闇の少年とアルフォンス
【紅蓮の聖騎士団】が動きだし、街に警備を張った頃。
闇の少年はこの世界のどこでもない、狭間の世界にいた。
「さてと。あっちも準備ができたようだし、ボク達も殺りにいきますか」
少年の言葉に俯きがちだった闇の者達が徐々に顔をあげる。
そんな彼らに少年は笑みを浮かべながら言った。
「──そのたまった復讐心を、ここではらすといいよ」
そして少年はふと笑みを消すと、静かに目をつむる。
だがすぐに目を見開いた。
「さぁ──行こうか」
「お待たせしました、【紅蓮の聖騎士団】の皆さん」
少年がそう声を響かせた瞬間、先ほどまで緩んでいた騎士達の顔が一気に引き締まる。
そうして目に映る少年の姿に恐怖した。
いくつかの質問を震える声で投げかけ、少年はそれに飄々として答える。
すると──
「お前が“闇”……【
どこからか現れた女がそう少年に問いかけた。
その女は長い紅の髪をなびかせ、深緑の瞳で少年を睨みつけるかのように見つめている。
その目はじっと、少年の中の何かを読み取ろうとしているかのようだった。
(……もしかして、彼女が?)
『あぁ、そうだ。あの女が、火の国【レッドフォーリア】の王にして、この世界【テウルギア】の神の1人。【火王・アーデント=レッドフォード】、またの名を──心を司る神、火ノ神【火神・アーデンティリアス】』
(──長ったらしい説明をどうもありがとう。ちなみに聞くけど、もちろん僕の感情は伝わってないよね?)
『そこは安心しろ。神であっても俺にはかなわん』
(それはよかった)
少年は火神に笑みを向ける。
だがその目はどこか冷めていて、彼女の姿を忘れまいとするようにじっと見つめていた。
「そうだよ。女王様直々にご挨拶とは、光栄だね」
心が読めないせいか、火神は訝しむように目を細める。
「お前が本当に“闇”だとしよう。だがお前一人に何ができる? 例え、あの【
少年の表情が一瞬固まった。
「随分となめられてるなぁ……」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
そうして、僅かに声を大きくし言った。
「誰が、“一人”だって?」
その言葉を合図に彼の背後に闇の者達が現れる。
その圧倒的な数に、騎士たちがざわめきだし火神も眉間に皺を寄せた。
「何故……そんなに、闇が……」
騎士の一人が怯えたように呟く。
その震えた声に少年は笑みを僅かに深めた。
「理由なんて必要ないでしょ? ボクはただ、キミ達と闘えればそれでいいんだ」
そう答えると、彼は街全体に響き渡るように声を響かせる。
「さぁ、始めよう……神々への復讐劇を――――!!」
――その頃。
「始まった、ね」
闇と火の国の騎士団が闘う場所から離れた、ある一本の木の上に佇む一つの影。
「さぁて。お手並み拝見といこうか」
漆黒の髪に漆黒の瞳。――そう、闇の少年である。
……と言っても、彼は分身だ。
なぜ分身がここにいるのか、それはこれから起きる悲劇のため。
少年は静かに目を閉じる。
すると漆黒の髪が徐々に色を変え、鮮やかな緋色に染まった。
目を開ければ、その瞳は燃え盛る炎のような朱色に変わっている。
腰にさしていた
しかしそれだけではない。
少し強めの風が吹き、少年の着ているローブが翻る。
その時、月の光に反射するいくつもの光があった。
それはローブの中に隠し持たれた小さなナイフ。
そのナイフは全て、邪神竜が変化した姿。
分身の魔法を利用したものだ。
少年はローブについている帽子を目深に被り姿を隠した。
「――罪なる者にはそれ相応の罰を」
少年の眼が妖しく光り、口が三日月に歪んだ――――。
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