少し強い風吹き、彼の被るフードを外した。

露わになった少し長めの髪は緋色、そしてどこか虚ろに見える朱色の瞳も、闇の少年とは全く別ものだ。


もし、魔法で姿を偽っているとしたら――。


そんなことも火神は考えたが、すぐにそれはないと改めた。

神に魔法は通じない。

すぐに見破ることができるのだから。


なら――


「お前、名は? そして、何者なんだ。何を……目的としている……?」



アルフォンスは、胸から血を流し目を開けたまま死んでいる騎士の横にしゃがみ込んだ。

そしてその血に触れ、血塗れた手を月にかざす。


「ボクの名前は、アルフォンス・レンフィールド――」


血が彼の指を伝い落ちていく――。



「――――この世界を恨み、憎む者。……復讐者」



指を伝う血のしずくは、やがて彼の手を離れ――。



「目的、は――」



血の滴は、死んだ騎士の目元に落ちた――。






「――――この世界の終焉」






アルフォンスの笑みが深くなり、僅かに目が見開かれる。

その顔が一瞬、あの少年の笑みと重なった。



騎士の目元に落ちた血の滴は、その頬を伝い、“血の涙”と化す――。




アルフォンスの浮かべた酷く残虐なその笑みは、まるで悪魔のようだった――――……






ふとその笑みが消え、アルフォンスは立ち上がる。


「――そーんな闇について、よく知る者だよ」


おどけてそう言い振り向いた彼の顔は、あの感情のよめない笑みに戻っていた。

まるで先ほどまでの残虐な笑みが嘘ではないかと思えるほどである。


「アルフォンス……闇を、知る者……」


火神は彼の言ったことを繰り返すように小さく呟いた。


「そ。もういい? 帰りたいんだけど」


「…………」


「…………」


「…………」


「――つか帰るわ」


フードを再び目深に被り、アルフォンスは背を向ける。

瞬間、彼の顔から笑みが消えた。

そして夜の闇の中に消えるかのように、静かに歩き出す。



「――待て」




火神に呼び止められたアルフォンスは、小さく溜め息をつき歩みを止めた。

しかし歩みを止めただけで、振り返ることはない。


火神は再び黙りこむ。


そして沈黙が二人を包んだ。



やがて彼女が口にした言葉。



それは――



「我が国の騎士団――【紅蓮の聖騎士団】に入る気はないか」




の口が三日月に歪んだ――――。






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